第4話『新釈走れメロス他四篇』森見登美彦
「走れメロス」「山月記」「藪の中」……など名だたる名作の舞台を現代の京都へ置き換え、さらに主人公を腐れ大学生に変えて描かれた物語です。パロディみたいなものかな?
とにかく森見さんの描く愛すべき阿呆な大学生がたくさん出てきて面白かったです。声に出して笑いかけるシーンもありました。
「山月記」では孤高の執筆活動に勤しんでいた大学生が天狗となって、大文字山で訪れる人間へ遍く唾を吐く。
天狗となってしまった彼の末路は悲しげでしたが、それでもどこかユーモアのある作品でした。
あと彼こと斎藤秀太郎の言い回しが地味に好きです(笑)
卒業する後輩には「勝手に卒業するがいい」
自分(斎藤秀太郎)を好きだと言う女性には、「癒してどうするこの俺を」
その女性がいろいろあって斎藤の友人と付き合うことになった時には、
「勝手に幸せになるがいい」
ちょっと言い過ぎかもしれませんが、こんなセリフの一つ一つが、この斎藤秀太郎と言う男を表しているような気がしてなりません。
「藪の中」では映画サークルで製作されたある映画にまつわることを、様々な人の視点から語ります。
原作の芥川龍之介の「藪の中」は、黒澤明監督の「羅生門」の方で見ましたが、同じく「藪の中」をもとにした森見版「藪の中」も、同じ場面のはずなのにそれぞれが語る内容が食い違っています。結局真実は藪の中……ってことですね。でも私には鵜山くんが一番わかりませんでした。
「走れメロス」では、友人を人質に取られた主人公が、友人との信頼を貫くために、逆に逃げに逃げまくります。
いろいろあって主人公の芽野史郎は、学園祭のステージで桃色ブリーフ姿で青きドナウの曲に合わせて踊り狂うという小っ恥ずかしい刑に処されます。それを披露する夕方までには戻ると言って、無二の親友・芹名を人質に出し、芽野は逃げるのです。
タイトルになるだけあってめっちゃくちゃ面白かったです。阿呆らしさ全開です!これぞ森見作品て感じ。電車の中や静かな図書館で読んじゃダメです。笑います。
「桜の森の満開の下」では、不思議な女によって小説家になる夢を叶えたある男の話。
美しいけれどどこか不気味。そんな雰囲気をまとったお話でした。人っ子一人いない満開の桜の下。主人公の男はそれがたまらなく怖いと感じます。実際どんな気持ちがするんでしょう……。綺麗だけど、綺麗すぎて怖いって感じでしょうか。
「百物語」では、とある夏の日に開かれる百物語のお話。
日本の夏の感じが出てきて結構好きでした。
斎藤秀太郎を始め、他の話で出てきたメンバーが登場します。オールスター集合ですね。
百物語を主催した鹿島さんが最後まで謎過ぎました……。
この五つの作品のうち、元ネタの作品を読んだことがあったのは、「山月記」「走れメロス」だけでした。
文章も元ネタの方をオマージュしている部分もあり、そこも楽しめました。
「桜の森の満開の下」と「百物語」は、元ネタがどんな話か知りません。原作も読んで比較してみたら、また違った楽しみかたが味わえそうです。
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