第42話 6枚の翼
「ハニー。」
───この声は。
ラグドール神殿から町へ繋がる階段に降りる途中、木の陰からヴィシュヌが顔を出した。何故、そんな所から。
まさか立ちショ○してたんじゃ・・・。
「私に逢いたくて夜毎枕を濡らしていたのではないか?」
「いや、全然。」
「フッ照れるな照れるな。
相も変わらず初い奴よ。」
ホントついさっき久しぶりに思い出したくらいなんだけど。
セイヴァルとシナノは「競争だー!」とか叫んで猛スピードで階段を駆け下りていった。2年経った今でもそんなことをしているのかと驚愕してたところだ。
「で、何処に行ってたんだ?」
「喜べ。ハニーの望みを叶えてきたぞ。」
「・・・どういうこと?」
「まあ、百聞は一見に如かず、だ。」
ヴィシュヌの背中からガルダのような金色の翼が生えた。翼がやけに沢山生えてると思い数えてみれば、ヴィシュヌの背中に6枚もの翼があった。そのままヴィシュヌは翼を広げて俺の腕を掴む。
「いや、無理。」
「何がだ?」
「ロザリオに会いに行くつもりなのか?」
「そうだが?」
「ロザリオには会わないって決めてるから。」
「・・・草葉の陰から覗けば良い。」
幽霊じゃねーんだから。
それに、カルラに乗るのと違って腕を押さえられて飛ぶのは、不安定極まりない。
と、なると不本意ながらもヴィシュヌにしがみつかなきゃならなくなる。絶対やだ。
「俺、カルラの方がいい。」
「我が儘なヤツだな。」
ヴィシュヌが嘆息混じりに呟いた。そのまま俺の胸元を掴み、馬鹿力で思いっきり引き寄せる。
「痛ぇ・・・
っ!!?」
気付いた時にはもうヴィシュヌの唇が俺の口とくっついていた。ウっソだろ!?
「長ぇよ!?」
ヴィシュヌを突き飛ばして膝から崩れ落ちる。有り得ない。こんなことがあってたまるか!これは悪夢だ!
俺の全てはロザリオに捧げるって心に決めてたのに・・・!!
そうだ。ヴィシュヌをロザリオに脳内変換しよう。うん、そうしよう。
余りのショックにスーパーポジティブになる俺。
「ホラ、参るぞ。」
顔を上げるとヴィシュヌがニヤニヤしていた。クソっ、コイツとあの天使じゃ脳内変換にも限界がある。どさくさに紛れて舌まで入れようとしやがって。
バサっ!
「え?」
「6枚もあると邪魔だからな。
ハニーに授けよう。」
俺の背中に純白の翼が生えていた。
すげぇ。ホントに神サマだったんだな。
他に方法は無かったのかとも思ったが、翼の生えた感動でそんなことはどうでもよくなっていた。
背中を触ると肩甲骨の辺りからくっついている。服を突き破ってしまっているが、マントで隠れるから良しとしよう。
肩甲骨に意識を集中させてみると、何とか僅かに動かせるようだ。
「意外に難しいな。」
「その内に手足同様に動かせるさ。」
結局、ヴィシュヌの手を借りて空を飛ぶことになってしまったが、上空に行けば行く程気流に乗り、楽になった。
「で、これってビアンコ邸に向かってなくない?」
「よく気付いたな。」
ヴィシュヌの視線の先に森が見える。木々の間を縫いながら、俺達は地面に降り立った。いつかセイヴァルと来たことがある森だ。
あの時は確か物凄く恐ろしい悪夢を視た上に、その後の謎の人物との出会いや烏の大群のせいで、何となく暗く不気味な森に見えた。
気がつくと背中の翼が消えていた。常に背中に生えてたら邪魔だし、いいか。
周辺を見渡してからヴィシュヌを見た。
「こんなとこにいるのか?」
「しっ!」
ヴィシュヌが俺の唇に人差指を当てる。
あの悪夢を思い出すからやめろ。そして、そういう時は自分の唇に指を当てんだよ!
「おねえさま、みつけました。」
遠くで聞こえた幼い声に急いで木の陰に身を潜めた。ロザリオだ。やっばい・・・声、可愛い。
「見ないのか?」
「待って。心の準備が。」
ハッとして隣にいるヴィシュヌを見る。いや、お前は別の木に隠れろよ。お前の体、はみ出してんじゃねーか。
「またベネが鬼よ。」
「リオってばホントにかくれんぼが得意ね。」
シャルドネとカルベネの声だ。
「だって、おねえさまたち、かんたんすぎ・・・」
「わーーーっ!!」
ロザリオの声に被せ気味に叫んだこの声は、ビアンコ家のヤツじゃない。
木陰からそっと覗いてみた。
ロザリオの頭上に飛び回る黄緑色の鳥。
アレがしゃべったのか?
「オウム?」
「ガルダだ。」
ええ!?
適任者ってガルダのことだったのか!?
てか、何でオウム?
「数えるわよー。
いーち、にぃーい、さぁーん・・・。」
カルベネが顔を両手で隠してしゃがんだ。
「さぁ、ロザリオっ隠れましょうよっ!」
「うん。ビションフリーゼ。」
鳥と戯れるロザリオ・・・。天使すぎる。
「てか、ガルダはなんでおネエ言葉?
雌なの?」
「雄だが、余りにもガルダが嫌がって抵抗するから頭にきてな。記憶を封じてやったのだ。言葉を教えたのがあの姉妹のようだな。」
ひでぇ。
これは下手にヴィシュヌを怒らせるのはやめた方がいいということだ。
「記憶を封じたってことは俺達のこともわからないってことか?」
「そうなる。
しかし、あの姉妹は美形揃いだな。」
「ロザリオだけには手を出すなよ。」
「あそこまで
へ・・・変態・・・っ!
ヴィシュヌの言葉に落ち込む俺。
「いやいやいや!?お前も充分変態だからな!?」
「声が大きいぞ。」
またしてもヴィシュヌが人差指を俺の唇に当てようとする。そうはさせるか!と、抵抗する俺。無言で揉み合う俺達。
「人間の一生なんて『あっ!』」
ルゥ!?
突然、俺達の背後にルゥが現れた。コイツもシナノ同様、全然成長していない。
「・・・と、言う間、だからね。
ロザリオちゃんもすぐ大人になって、すぐに年老いて死んじゃうんだろうなー?」
「ロザリオは皺くちゃババアになっても美しいハズだ。」
「変態突き抜けてるね。キャルロット。」
「うるせぇ、何しに来たんだよ。」
「あ、アレ見て見て。ボクの犬なんだよ?」
犬?
ルゥが指を差した先に黒い塊がある。プルプル小刻みに震えた仔犬だ。
犬置き去りにすんなよ。愛護団体に通報するぞ。
何かに導かれる様に犬の方へとロザリオとオウムが近付いていく。
「ロザリオちゃんにプレゼントだよ。」
ニヤリとルゥが微笑む。
俺はヴィシュヌに視線を移した。
「ヴィシュヌ、アレってヤバい奴?」
「運命の歯車が噛み合い、動き出した。」
何時にないクソ真面目な顔をしているヴィシュヌ。
「え?」
「これから楽しくなるってこと。」
聞き返した俺の言葉にルゥが答える。
「あー、ワンちゃんだぁ♡
かわいい♡♡♡」
黒い犬を見つけたロザリオの笑顔。
はっきりと目撃してしまった俺は悶絶して動けなくなった。
あれ?・・・笑ってる?
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