第8話 おいしいを目指して
天導祭前日、私達はエプロンを身に着け、厨房に向き合っていた。
「えー、それでは明日の天導祭に向け、機材のチェックも兼ねて実際に料理を作っていこうと思います」
「「「はーい!」」」
役割は料理を決めた時の案と同じく、私がホットドック、リデルとフローラがワッフルサンドという事で落ち着いた。
残るペコだが、彼女は当日お客さんに料理を渡す役割のため今日は特にすることが無い。
しかし、だからといってこの料理会に参加させないのも寂しいと感じたので、彼女にはできた料理の試食係として参加してもらう運びになった。
「私は機材の確認も兼ねて何個か焼いてみるだけだから、それが終わったら手伝いに行くね」
「分かりました!」
「うん、了解!じゃあリデルちゃん、クリスが驚いて飛び上がっちゃうくらいおいしいの作っちゃおう!」
「はい!」
そうして意気揚々と二人は買い込んできた食材の山に手を伸ばすのだった。
「よし・・・!」
気合を入れて食材に向き合う。
私が毎年作っているホットドックは、単純にソーセージをパンにはさんで上からソースをかけるというオーソドックスなものとは違う。
私は新鮮なキャベツを手に取り、4分の1の大きさに切る。
今回はここにいる4人分だけで済ませるため、このくらいで十分だろう。
千切りにしたキャベツ、玉ねぎ、人参をボウルに入れ、マヨネーズで和えていく。
途中で塩コショウも振りながら味の調節をしていけば、前準備のコールスローが完成だ。
「よし、次に・・・」
続いて、あらかじめ準備していた自家製のソーセージを4本鉄板の上に置いていく。
鉄板がソーセージを焼く音がジュウッと小気味よく聞こえる。
鉄板がすでに熱くなっているのは、コールスローを作っている間に既に温め始めていたためだ。
そのまま上下に焦げ目がしっかりと付くまでソーセージを焼き、しっかりと火を通していく。
頃合いと判断したら、次はパンだ。
ホットドック用の切れ目の入ったパンをトングでつかみ、表面と内側を軽く鉄板に押し当てる。
こうすることで、香ばしくパリパリとした食感のパンが出来るのだ。
それが終われば後はパンに具材を挟むだけ。
ソースをかければこれでcafe warmut特製ホットドックの出来上がりだ。
手際良く4人分のホットドックを仕上げていき、一息つく。
「ペコ、味見お願いできる?」
「ん!」
元気よく手を上げるペコに、出来立てのホットドックを渡す。
躊躇なくかぶりついて満面の笑みを浮かべる彼女を見つつ、隣のグループに目を向ける。
さて、あの二人はどうしてるかな?
―――――
クリスがホットドックを完成させる少し前、リデルとフローラの食材選びはいまだに続いていた。
「うーん、せっかく作るんですから何かインパクトがある物も欲しいですよね?」
「そうだね~。こうしていっぱいの食材を前にすると、逆に何を組み合わせればいいか分かんなくなっちゃうな」
カットフルーツと生クリームを使ったフルーツサンドや、シンプルにアイスクリームを挟んだだけのアイスサンドはすぐに思い浮かんだが、もう一つくらい何か凝ったものが欲しいと二人は考えていた。
「クリスさん、何か他に作れるものってあるでしょうか?」
「悩む時はウチの店で出すものとして考えると良い案が浮かびやすいかも」
「クリスの店・・・つまり喫茶店で出すとしたらってことでしょ?」
うーんと少し悩み、何も浮かばなかった二人はとりあえずクリスのホットドックに手を伸ばした。
「んー!ジューシーで美味しいです!」
「うん、ホントに!コールスローが味を整えてくれていて食べやすいね」
「それを食べて、その後に何を食べたいかで考えると思いつきやすいかもね」
「なるほどー」
そううなずき、リデルは顎に指を添えて考え始めた。
「まず、このホットドックは1本で結構お腹がいっぱいになる位には大きいです。これだけボリュームがあると合わせてデザートにワッフルサンドというのも少し厳しいかもしれませんね」
「うん、別腹感覚で食べれるワッフルサンドっていう感じのを作らないといけないよねぇ」
これはもうちょっと手助けした方がいいかな。
私も新しいメニューを考える時なんか、よくこうやって堂々巡りで結局思い付かないことが多いのだ。
そういう時は――――
「お姉ちゃん」
「「え?」」
「あの・・・ワッフル、食べたいけど。1枚だけでお腹いっぱい」
「うん、ちょっと待ってて・・・あっ、なるほど!」
「どうしたの?」
「あの、ワッフル単体ならそんなにお腹は膨れないし、味も溶けたチョコレートやチーズに付けたりすればたくさん種類増やせます!」
「なるほど!私達ちょっとワッフルサンドを作ることに拘り過ぎちゃってたってことか」
「ですね。ありがとうございます、ペコちゃん!」
「?」
素直な発想の勝利って事かな、まさかペコに先に言われてしまうとは。
「それでそれで、フローラさん!この方法ならこれも使えますよね!」
「そうだね、後は―――」
うん、ペコが少し手を引いただけでこれだけ案が生まれるならあとはもう安心かな。
「ペコ、私達の料理手伝ってくれてありがとね」
「え?・・・ん!」
報酬を求めて頭を差し出してくるペコに撫でて答え、彼女らの試行錯誤に目を細める。
今年の天導祭はいつもより楽しく過ごせそうだ。
―――――――――――
暖かく差し込む太陽の光に目を覚ます。
いつもなら料理の仕込みや開店準備のために朝早く目覚めなくてはいけないが、今日はそれ以上に早い。
なにしろ今日はいよいよ天導祭当日だ。
実際に作る料理の味のチェックはもちろん、食材の搬送や屋台作りなんかもしなくてはいけないのでいつも以上に忙しい朝になるだろう。
「クリスさーん!起きてますか~?」
「大丈夫!起きてるよ・・・私は」
「あらら。ペコちゃんまだ眠そうですね」
「おぶっていくから大丈夫!それより――」
ここにいない最後のメンバーであるフローラについて聞こうとした瞬間
「おっはよー!!!」
「きゃっ!」
外から、起き抜けでまだ靄のかかっていた頭を一気に目覚めさせるような大声が響く。
どうやら元気一杯のようだ。
「はは・・・じゃあ行こうか」
「はい!」
大声に反応することも無くすやすやと眠るペコを背負い、フローラの待つ玄関へと歩を進める。
さて、いよいよ祭りの始まりだ。
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