第40話 ラグドール帰還?

 ラグドール城だ!


 雲の切れ間の遥か地上に城が見える。少し離れて神殿。その西にコモンドール山脈。

 近付くに連れて違和感を感じた。

 街並みが何となく違うのだ。


「おい。パドマ?」


「クルル?」


 パドマも何か異変に気付いたようだ。

 城、神殿、皇都の町。整備された道、橋の位置を確認するが、記憶していた物とほぼ同じだ。


「ラグドールだよな?」


 何となく緑が増えた様に見える・・・?


「はいはーい!ストーップ!!」


 聞き憶えのある声と共に黒い羽根が視界を覆った。


「ルゥ!?」


「あのさ、キャルロット。キミね・・・。」


 空中に止まる俺達とルゥ。

 言いかけてルゥが「はぁ~っ」と、溜め息をつく。


「ボクってホントにお人好しだよなー。」


「いや、意味わかんねーし。

 何しに来たんだよ!?」


「キミを探しまくってあげたんだから感謝して欲しいよ。全く。」


 ルゥは俺ではなくパドマに視線を向けた。

 緑色の瞳が金色に光る。これって・・・ラクシュミーと一緒?


「それ、何?」


「魅了のコト?」


 魅了?


「ほら、急がないと。ボクの体がもたない。」


「だから、意味わかんねーって。」


 ルゥが黒い翼をバサリと音を鳴らして会話を打ち切った。そのまま西へ方向を変える。

 何だよ。結局俺達と違うとこ行くんじゃねーか。


「じゃあな。

 ────?!」


 北へ進むルゥの跡を猛然と追うパドマ。何だぁ?


「パドマ!?帰らねーの?

 お前の子供達待ってるぞ!?」


 完全に聞いてない。手綱を引いてもびくともしない。

 そうこうしている間に俺達はコモンドール山脈にある世界樹に辿り着いたのだった。


「デカっ!!!」


 世界樹デカっ!

 その大きさといったら・・・。幹周りで恐らく20メートル。太い枝が数え切れない程にあちこちから伸び、1本の木で森を形成し、生い茂る葉で空を覆っている。あ、花咲いてる。


「キミってそんなキャラだっけ?」


 半眼で俺を見ているルゥ。

 俺の言葉の代弁者であるセイヴァルと長く離れていたせいか、自分で喋ることに面倒臭さを感じず慣れてしまったようだ。


「珍しい組み合わせだな。」


「シャスラー。」


 世界樹の幹の陰からシャスラーが顔を出した。髭が元のストレートに戻っている。


「聞いてよ。キャルロットってば人妻と乳繰り合っちゃってさー」


「ちっ・・・?乳繰り合うって何だよ!?」


「人妻ってこのカルラの事だけど?」


ニヤニヤ笑うルゥ。やっぱムカつくな。

パドマから降りて苔生した地面に足をつけた。


「ボクね、すっごくすっごく探したんだからね!?」


「うるさっ!

何だよっ!ちょっと社会見学してただけだろ!」


「『ちょっと』ーーー!?」


 ルゥの目が大きく見開く。


「あのね、キミが神界に行ってどのくらい経ってるか知ってるの?」


「あー?5日位か?」


「300年だよっ。」


 んん?

 耳をほじってみる。

 聞き間違いか?


「さーんーびゃーくーねーんっ!」


「ハハハっ。面白いな。お前。」


 頬を膨らませているルゥの肩をバンバンっと叩いた。

 だって、ルゥもシャスラーもその姿は少しも変わっていない。世界樹は巨大化しているが。


「信じないのも無理ないけどね。」


 ルゥが又もや溜め息をついた。


「キミが居なかったから、あっさりラグドールが滅んじゃったんだけど。」


「は?」


 ルゥがクルリと方向転換する。


「だからさ、シャスラー。

 キャルロットを300年前に戻してあげてよ。」


「歴史が変わるが?」


「構わないよ。退屈よりはマシ。」


 混乱しまくっている俺を前に、ルゥとシャスラーが腕を組んで睨み合っている。俺とパドマは交互に二人の顔を忙しく見る。

 やがて、根負けしたシャスラーが深く息を吐いた。


「正確に300年は戻せぬぞ?」


「多少の誤差は我慢してよね、キャルロット。300年よりはいいよ。伝説にもなってないし。」


「え?ホントにここって300年後なのか!?」


「はいはーい。その質問はもういいって。」


 ルゥが翼を広げて浮かんだ。


「ボクはキミの友達だからお礼はいいからね。」


「いつから友達だっつーの!」


 もう見慣れた、人を小馬鹿にした微笑みを浮かべて、ルゥが空に消えた。


「じゃ、ネェちゃん。パドマ。

 準備は良いか。」


 シャスラーが右手を掲げると、その手に1メートル程の枝が落ちてきた。

 準備も何も。何すればいいんだよ。

 スラスラと地面に魔法陣を描いていくシャスラーを眺める。


「我は時を創造する者なり。我が名に於いて時の扉よ開け。」


 魔法陣が光る。


「早うせい。」


 シャスラーの言葉に俺とパドマは顔を見合わせて頷く。恐る恐る爪先を魔法陣に入れる。


「相変わらずチョンチョン好きだな。」


 だから、チョンチョンって何だよっ。

 パドマの背に乗り、シャスラーを睨みながら魔法陣の中に入る。


「折角だから、300年後の故郷を観光でもしたらどうだ?

 子孫とかいるやもしれんぞ?」


「あー、うん。」


 それもそうか。

 未来になんて滅多に来られないしな。もう少しゆっくりしてくか。シャスラーにも色々聞かなきゃいけないし。


「っておい!」


 いやいや、もう魔法陣に入っちゃってるし!

 俺とパドマの体が目映い光に包まれ、シャスラーも世界樹も見えなくなった。


 何でもっと早く言わねーんだよ!

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