第63話 魔物は食べ物なのか?
俺達は洞窟内にいる。
牛頭は先程、焼いて美味しく食べた。
赤身のヒレ肉は蜥蜴と違って臭みもなく、シナノのテンションが上がるのも妙に納得してしまった。
セイヴァルが俺の背中のマントを捲っている。翼はいつの間にか消えていた。
「で、あの羽根ってなんだったんだ?」
「変態に貰った。」
「変態って・・・。」
強ち嘘ではない。
あの時は拒否権もなかったし。
不意にシャスラーが立ち上がった。
「我は此処を離れるが、シナノ。お前は二人に付いてやれ。」
は?
また出掛けんのか?
食後くらいゆっくりできねぇのか。忙しいヤツだ。
「御意に。」
「結界はどうすんだよ」
・・・もういねーし。
俺達ずっととは言わないが、最悪の場合交替でここに居なきゃいけないのか?
洞窟内に響く数人の足音に警戒する。
「また会ったね。ゲボク君。」
ラグドール神殿の神官だ。
アルヴァっていうチャラい感じの。
その後ろに男女の若い神官がいる。
「・・・双子なんだっけ?
あれ?どっちがゲボク君かな?」
笑顔を崩さないままアルヴァが言った。
どっちもゲボクじゃねーし。
「何しに来たんだ?」
剣の柄から手を離して、アルヴァに聞いた。
「この辺りから魔物の反応があってね。感知され難くなってたみたいなんだけど、急にはっきり出たもので。」
そりゃ、シャスラーのせいだろうな。神官嫌いらしいし。
「結界?」
女の神官が俺達の後ろにある結界に気付いた。
3人は顔を見合わせる。
「確認させてもらっていいかな?」
「あ、どうぞ。」
おいおい、セイヴァル勝手に・・・。
女の神官が俺の方をチラリと見た。
どっかで会ったことあるような。
「久しぶりだね。」
「・・・リザ?」
「嬉しいっ!覚えててくれたのね!」
ピッテロ様との鬼ごっこ初日、ピッテロ様の居場所のヒントをくれた学生神官だ。
スラリとした長身の美女で、金色の髪は束ねて神官の帽子に収納している。
「わたし、神官になれたんだよ?
まだ研修生だけど。」
「へぇ。
似合ってるよ。」
あの時より大人びた誇らしげなリザの神官姿を眺める。
改めて神官になれるって羨ましい。自分が絶対になれないものだから、余計にそう思うのかもしれないけど。
「・・・これは・・・。」
アルヴァともう一人の神官が結界を見つめて声をあげた。
俺達も結界に近づいてみる。
幾重にも重なる円形の中に古代文字や幾何学模様が絡み合った魔法陣。俺には解読不可能だ。
「意図的に描き換えられている。」
「一刻も早く直しましょう。」
古いから亀裂が生じたとかシャスラーが言ってた筈だ。その亀裂のお陰で食糧が確保されてたんだが、直したらそれが無くなるんじゃねぇ?
「アルヴァ先輩。」
「どうした、リザ神官?」
リザが暗がりを照らした。
俺とセイヴァルが倒した魔物が、シナノの手によりぶつ切りにされ山積みになっている。
呆気に取られて声もでないアルヴァとリザ。
「先輩、こちらを」
もう一人が寸胴鍋の蓋を開けた。
蜥蜴のバケモンが煮込まれている。
「待って、ゲボク君達がこの魔物達を倒したの?」
「そうだけど?」
「まさかコレ、食べちゃったの?」
リザが俺に詰め寄ってきた。
何か不味かったか?
シナノが微妙に反応するのが横目に見えた。リザが怪しい動きをしたら攻撃するつもりだろう。
リザの整った顔がすぐ近くにある。
こえぇな。スゴい迫力。
「魔物を食べたのかって聞いてるんだけど?」
「・・・牛頭は美味かったよ?」
「ウソでしょ。」
リザが俺から後退りして、アルヴァに視線を送った。
「ゲボク君、今すぐ処置をしなきゃ。
そっちの二人も。」
「え?」
「あのね、魔物はうっかり食べちゃいけないんだからね。最悪の場合、魔物化しちゃうかもしれないよ?」
「魔物化?それって迷信じゃないのか?」
ガキの頃、大人からそんな話を聞いたような気がする。確かに最初は抵抗あったけど、シャスラーが普通に食ってたから、そのままうっかり普通に食っちまったよな・・・。
「リザ神官、そちらをお願いしていいかな?
俺達は結界を塞ぐから。」
「了解。」
「応援もすぐ来る筈だ。」
再びアルヴァともう一人の神官は結界の前でブツブツ話し合いをしてる。そうこうしてる内に魔物が現れそうだ。
「今のところ症状は無いみたいね。」
リザが俺達を観察する。
「見てわかんのか?」
「うん。じゃ、全部脱いでくれる?」
「「は?」」
俺とセイヴァルが顔を見合わせた。
「わたしも魔物化した人間は実際に見たことないんだけど、皮膚の柔らかいとこ、お腹とか腕の内側、お尻とかに鱗や獣毛の症状が出始めるんだって。
はい、お姉さんに見せて?全部♡」
リザがニッコリと微笑んでいる。
ここで!?脱ぐ!?
焚き火はしてても結構寒いんだけど。
いやいや、てか、一応俺達思春期なんスけど?
女子に裸見せるって・・・。
「あ。」
シナノと目が合う。
多分にして、リザはシナノを少年だと思っている。
「ワ・・・ワタシ、異国人タカラ、言葉ワカラナイ
・・・アルよ。」
咄嗟に出たシナノのせめてもの抵抗に俺達は唖然としてしまった。
お前、いつの間にそんな技を身に付けたんだ?
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