第70話 地下通路の奥
「ぼくさみしかったんだからね。」
蛇というより極東の絵画で見たドラゴンに似たデカい図体に不釣り合いな甲高い子供の声だ。
「ハグしてよ。にいさま。」
「えっ!??」
ドシンっ!!
地面が揺れる。
多分、ヨルが遥か先の尻尾の方で地面を打ち付けたのだろう。
「わかったよ!!ヨル!
ハグすればいいんだよね!?」
フェンリルが慌ててヨルの首もとをガシッと両前足で挟んだ。
いいのか?それで。
「こんどはぼくがにいさまをハグして、あげる。」
「いや。僕は・・・・」
ヨルの顔の位置は変わらないのにフェンリルの身体を銀色の鱗の付いたヨルの光る体がズルズルと迫ってくる。
完全に無抵抗のフェンリルをヨルは容赦なく巻き付き締め上げた。
その前にヨルの頭の上に避難した俺。
何かミシミシいってるけど大丈夫か?
「ゴフッ!・・・ヨルヨルヨルーーッ!!!」
「あ」
熱い抱擁から解放されたフェンリルが咳き込んでいる。
「また壊しちゃうとこだった。」
シュルシュルとヨルの赤い舌が口から出たり入ったりしている。
『弟』っつーか・・・・ヨル・・・恐ぇな。
フェンリルが酸素を求めて浅い呼吸を繰り返している。
「にいさま、ゴメン。」
「だ・・・大丈夫だよ。僕、お兄ちゃんだからね。」
ホントに大丈夫か?
アバラ何本かやられてそうだったぞ?
「そういえばにいさま。こびとといっしょにいたような気がするんだけど。」
「うん。ヨルの頭の上にいるけどね。」
「そっかあ。軽くてぜんぜんわかんなかったよ。
ぼく、ヨルムンガンドっていうんだ!
よろしくね、こびとさん!!」
ヨルムンガンドだからヨルか。
俺はヨルの頭の上からフェンリルの背中に移動した。
「この人間はキャルロットっていうんだ。
お父様の友達なんだよ。」
「ともだち?」
ヨルの赤い瞳がキラキラしている。
「うん。お父様の友達だから、食べちゃダメなんだ。」
「ふーん。」
「さあ、ゴハン食べてまた眠るといいよ。
眠るまでついててあげるから。」
「やだよっ!ぼくが寝たらまたにいさまはどこかにいっちゃうんでしょっ?」
「ヨル。これからキャルロットの弟を探しにいかなきゃならないんだ。
見つけたらまた戻ってくるよ。」
「ぼくもいきたい!いいよね?」
は?
それまで兄弟のやり取りを見ていたが、なんかすごい展開になってないか?
こんなデカいヤツが表に出られんのか?
「ヨルはまだ子供だから無理だよ。」
「え!?子供なの!?デカっ!!」
思わず声に出た。
まあ、声と喋り方は子供だけどよ。
「寝るコはそだつっておとうさまがいってたからずっと寝てたんだ。」
育ち過ぎだろ。
それまで「ウーン」と、考え込んでいたフェンリルが顔を上げた。
「ヨル・・・。じゃあさ、レヴィアおばさまのとこだったらお留守番できる?」
「うん!ぼく、レヴィアおばさまだいすき!」
「ごめんね、キャルロット。また寄り道になるね。」
「いいよ、別に。」
そんなことよりヨルと行動を共にすることの方が問題だからな。
セイヴァルのことは無事を祈るしかない。
「ここから近いのか?」
「近いよ。この地下通路を通ればすぐだよ。
この通路はヨル専用なんだ。」
フェンリルがヨルの首の辺りに飛び乗った。
蜷局を巻くヨルの奥にトンネルと思しき空洞ができている。
ズルズルと音を立ててヨルは地下通路に方向を向けた。
「レヴィアおばさまのとこでゴハン食べようね。」
「うん。」
想像するに『レヴィアおばさま』とやらは面倒見のいい優しい女性なのだろう。
ヨルの鼻歌が聞こえる。
あとどれ位が掛かるかわからないが、ヨルの上に寛ぐフェンリルの腹を枕に仮眠する事にした。
時間の感覚がない所為か、眠る事を忘れていた。
そういえば、腹も減らない。
この感覚は神界に似ている。
目を閉じて暫く経った頃、悲鳴で目が覚めた。
悲鳴と云うか「グエエっ」という蛙が潰れた様な音だ。
「なんだ?」
「ヨルがなんか轢いたかも?」
フェンリルが眠そうな顔で応えた。
何かを轢いたのが気持ち悪かったのか、ヨルの動きも止まる。
「何かむにっっていったー。
きもちわるいー。」
「魔物か?」
「こんな所に迷い込むのは小物だよ。どうせ。」
欠伸をしてまた寝入るフェンリル。
「んんーーっ」
「?」
くぐもった声のした方にランタンを向けた。
ヨルの腹の下で何かが蠢いている。
地下通路の奥から沢山の足音とガヤガヤという話し声が聞こえてきた。
「御主人様さまー!」
「御主人様さまぁーー!?」
「もっと先か?」
松明の灯りだろうか、十程の揺れる炎がフラフラと近付いてくる。
「大蛇じゃ!」
「これが噂の大蛇か?」
「あれま!?」
「た、大変じゃーーー!!!
御主人様さまがヘビの下敷きになっとるだっ!!」
ゴブリンだ。
数は二十体そこそこか。
どいつもこいつも皆同じ様なずんぐりした体躯で、尖った耳を持ち、鋭く大きな目をギョロギョロさせている。違うのは各々、色の違うトンガリ帽子やヘルメット。何故かシルクハットを被る奴もいたりと、帽子で個性を出しているようだ。
ランタンを持ってる奴とツルハシを持ってる奴がいる。
「みんな!このヘビ持ち上げて御主人様さまを助けるだ!!」
「せーの!!」
「ぐぎぎぎぎぎーーーっ!」
いや、無理だろ。
「なーに?今どけてあげるよ?」
ヨルが面倒臭そうに言った。
「ぐえっ」
「ぎゃっ!」
絶対何匹か巻き込んだな。
「あ!御主人様さまー!」
ヨルの下敷きになっていた塊が姿を現す。
まあ、群がるゴブリンより一回り大きいか。
ゴブリン達の親玉がヨロヨロと立ち上がった。
「ワ・・・ワシの・・・
ワシの
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