第9話 炎の襲撃(5)
わずかに視線を下げていて良かったと安堵しながら、王太子の胸元の飾りに視点を定める。鮮やかな青の宝玉を飾る赤と緑のリボンが目に飛び込んだ。
「顔を上げよ」
さきほど遮られた言葉は、今度こそルリアージェの耳に届いた。
小さく一礼して顔を上げるが、やはり目を覗き込むような無作法は出来ない。そんな彼女に手を伸ばし、王太子は赤い右手を躊躇いなく掴んだ。
痛みはないが、顔を顰めてしまう。
「弟を助けてくれたことに礼を言う……すまない、痛むのか?」
ルリアージェの表情を誤解した王太子の言葉に、首を横に振って右手を引いた。赤い手を恥じるように背後に隠す。
「発言を許す」
直接返答せよと命じる青年に、ルリアージェはようやく声を出した。
「お気遣い感謝いたします。痛みはございませんが、王太子殿下のお手が汚れてしまいますゆえ」
「気にするな、いや…すぐに湯浴みと治療を手配しよう」
警戒から態度が反転した王太子の言葉に、ライオットが口を挟んだ。
「ケガは自分で治したようですから、湯浴みを。ドレスは私が手配しましょう」
「そうか、それならば良かった。おい、湯浴みの手配を急げ!」
兄弟であっという間に決めてしまった湯浴みと着替えに、ルリアージェは困ったような顔で眉尻を下げる。
だが王族とは本来身勝手な言動が多いのだ。下手に遠慮して機嫌を損ねるのも……と考えて、妙に王族や貴族に理解がある自分に疑問が浮かんだ。
貴族じゃないのは確かなのに、王族に接することに慣れている。どのような立ち位置だったのか。思い出せない過去に首を傾げる間に、準備ができた湯殿へと侍女に案内された。
小さなバスタブを想像していたが、火山が近いアスターレンは温泉が湧き出る。観光名所である温泉を王族が見過ごす筈もなく、王宮には源泉が引かれた。
あとで考えればいいか。
基本的に楽天的なのか。
深く考えることなく、10人は入れそうな湯殿でルリアージェは頬を緩めた。
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