第7話 作戦会議!

天導祭。


天使がこの世界に降りて来た次の年から始まったとされる祝福と感謝のお祭り。


死者の魂を天へ導くからこう呼ばれていると母さんから聞いた覚えがある。


かつては感謝と今後の幸福のお祈りをするだけの祭だったけど、今では屋台なんかも出てきて少しずつ羽目を外す目的も出て来てるようだ。



―――――――――――



昼までの営業が終わり、束の間の休憩時間。


今日も店を手伝ってくれたペコの頭を撫でながら、私の指定席であるリビングのくたびれたソファーに体をうずめる。



「クリスさん、クリスさん」


「んー?どうしたのリデル?」



小走りでこちらに駆け寄って来たリデルが1枚の紙を取り出す。



「これ。天導祭のお知らせが来たんです!今年も屋台出すんですよね?」


「うん、そのつもりだよ」


「やった!それで、出す品について前から考えていたんですけど」



そこまでまくし立てるように話し、リデルは興奮した表情でもう一枚懐から紙を取り出した。



「去年、どころかここ数年全く新作出してませんよね。今年こそ何か新しい物作りましょう!」


「うーん、でもこれも数年言ってきたけど、こっちとしては安定して売れるアレが一番手間がかからなくて好評を貰ってるんだけど・・・」


「もう、面倒臭がりなんですから!一品ぐらい作りましょうよ。八百屋のティートさんだって毎年色々な野菜を使ってハンバーガーを売ってますし、お魚屋さんのパインさんだって―――――」



大きめのソーセージを専用のパンにはさみ、上にマスタードとケチャップで一本線を引く。


そんな至ってオーソドックスなホットドックに、お好みで辛さを和らげるキリティーも。


このセットが一番手間がかからずに、店でやり慣れた事で完結する。


まあしかし、今これを言ったところで興奮しているリデルには響かないだろう。



「分かった、分かったって。新しい物作ればいいんでしょ?リデルには何か提案はあるの?」


「・・・うーん」



ないんかい。



「一応前提条件として言っておくけど、原則作るのに時間がかからない物、あとペコが手伝ってくれるとしても作れるのは私とリデルだけって事。いい?」


「それは理解してます。理解した上で・・・そろそろ来るはずなんですが。」


「そろそろ来る?」



その時、コンコンと1階の店の方から軽いノックの音が聞こえた。



「あっ、来ました!」



リデルは素早く立ち上がると小走りで駆け出していき、階段を駆け降りて行った。



「いらっしゃいませ、フローラさん!さぁ、こちらに!」


「どうも、リデル。それじゃあお邪魔しまーす。」



そんな会話が聞こえたかと思うと、そのままリデル達は2階にいる私達のもとへとやって来た。



「やぁクリス、昨日ぶり!」



手をひらひらと振りながら、フローラがこちらにはにかんでくる。


少々面食らいながらも彼女に手を振り返し、ソファーに座りなおす。



「それで、フローラ?今日はどうしたの?」


「あっ、まだリデルから聞いてなかったんだ。師匠が腰やっちゃってさ、天導祭で出す予定だった出店も無くなっちゃって。今年は久しぶりに祭りを楽しむ側に回るかなと思ってた所に、丁度リデルちゃんから声がかかってさ」


「4人いれば新しく何か出せるようになると思いまして!」


「なるほどね」



今までの天導祭では私が作り、リデルが接客といったいつものスタイルで店を回していた。


しかし、今回そこにもう2人加わるとするとまた話が変わってくるだろう。


フローラの料理は数回ご馳走になった程度だが、一般的な家庭の味を超えない位だったと記憶している。


傲慢と自分でも思うが、私が少し教えれば家庭の味とは違うお店の味にすることは容易なはずだ。


問題は―――



「それで、また振り出しに戻るんだけど。その新しい料理を何にするかについて意見とかあるの?


祭りまであと1週間しかないんだから、あまり凝ったものは出しづらいけど・・・」


「うーん、なんだろ?ホットドックも一緒に出すから甘い物とかの方がいいのかな」


「甘い物・・・クレープとか!」


「アリだけど・・・クレープって結構難しいよ?バランスよく包まないと零れてきちゃうし」



私の指摘にリデルはハッとしたような表情を浮かべる。


水を差したいわけではないが、私がホットドック作りで手が埋まるとするとリデルかフローラにもう片方の料理を担当してもらうことになる。


丁寧な作業のいる料理は上手い下手に関係なくハプニングを起こしやすい。


そうなると、作れる料理の範囲は自然と狭まるのだ。



「簡単に作れるものでいうと、フランクフルト・・・はホットドックと被りますし、ホットケーキなんかは冷めちゃいますし」


「でもありきたりな料理じゃ2品目としては弱いし・・・」



その後も様々な案が出たものの、この短い休み時間の中では決定打になるものは現れなかった。



―――――――――――



そんな膠着状態が解かれたのは、それから三日後の事だった。



「え、宜しいんですか?」


「いいのよぉ、うちの主人が多く発注しすぎて残った余りものだし。腐らせちゃうよりはずっといいでしょう?」



―――――――



「と、いうわけでここに大量の苺があります。」


「どうしたんですか、これ?おやつにしても多すぎる気が・・・」


「おねぇちゃん、食べていい?」


「んー、まぁ少しぐらいならね。これはティートさんから誤発注の余りものとしていただいたんだけど、祭りで2品目に何か使えないかなって思ってさ」


「なるほどぉ、んぐおいひぃですね」



顎に指を当て、考えているような様子を見せるリデル。


しかしもう片方の手は苺を、器用にヘタを取って口に放り込んでいる。



「ちょっと、そんなことしたら無くなっちゃ――」


「ワッフウ!」



脳裏に稲妻が走ったとばかりに目を見開き、リデルはそう叫んだ。



「わっふう?」


「ワッフルです!あれなら全部解決できますよ!」


「続けて?」


「はい!」



目をキラキラと輝かせながらリデルが続ける



「まず、作りやすさ。ワッフルサンドとして作れば、間に具材を挟むだけで済んじゃいます。ワッフル自体も型さえあればタネを入れて数分焼くだけで簡単です!」


「確かにね。型なら商店街に行けばあると思うよ。」


「そしてレパートリー!デザート系にもおかず系にもできるのでとっても万能です!」



リデルの案に不備が無いか頭の中でとりあえず反芻するが、特に問題になることも無いだろう。



「よし、それでいこう!」


「やったー!」



はしゃぐリデルを視界の端にとらえながら、あと数日に迫った天導祭に向けて計画を練る。


今年はいつもより、忙しくなりそうだ―――――

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