第58話 捕獲

「あれを見ろ。」


 ジンさんが建物の屋根を指す。

 数人の神官達が待機していた筈だ。


「メイド?」


 3人の神官達から数十メートル離れた位置に女が立っている。服装からメイドの様な。

 メイドに向かって何かを叫ぶ神官。


「!」


 問答無用とばかりにメイドが神官達に向かって光の弾丸を繰り出した。


「あれは・・・」


 さっきジンさん達が襲われていたものに似ている。


「ビアンコ家のメイド達は護衛として腕が立つ。

 特にロザリオ嬢付きとなれば、神官おれ達に匹敵する。」


「・・・。」


 そのメイド達が何で神官達に攻撃してるんだ???

 無言で動向を眺める。

 メイドの攻撃を受ける神官と魔法で攻撃をする神官。もう一人は援護魔法か。

 メイドが一人ではないことに気付いた。塔の上から援護射撃しているのは、いつかビアンコ家の庭園で転た寝してたメイドじゃないか!?


「恐らくメイド達は操られている。」


「え?それって・・・」


 ジンさんの真剣な目。

 いやいやまさか!

 ロザリオがメイド達を操ってるって言うんじゃないだろうな?


「初動でミスった。」と、ジンさんが特に反省する様子もなく言った。


「今考えればあれは無いですね。

 ロザリオ様の部屋に強行突破しようとしましたからね。すぐ勘付かれましたけど。」


 ヘラヘラ笑いながらアルヴァが屋敷の見取り図をまた懐に仕舞い込む。

 要は低級の魔物であるバーゲストであれば簡単に捕まえられるだろうってタカを括ってた訳だ。


 メイドと戦っていた神官が小さな悲鳴を上げて、屋根から落ちた。普通だったら転落すれば死ぬレベルの高さだが。


「・・・。」


「と、いうわけで神官おれ達は完全に警戒されている。」


「防御魔法は任せて。ゲボク君。」


「多少の怪我なら治癒できるし。」


 何事も無かったようにジンさんを始めとする神官達が俺に向かって白く光る歯を見せている。

 はいはい、わかったよ。


「・・・期待しないで下さいね。」


 いつぞやロザリオにはもう会わないって誓ったというのに、結局こうなんのかよ。

 仕方なく俺は要塞の様な、いや、囚人の収容所の様な屋敷に向かった。レンガの敷き詰められた舗道を歩く。罠とかは無いようだな。


 難なく屋敷のデカイ扉の前まで来たわけだが。

 頭上の戦闘音が止んだ。


「────お待ちを」


 背後からの女の声にギクリとする。


「何か御用でしょうか。騎士様。」


 振り向けない。

 絶対、さっきまで上で魔法をバンバン放ってたメイドじゃねーか。

 返答次第ではこのまま魔法をぶっ放すかもしれない。


「あれ?」


 女の声のトーンが裏返ったかのように急に高くなる。


「?」


「あれあれ??」


 回り込んできたメイドの顔が俺の目の前にある。

 間違いない。

 あの時ロザリオと一緒にいたメイドだ。

 二十歳そこそこか。髪を高い位置で団子にしている。


「もしかしてのもしかして!!」


 無遠慮にメイドが俺を指差した。自棄に顔が近いのが気になる。

 お陰で今まで頭の中で考えていた言い訳が全部吹っ飛んだ。


「あなた様はセラフィエル様ではありませんか???」


 俺は返事をせずにメイドの顔を観察した。

 操られている???

 外見からは全くわからん。

 メイドはニコニコしながらエプロンのポケットから四つ折りにした紙を取り出した。

 その紙を広げて俺の顔の横に並べて「ふむふむ」とか言いながら見比べている。


「やっぱり間違いありませんっ!」


 今度はその紙を俺の顔の前に掲げてメイドが声を荒げた。

 心臓が跳ねる。

 人物画だ。

 それも完全に俺。

 背中に翼が生えているってことはセイヴァルじゃない。


「・・・これって・・・。」


「しっ!」


 メイドが眉をひそめ唇に人差し指を充てて、キョロキョロし始めた。

 なんだよ。


「おわっ!」


 いつの間に開いていたのか、デカイ扉が人一人が入れる程開いていてそこに引き込まれた。

 ひんやりとした洞窟にも似た屋敷内部。ゴツゴツした四角い岩が規則的に組まれ建物を形成している。太陽の光が僅かに差込むくらいなので、外は明るいというのに室内灯が点いている。


「貴方の事を知っているのは私だけです。

 何故なら私はロザリオ様と仲良しですし、口が堅いですからね。

 あ、私はアイラと申します。」


 何故か誇らしげなアイラ。


「それってやっぱりロザリオが描いたのか?」


 俺に翼が付いてるってことは描かれたのはそんなに前じゃない。


「はい。もちろん。」


 メイドはそう答えて紙をまたポケットにしまった。

 ヤバい。嬉しすぎる。


「あれ?セラフィエル様、泣いてますか?」


「ああ、うん。気にしないでくれ。」


 俺は感泣を抑えてアイラに向き直った。

 何度も言うが操られている様子はない。


「・・・何で神官達と戦うんだ?」


 表情を探る。


「この国を守る為です。」


 悪怯れる素振りも見せずにアイラが言った。


「・・・・。」


 意味がわからん。


 不吉を告げる魔物。

 魔物を匿うロザリオ。

 魔物を捕獲しに来た神官。

 神官と戦うメイド。


「ぎゃっ!!」


 急にアイラが叫んだモンだから、心臓が止まるかと思った。


「ななな何だよ!!急にっ!!」


「見つめるの禁止です!!」


「は!?」


「セラフィエル様は女子を3秒以上見つめてはいけない人種だからです!!」


「何だよそれ!人種差別で訴えるぞ!?」


 アイラは顔を真っ赤にして俺に背を向けた。


「これだから自覚のない絶美形って危険です。かといってヴィダル坊っちゃまは自覚ありすぎて危険極まりないですけど・・・。」


 何やらブツブツと呟いている。


「クゥーン」


 甘えた様な犬の鳴き声に俺とアイラはその方向を見た。

 シナノが廊下に立っていた。


「遅かったですね。キャルロット殿。」


 左手の黒い仔犬が小さく丸まっている。

 おい、仔犬の首の後ろを掴んでいるが、持ち方として正しいのか?

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