第26話 神サマと
「セクハラは止せ。」
シャスラーの低い声でハッとした。
うわっ!
いつの間にかヴィシュヌの片膝の上に乗っている俺。俺の腰に腕を回しているヴィシュヌ。
ナニコレ。
「セクハラ?相手が嫌がっていなければセクハラとは言わないよ。」
神サマがワケのわからない理屈を言う。
めっちゃ嫌ですけど。俺。
逃げようとするのをガッチリホールドされている。
「まだ若いようだが私の妻に迎えいれよう。」
は?
「どうだ?光栄に思え?」と、いう様なドヤ顔で俺を見つめるヴィシュヌ。
「其奴はネェちゃんのようで
「謀るな。
それともお前の手付きか?」
「我の手付きであろうが関係ないクセによく言う。」
シャスラーが呟く様に言ったのを無視して、ヴィシュヌが俺に向けてにっこり微笑んでいる。
俺って神が見間違うほど女顔なのか?本気で自信無くすんだけど・・・。
取り敢えずこの体勢は屈辱的だ。
「ホントに俺、男ですから。」
「私は美しければどちらでも構わない。」
ヴィシュヌの黒い瞳の奥が金色に妖しく光る。
あー。うん。何だかそうだな。
どうでもいいか。うん。
そんな気がしてきた。
「お前の名は?」
「・・・キャルロット。」
「キャルロット、私のモノになれば、お前の望みは全て叶えよう。」
望み?
俺の望みは・・・。
「セクハラは止めてクダサイ。」
沈黙。
「ブフーーっ!!」
堪えきれなくなったのか、木の後ろでシャスラーが吹き出した。ヴィシュヌの目が点になっている。
「あっはっはー!」
腹を抱えて笑っているシャスラーを横目に俺はヴィシュヌの膝の上から下りて少し離れて座った。
子供じゃないんだぞ、全く。
急に家に帰りたくなってきた。ピッテロ様が言ってた神がヴィシュヌじゃなくても神に会ったことには変わらないから、もういいや。
「いつまで笑っている。」
未だに笑い続けるシャスラーにヴィシュヌが言った。
「神に『セクハラ止めてクダサイ』って。フフッ。しかも、最高神に。」
「キャルロットは照れているだけだ。」
「違いマス。」
また笑い転げるシャスラー。
俺は立ち上がり、ヴィシュヌと木の後ろにいるシャスラーに一礼してから、カルラの所に近付いた。膝を折って休んでいたカルラが立ち上がる。
「ネェちゃん帰るのか?」
振り返り、背後に立っていた少し涙目のシャスラーを見て頷いた。
「困難に当たった時には世界樹に来るがよい。我が力になろうぞ。」
世界樹の葉がざわめき、白い髪が風に靡く。
また頷いて俺はカルラに跨がった。
「私は何時でも願いを叶えよう。
何ならずっと傍に居っても良いのだが?」
ヴィシュヌが俺の後ろに乗って、腰に手を回してくる。なんかうぜぇ。
セクハラの次はストーカーか?
「神サマって意外に暇ナンデスネ。」
「死にたくなる程退屈だ。」
「・・・・。」
どうぞ、ご勝手に。
セクハラすんなよ?
「もう一人のネェちゃんも無事に帰す故。」
ああ、セイヴァル。ちょっと忘れてた。
「お願いします。」
ペコリと頭を下げてからカルラを上昇させた。何かカルラの調子が良いような気がする。元々他のカルラより力があるとは思っていたが、更に羽ばたきが力強くなった様だ。
世界樹の効果か?
家に帰る前にラグドール神殿にカルラを置いてこなきゃな。この分だと着くのは夜中か。
「あ」
そういや何時でも願いを叶えるっつったよな?
俺は後ろに乗るヴィシュヌの顔を見つめた。
「ひとつだけ叶えて欲しいことがあります。」
「何なりと申せ。」
「俺の大切な人の笑顔が奪われたんです。
だから・・・。」
だから?
アイツから取り戻して下さい?
取り戻す為に俺を強くして下さい?
言葉に詰まる俺を見ていたヴィシュヌの口元がフッと緩んだ。
「焦らずともお前の願いは叶う。」
その一言に安心している自分がいた。
俺の罪悪感が少しだけ薄らいだ。
「お前アイツにも懐かれてるのか。」
風圧で聞き取るのがやっとだったがヴィシュヌがそう言った。
アイツ?
「おーーいっ!キャルロットぉー!」
横を見ると黒い翼のルゥが笑顔で両手を振りながら、俺達の乗るカルラと平行して飛んでいた。ルゥの姿を見つけてカルラのスピードをアップさせる。
「わーーー!なんでぇー!?」
お前に関わりたくないし、まだ勝てる自信がないからだよ!
逃げるのは本望じゃないが、尚も追いかけてくるルゥの姿が遥か後方に見える。
ん?俺はカルラを減速させて、後ろに悠然と座るヴィシュヌを見た。
「ルゥと知り合いなんですか?」
「ルゥ?
ああ、後ろの鳥?」
鳥って・・・。
俺でもそんな酷い呼び方しねーぞ?
「アイツ、何ですか?」
「何者か、ということか?」
頷く。
「だーかーらー。」
俺の目の前、ヴィシュヌの背後にルゥが滞空していた。
「ボクはボクだってば。キャルロット。」
どうしても教えたくないらしい。
そして恐ろしく地獄耳だな。
「まさか、俺と友達になりたいとか言わないよな。」
「トモダチ?」
ルゥが首を傾げて繰り返した。
やっぱりコイツ何かおかしいぞ?
「友達とはアレだよ。
一緒に語り合ったり遊んだりと、仲の良い者同士のことだ。」
何故か解説するヴィシュヌ。
「あー、それか。そうだね。
ボク、キミとトモダチになりたい。」
そして何故、お前は急に片言になるんだ?
「キミ達はトモダチなの?」
「私とキャルロットは友達以上の関係だな。」
「いつからだよ。オイ。」
思わずタメ口で突っ込んでしまったが、もうこの際どうでもいい。
「じゃあ、ヴィシュヌが居なくなればキャルロットのトモダチになれるんだよね?」
は?
ルゥの緑色の瞳がヴィシュヌを捉えて反らさず、唇は人を小馬鹿にしたように微笑む。
「やれやれ。折角の初デートなのに、興醒めだ。」
初デート。デートだったのか。
俺の中ではノーカウントだからな。
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