第61話 約束
「ヤだわ!このコってば寝惚けてるワ!」
ゲラゲラ笑い転げるビションフリーゼ。
俺ってキャルロットからセラフィエルになって、更には犬コロになったのか?
シナノを睨むと、肩を竦める仕草で流された。きっと薬かなんか盛ったんだろうな。
「ロザリオ。また会いに来るよ。」
「・・・・。」
ロザリオの髪を撫でる。
金色の瞳で俺を見つめるロザリオ。
「・・・約束です。セラフィエル様。」
また約束が増えた。
『強くなってラグドール皇国を救う。』
まだ足りない。
「キャルロット殿、参りましょうか。」
シナノの言葉に頷く。
屋敷を出ると、木陰でパドマが休んでいるのが見えた。俺の姿を見つけてこちらへやって来る。可愛いヤツだ。
「あれ?シナノ?」
振り返ると一緒に出た筈のシナノがいない。
ま、いっか。
とりあえずパドマを神殿に返さなきゃならない。
離陸しようとするパドマが何かに気付いて滞空した。シナノだ。
そのまま軽く跳んでパドマの背に乗る。
「遅かったな。」
「忝ない。忘れ物をしまして。」
怪しい。
パドマが翼を羽ばたかせる度にグングン上昇していく。
「聡明なお子様ですね。ロザリオ様は。」
「ああ、うん。」
「まるで大人の様な立ち居振る舞い。
流石は次期大神官殿。」
「やけに喋るじゃねーか。
・・・何が言いたいんだ?」
「キャルロット殿とお似合いに御座います。」
それは否定しないけど。
巧く濁された気がする。
「お前だって大人みたいじゃないか。」
「みたい、ではなく大人ですよ。」
「そういうことにしとくよ。」
国によって成人年齢は異なる。ラグドール皇国では20歳で成人となるが、確か黄金の国で男子は15、6歳、女子ともなれば12、3歳で成人の儀式をすると文献で読んだ。
黄金の国であれば俺も成人ということだ。
シナノは女子だから成人だとしても当然だ。
眼下にラグドール神殿が見える。
難なく通過するパドマ。
あれ?
「コモンドール山脈まで連れていってくれるようですね。」
パドマ。本当にいいヤツ。
「セイヴァルを迎えにいかなきゃ。」
「クルルっ。」
城に向かい降下する。
カルラの鳥舎にセイヴァルがいた。
俺とシナノを見つけて微笑むのだが、何処と無くぎこちない。昨日は眠れなかったのか、目の下に隈ができている。ま、世界樹に行けばセイヴァルも少しは元気になるかもしれない。
普通のカルラと違って、パドマは俺達3人を乗せても平然としている。女神の力恐るべし。
「キャル。」
「ん?」
「姫様のことだけど」
セイヴァルの言葉が途切れた。
何故ならパドマが急激に速度を上げたからだ。振り落とされないように手綱を強く握る。セイヴァルも俺の身体にしがみついている。その後ろのシナノの様子はわからない。
あっという間にコモンドール山脈の洞窟前に辿り着いた。標高の高い山の天気は生憎の雨だ。パドマから降りて洞窟入り口で雨から足早に避難する俺を他所に、パドマに礼を言いながら首を撫でているセイヴァルとシナノ。
「そういや、さっきの話の続きは?」
俺の声が洞窟内に反響する。
セイヴァルは真剣な瞳で俺を見返した。
「オレ達は姫様の護衛から外された。」
「・・・そうか。」
まぁ、しょうがないっちゃしょうがない。
何てったって俺達のせいで危険な目に晒されたんだからな。信頼してたセシリアも彼女の目の前で殺された。
「アリア様にお目通りはできたけど、相当憔悴してる。遠い地で療養するそうだ。」
焦げ茶色の髪から雫が落ちる。
「オレ、もうアリア様のあんな顔を見るの嫌だ。もう泣かせない。」
「それって・・・(まさか恋?)」
「違うよ。そんなんじゃない。」
まだ言ってねーし。
シナノが俺を一瞬見た後で肩を小刻みに震わせ笑いを堪えている。失敬なヤツ。
「ま、俺もアリアが泣くのを見るのはもう御免だ。」
「貴公達が強くなれば望みは叶います。
残念ながら、パドマとは此処でお別れですね。」
シナノがまたパドマを撫でると、パドマは少し名残惜しそうに一人一人に頬を擦り寄せラグドール神殿へと飛び去った。
洞窟の中から低い風の音が聞こえる。
薄気味悪い洞窟には変わりはないが、表現し難い違和感を感じる。それは他の二人も同じのようで、お互い顔を見合わせた。
黒い塊が洞窟の奥から現れ、ぎょっとする。
獣?魔物?
ソイツは唸り声を上げながら、光る目でこちらを見ている。大きさから熊っぽい気がする。
「まさか」
シナノの呟きに俺とセイヴァルがその顔を見た。
「シナノ?まさかって何?」
「お師様の気配がありません。」
「世界樹にでもいんのか?」
シナノが首を横に振った。
シャスラー不在となった結界。そこからこの魔物は出てきたんだろう。
出掛けるにしても結界塞いでから出掛けろよ。アイツ。
狼の遠吠えに似た声で獣が咆哮した。
もしかしたら仲間に報せる合図なのかもしれない。
光苔のぼんやりと照らす洞窟内。漸く目が慣れてきて敵の姿をはっきり捉える。
黒い毛並みの狼に似た魔獣。
「取り敢えず結界の所まで行ってみよう。」
セイヴァルが剣を構え、前を見据える。
俺とシナノは頷いた。
魔獣がまた咆哮したのを機にシナノが飛び出し、神剣で魔獣の身体を真っ二つにしてしまった。
「「お前、狡いぞ。」」
セイヴァルと同時につい漏れる本音。
シナノは少し考える素振りをした後、神剣を背中の鞘に納めた。
「これも修行ですね。」
まだ魔物の気配がする。どれくらいの数がいるかわからないが、ここから先シナノは手出しをしないということだ。
「どっちが多く倒せるか競争だ。キャル。」
言い終わらない内にセイヴァルは駆け出していた。おいおい。
その背中を追いかける。
「競争なんかしねぇよ!!?」
いつものセイヴァルに戻ってきたから取り敢えず良しとするか。
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