第12話 異形
「ペコ・・・」
ディンブラの背につかまりながら考える。
異形の存在、それがどういったものか。そしてその姿になってしまったペコを――――
「クリス、そのまま落ち着いて聞け」
焦燥感のあるディンブラの声。
何かが起きてしまったのだと強く目を瞑って次の言葉に耐えようとする。
「どちらかを選ぶんだ。店に戻り、すべてを忘れるか。このまま進み、すべてを見届けるか」
「私に・・・私に出来ることはないの?」
「・・・・・・恐らく、ない」
リデルと比べれば圧倒的に短い時間。でも既に彼女がいない生活と全てを投げうってでも
彼女を救いたい気持ちを天秤に乗せている自分がいた。
そんなことをしている時点で、気持ちなんか決まっているくせに。
「行く。行って、守る」
「もう一度言う。お前に出来ることは恐らく――」
「それでも!それでも・・・ペコが待っているなら。私で何か起こせるかもしれないなら・・・!」
「・・・・・・」
「私がペコの帰る家になる。安心して笑顔を浮かべられる場所になる!」
「・・・知らんぞ」
ディンブラの翼が再び前へと進む、先ほどよりも風の圧が強いのは本気で向かってくれている
証拠だろう。
―――――――――――――――
「降りるぞ、掴まっていろ」
既に街の中へと入っているのだろう。
そこら中から人々の悲鳴が聞こえ、街が混乱しているのが分かる。
「・・・よしクリス、まずはその目を開け。話はそれからだ」
無事に街に降りることが出来たのだろう、私はおそるおそる目を開ける。
「・・・・・・ッ!」
最初に見えたのは大きな翼だった。すべての天使の羽を集めても足りないくらい大きな翼、のような
「紋様」。そう、紋様だ。
そして、その背中はお風呂で見たあの――――
「ペ・・・コ・・・?」
巨大な背中が子供のようにビクッと震える。
間違いない、あれは――――――
「だめだ。近づいてはならない」
近づこうと一歩を生み出した私の手をディンブラが掴む。
「でも!」
「言い方を変えよう。不用意に近づいて彼女を動かしてはいけない。彼女が動くたび、この街は壊れていくだろう」
次の一歩を踏み出そうとした足が止まる。
「解決法を見つけたいならまずは――――――」
「その必要はない」
大気が揺れた。先ほどまでなかった威圧感が後ろから突如現れる。
「プリンシパリティ様・・・!」
横でディンブラが慌てて膝をつく。
「やはりか。忌々しいグレゴリの子よ」
「グレゴリ・・・?」
「あやつは天から堕ちた者、堕天使と人間の間に生まれた忌み子、ネフィリムだ」
「それって・・・」
伝承 堕天使の卵。その話の通りであるとするなら――――いや、違う。
「例えあの伝承の通りであったとしても、ペコは違います」
「なに?」
「私は知っています。彼女が、ペコが私達と暮らしていた日々を。純粋で、ちょっと口下手だけど無邪気にいろいろなことに興味を持ってくれている事を。ペコは災厄なんかじゃない。彼女こそこの街で、幸せになるべき子なんです!」
「人の子よ、その意志には賞賛を送ろう。しかしだな、ネフィリムになった者、それは卵の殻を割り出てきた雛鳥と同じ。殻の中に戻ることも出来なければそのまま成長していく他無い。ならば心芽生えるその前に刈り取るのがせめてもの慈悲というものだろう」
そう言うが否やプリンシパリティは近くの天使、ディンブラへと命令した。
「ディンブラよ、刈れ」
「プリンシパリティ様、それは―――」
「それは、可能性を試してからでも遅くないでしょう。プリンシパリティ様」
緊迫した空気の中、凛とした声が響く。
「ノブル、シェファー!」
「可能性だと?」
「ええ、ただひとつ。それが叶えばペコをもとの姿へと戻し、この場を収められるかと」
「空導の塔へと運んでしまう方が確実であろう」
「それ以上の、すべてをもとの通りにすることをお約束いたします」
「出来なければどうする?」
ノブルは威圧感を物ともせず言い放った。
「それ相応の責任を取りましょう」
数瞬、時が止まったような無音が広がる。
そして、次の瞬間にはさっきまでの威圧感はなく、プリンシパリティの姿も消えていた。
そして後に残ったのは―――――
「さて、作戦を説明するぞ」
何事もなかったかのようにそう続けるノブル達の姿だった。
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