第20話 婚約御披露目パーティー
城からすぐ近くの新居に着く頃にはすっかり日も落ちていた。門の前で執事長がソワソワした様子で右往左往しているのが見えたが、俺達の姿を見つけるや否や凄い形相で駆け寄ってくる。
「お帰りなさいませ!キャルロット様、セイヴァル様!!」
「遅くなりました。」
セイヴァルの言葉に、執事長は笑顔で何度も首を縦に振っているが、早く早くと無言で急かしているのがわかる。馬の手綱を若い執事のオルフェに渡して俺達は屋敷に入った。
「お二人の着替えは部屋に用意しております。間もなくお客様も到着されますので。」
急げってことね。
いや、何なら着替えなくてもいいんだけど俺。顔出すだけだし。なんて事を言ったら怒られるだろうな。流石に。
俺とセイヴァルの部屋に行くには兄の部屋を通らなければならない。セイヴァルの後ろをのんびり歩いていると、兄の部屋の扉が少し開いていた。
中にいる女と目が合う。
あれが噂の『控えめで真面目そうなお嬢さん』か。何にしても興味はないけどな。
「キャル。少しは急げよ。」
へいへい。
着替えてからホールに向かうと、やけに人がいっぱいいる。入りきれなかった客人が、ホールから大きく開け放たれた窓の外の庭園にまで広がっていた。
本邸だったら入りきれただろうが、所詮は別邸。収容人数は考えずに招待してしまったのだろうか。音楽家達の演奏の中、皆立ったまま料理を食べたり、酒を飲んだりしている。
取り敢えずハラ減ったな。
料理の並んでいるテーブルに向かおうとしたのを、オッサン達に取り囲まれた。
酒と脂の混ざり合った独特の臭いに噎せ返りそうになったが、セイヴァルの方を見ると同じ様にオッサン達に懐かれている。
「君がキャルロット君かな?
ぜひうちの娘と話をしてみないか?」
「いやいや、先にうちの娘と!!」
「あそこにいるのが、うちの娘なんだが、なかなか美人だろ?」
はぁ、さいですか。
扇で顔が隠れて見えませんけどね。
いい加減に我慢の限界となってきて、近くにいたオルフェに視線を送った。
「キャルロット様。」
彼はオッサン達の間から俺をスマートに救いだして、壁際の椅子に座らせてくれた。
普段はアリア付きのメイド、ネルが直ぐに料理を盛り付けた皿を運んでくる。
セイヴァルも命辛柄に生還して俺の隣に腰掛け、執事が運んできた飲み物を一気に飲み干した。
「・・・死ぬ。」
気づけばいつの間にか、庭にでもいたのだろう父と母の姿があった。
さっき俺達を取り巻いていたオッサン達が今度は父を取り囲んでいる。元気だな・・・おい。
拍手と歓声の中、本日の主役である兄シャインと婚約者が御披露目パーティーとやらに現れた。セイヴァルも立ち上がって拍手をして出迎える。
俺はそれをチラリと見ただけで、また黙々と食事を続けた。
「60点だな。」
セイヴァルの座っていた椅子にクソ生意気なヴィダルが足を組んで座っている。
人の兄貴の嫁に点数つけんなよな。
・・・まぁ、俺も同感だけど。
可もなく不可もない、文字通り『地味で面白味のない女』だが、妻にするなら丁度良いのかもしれない。
「今日はリオに会ってないようだな。」
ヴィダルが俺を見ずに呟いた。
ホントにロザリオの匂いがわかんのか?コイツ。キモッ。
「お前、シスコン?」
冗談混じりで俺が言ったのをヴィダルは真顔で聞いていた。
「シスコンなんて単純な言葉で片付けるなよ。」
「・・・・。」
うわぁ~。マジか。
それ以上俺はヴィダルを茶化す事ができなくなり、グラスに入った葡萄ジュースを飲み干した。
腹も膨れたし、明日に備えてもう寝よう。
兄と婚約者が招待客一人一人に挨拶をして廻っている。
「シャインって18だっけ?」
確かそうだな。
ヴィダルの言葉に頷く。
「18で結婚なんて俺には絶対に考えられない。18でやっと神官学校を卒業できる。」
俺はヴィダルの真剣な顔をずっと見ていた。
「神官学校を卒業して何年かしたら、俺は副大神官になる。そしたら・・・。」
『金色の瞳』を持って生まれた大神官と違って、副大神官になるには血の滲むような努力が必要だという。
「そしたら、リオの側にずっと居られる。」
この感情は嫉妬なのだろうか。
俺はどんなに頑張っても神官になれない。勿論、副大神官になってロザリオの側に居ることなど不可能だ。
でも、ヴィダルはどんなに頑張って副大神官になっても、どんなにロザリオを想っていても、血の繋がった兄妹なんだ。
「「なんで」」
俺とヴィダルが同時に言った。
そして、その先の言葉を俺達は飲み込んだまま言うことは無かった。
『なんで金色の瞳はお前じゃなかったんだ?』
俺が言いかけた言葉。
ヴィダルはきっと
『なんでロザリオは俺の妹なんだ?』
と、言いたかったのだろう。
俺達は顔を見合わせて「はぁ~~~っ」と、溜め息をついた。
こんなめでたい席で不謹慎かもしれないが、俺達はまだ子供なのだからしょうがない。
セイヴァルが俺達の所へやって来たので、ヴィダルの相手をさせよう。俺は欠伸を噛み殺して席を立った。
兄の婚約者と目が合う。
もしかして「挨拶がまだだ」とか咎めてんのか?顔の割りにめんどくさい女だな。
名乗るくらいだけでもしてやるか。
戸惑うセイヴァルの腕を引っ張って兄の方に近づいた。
「あ・・・兄上。ご婚約おめでとうございますっ。」
セイヴァルが社交辞令をにこやかに述べ、それに合わせて俺もペコリと頭だけ下げた。
よし、任務完了。
「あの、シャイン様・・・?」
「ん?どうしましたか?」
婚約者に微笑む兄。
婚約者は俺とセイヴァルを震える瞳で交互に見つめたままだ。
「この度のご婚約のお話・・・無かったことにしてくださいませ。」
マジか。
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