第29話 神サマと同居

 家に帰ると偽旅人達が俺の部屋で寛いでいた。

 ベットに寝そべるヴィシュヌ。茶を飲みながらカードゲームを楽しむラクシュミーと人間の姿のガルダ。

 実はコイツらが家に押し掛けてきてからもう1週間経っている。毎日こうしてダラダラ過ごしているようにしか見えないのだが、何で旅人のコスプレ選んだ?

 何だかんだいってユルい両親はコイツらを喜んで毎日饗している。余りの歓迎振りに、もしかして神だと勘づいてるのか?とも思ったが、どうやら只純粋にコイツらを気に入っただけの様だ。


「お帰りハニー。」


 ヴィシュヌがウィンクしてきたのを無視して、少し距離を取ってベットに横になった。

 当所は客間にいたのにいつの間にか俺の部屋で生活している神達。

 正直、俺自身コイツらがいることに慣れてきてしまっていることに驚いているとこだ。


「キャルロット。疲れているであろう?

 妾が癒してしんぜようぞ。」


 ラクシュミーの言葉に素直に頷く俺。俯せに寝返った俺の背中を撫でたり指圧したりする。彼女のマッサージは病み付きになるほどの極テクだ。や、マジで寝そう。


「ふふっ。其方は真とに可愛いのぅ。」


 耳元でラクシュミーが囁く。


「次は私も頼むぞ。」


「はぁ?」


 ヴィシュヌの言葉に明白に迷惑そうに答えるラクシュミー。


「妾は愛しい者にしか奉仕しません所以。」


「冷たっ!」


 背中でゴチャゴチャ煩いが睡魔には勝てない。

 ラクシュミー。ずっと家にいてくれないかな・・・。


 ハッとして目を開ける。

 今、恐ろしいこと心の中で呟かなかったか?

 ずっとって何だよ?


 気が付くとガルダがいない。


「ガルダは?」


「ああ、夕餉の仕度に行ったぞ?」


 眠そうな目でヴィシュヌが答える。

 え?

 最近、夕飯が滅法美味くなったと思ったら、ガルダが作ってたのか!?

 ヤバッ。まんまと胃袋まで掴まれてるし!!

 このままじゃコイツらの思うツボだ。


「アンタ等いつまでいるつもり?」


 ヴィシュヌが冷やかな目で俺を見つめている。

 うわっ!

 いつの間にかラクシュミーに膝枕されているのに気づいた。この太腿の感触がなんとも言えない。・・・じゃなくて。


「逃げなくても善いではないか。」


 慌てて起き上がろうとする頭をガッチリ両手で押さえつけるラクシュミー。

 女神の美しい顔がどんどん近付いてくる。

 その瞳から目を反らすことができなくて、口をパクパクさせることしかできない。

 形の良いぽってりしたラクシュミーの赤い唇が、俺の口に触れる瞬間。


 勢いよく扉が開いた。


「キャルロット様。」


 助かった。オルフェだ。

 俺の心臓がまだバクバク音を立てている。

「チッ」とラクシュミーが舌打ちした。

 仮にも己の夫の前でなんつーことしようとしてたんだ?


「お食事のご用意が。」


 オルフェに促されて俺は体を起こした。澄ました顔でヴィシュヌとラクシュミーもベットから下りる。

 朝起きると何故か一緒にコイツらと寝てるんだが、寝てる間にセクハラされてねーよな?


 食堂にぞろぞろ入ると既に両親が着席してニコニコしていた。

 基本的にいつも機嫌が良い二人だが、なんか良いことでもあったのだろうか。

 俺達が座ったのを機にガルダシェフ監修の豪華な料理が次々に運ばれてきた。


「まぁ。今日も美味しそう。

 ついつい食べ過ぎちゃうのよね。困っちゃう。」


 母が目をキラキラさせて言った。


「奥様は華奢でいらっしゃいますから、食べ過ぎ位が丁度いいですわよ?」


「ジャスミン様は口がお上手ね~。

 ワインは赤?白?」


 ジャスミンとはラクシュミーのことだ。占い好きの母から絶大な信頼を得ているし、どうやら二人は意外に気が合うみたいだ。

 そういえば、兄のシャインの姿が近頃食卓にない。まぁ、城では嫌でも顔を合わせてしまうから家で見ることがなくて清々している。


「セイヴァルは元気でやってるのかしらー?」


 セイヴァルはまだあの洞窟にいるらしい。

 危険な目に合ってる訳ではないようだが、どんだけ心酔しちまったんだ?


「さっき伝令が来ましたが、楽しく暮らしているようです。」


 ガルダが答えた。

 ガルダのいう伝令とはその辺を飛んでる鳥達のことだ。鳥語がわかるとは、流石正体が鳥だけあるな。


「シャインがね、今度婚約者を連れてくるそうよ?」


 ニコニコしながら母が嬉しそうに言った。


「バーマンの由緒ある家柄のお嬢さんで、物静かで心根の優しい方らしいぞ?」


 父もニコニコしている。

 ん?既視感?

 何か同じ話題を数ヶ月前に聞いたような・・・。それどころか現場にいたか。

 まさか、またあのパーティーするんじゃねーよな?

 アイツどんだけ結婚願望強いんだ。


「それはめでたい。」


「まあっ、素敵っ!

 おめでとうございます。お父上、お母上。」


「そうだわっ。

 ジャスミン様に二人の相性を占ってもらおうかしらぁ?」


「お任せ下さい。

 因みに妾とキャルロットの相性は最高ですのよ♡」


 その占いは胡散臭いな。


「パーティーすんの?」


 程よく酒も入った大人達が盛り上がる中、恐る恐る尋ねてみた。

 両親が固まる。


「ひっ・・・控えめなお嬢さんらしいからな。」


 父が引き攣った笑顔で答えた。


「まずは近しい方だけで顔合わせをするのよ?」


 まずは?

 前回の婚約御披露目パーティーからそんなに経ってないのに、またやんのか。

 何にしても怠い。

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