しっくりこない自分の名前。
てくの
僕は誰だったらいいのか。
名前とは一体なんだろうか。
人や物に対する名称、らしい。
まあそれは分かる。ただ、親には申し訳ないが僕はいつも自分の名前にどこかしっくり来なかった。特にそれは入学式だったり卒業式だったり、身分証明書などに書いてある自分の名前、それをじっくりみる時に起こる。要するに、「自分自身」と自分の「名前」とが頭の中で同期していないのだ、結び付いていないのだ。ここで僕はこんなことを考える。
そもそも名前とは大事なのか?
魔法が出てくる物語では本名はその人を支配出来るなどと言った設定があるがもちろんこの世界にはない。それはそれで面白いかもしれないし名前は必要だろうが、きっとそんな世界は今の世界よりもずっとギスギスしてて、それでいて生き辛いだろう。
現代のこの世界において個人情報、と言う点では本名をネットで知られるのは一定の危険性はある。しかし、それは他の情報と合わさった時であり本名そのものでは同姓同名の人は他に居る事がほとんどなのでほぼ意味をなさないだろう。名前なんてその程度のものなのだ。
それに、ネット上ではそれぞれ各々が考えたネット用の名前を使って過ごしている。名前が与えられているというのに。多分本名じゃなくても自分と関わり合いのある狭い世界で誰か識別出来ればいいのだ。リスクヘッジにもなる。
そしてここが1番肝心な点なのだが、なぜか僕はこのネット用の名前がずっと使っている本名よりも自分との結び付きが強いと感じるようになっていた。二十数年とか使ってる本名と比べて二、三年しか使っていないネット用の名前なのにもかかわらず、だ。
自分で考えて付けたからだろうか? 単に過ごしている時間が長く比較的濃密だったからだろうか?
ここで注意しておきたいのは、別に自分はそこまで現実世界において不遇だったとは思わない。とても幸せ、という訳ではなかったがそこまで不幸というわけでもなかった。今までの日々は一般的な物だったはずだ。
だから僕は上にも書いた通り狭い世界でそれが誰か識別出来れば名前なんてなんでもいいんじゃないかと思い始めている。認識するため以外にそこまで重要ではないと。まあ名前は認識するためにあるんだが。結局驚きの堂々巡りである。
「ねぇ、コーヒー入れたよ」
そんな呼びかけが僕を思考の海から引き上げる。抗うことは許されないらしい。さながら地引網にでも捕まった魚のようだ。まだ海底にいたいというのに。やれやれ。
「ほら、ハンス。ちょっとした軽食も作ったから起きようね」
どうやら僕は自分にしっくりこない本名とは言えこうやって彼女に呼ばれるのはまんざらでもないようなのであながち全くの無駄と言うわけでもないのだろう。
しっくりこない自分の名前。 てくの @techno
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます