最後の夏
勝利だギューちゃん
第1話
夏休みのある日、居間でくつろいでいたら、玄関のベルが鳴った。
ドアを開ける。
「ごきげんよう、良(りょう)。夏祭りに行こう」
そこには、クラスメイトで幼馴染の、浜野渚(はまの なぎさ)がいた。
「間に合ってます」
玄関のドアを閉めようとしたが、足で挟まれた。
「待て」
「どうして、俺を誘う」
「幼馴染だから」
「それだけか?」
「うん」
「パス」
俺は強引にドアを閉めた。
俺は夏は嫌いだ。暑いのが嫌いだ。
暑い夏はクーラーのきいた部屋で、テレビを見る。
これに限る。
スマホがなった。
「良、夏祭りに行こう」
「友達誘えよ」
「やだ、良がいいんだもん」
しょうがないな・・・
「じゃあ、夕方からなら・・・」
「わかった。5時に迎えに行くね」
「ああ」
約束通り、5時に渚が迎えに来た。
「エヘヘ。どうこの浴衣」
「ああ、蛾(が)の模様が、渋いな」
「蛾じゃない、蝶よ、蝶」
「同じだろうが・・・」
「全然違う」
フランス語では、パピヨンでまとめられているが、まあ折れよう・・・
「で、どうしたんだ?急に」
「今日は、花火大会でしょ?」
「あっ、そうか・・・」
この辺りの花火大会は全国でも有名だ・・・
毎年人ごみでごった返す。
だが、地元の者でも殆ど知らない、穴場を俺たちは知っている。
そこなら、特等席で鑑賞できる。
花火までは、まだ時間がある。
それまでは、屋台を回ろう。
「良?」
「何?」
「浴衣は?」
「持ってない」
男の浴衣は、女に比べて地味・・・
なぜだろう・・
渚は大食いだ。
その割には太らないので、不思議なものだ・・・
「良」
「今度は何?」
「おごってくれるよね?」
「なんで俺が?」
「ケチ」
まっ、いっか少しくらいなら奢ろう・・・
たこ焼き、イカ焼き、焼きそば、お好み焼き
フランクフルト、わたがし、かき氷、綿あめ、リンゴ飴・・・
一通り回った・・・
「金魚すくいはいいのか?」
「うん」
「どうして?」
「美味しくない」
「食べた事あるのか?」
「うん」
ある意味チャレンジャーな、渚であった・・・
夜も9時になりそうになる。
「渚、そろそろ行こうか」
「どこへ?」
「どこへって、花火大会だろ」
「そっか、忘れてた」
あのな・・・
「良、行こう」
「ああ」
渚に手を握られて進む。
何だかいいな・・・こういうのも・・・
穴場についた・・・
地元の人は数人いるが、やはり知られていない特等席だ・・・
のんびりと観賞できる・・・
ドーン
花火大会が始まった・・・
色とりどりの花火が打ち上げられる・・・
渚は腕をからめてきた・・・
自然の成り行きだろう・・・
俺はこの時が永遠に続くことを願った・・・
「渚、来年も来ような・・・」
そう思い横を向けば、渚の姿はなかった・・・
「渚、渚、渚」
いくら呼んでも答えがない・・・
いくら探してもみつからない・・・
仕方なく、家に帰る事にした・・・
家に着くと、両親が悲しそうな顔をしていた・・・
そして、俺の肩に手をやり、真剣な表情で口を開いた・・・
「渚が今朝、事故で他界した」と・・・
最後の夏 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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