第18話 完全に包囲されている
いつもの様にピッテロ様との鬼ごっこを終えて、新築の別邸にやって来た。今日からこの別邸から城に通うことになる。
「お帰りなさいませ、キャルロット様。」
屋敷の前で執事のオルフェが出迎えてくれた。馬を降りて手綱を渡す。
「直ぐに朝食のご用意を。」
・・・眠い。
メシ食ったら城の鳥舎にいるリオの様子を見るふりしてサボるか。
何だか屋敷の中が慌ただしい。
メイドや使用人達が俺の存在に気付くことなく右往左往に通りすぎていく。
まぁ、仮住まいから引っ越ししてきたばかりだからこんなもんなのだろう。
更に気配を消して食堂に向かおうとした。
「お帰りなさいませ。キャルロット様。」
うわっ!
急に目の前にメイドが現れたから、マジで心臓が止まりそうになった。よく見たらラグドール城でアリアのお付きをしているメイド、ネルじゃないか?
屋敷の中をウロチョロしてる連中の中にも見たことのない顔があることに気付く。
「おはよう。キャル。」
食堂からセイヴァルが顔を出した。
俺の表情から何かを察したのか、セイヴァルがニヤニヤしている。
「今夜は兄上の婚約お披露目の祝宴だから、ラグドール城とビアンコ家から助っ人が来てるんだよ。」
ああ、それ、今日だっけか。
余りにどうでも良すぎてすっかり忘れてた。
顔だけ出そうとか思ってたアレか。
朝食を済ませてからセイヴァルと城に向かった。
なんか夕方には帰って来いとか子供みたいなことを母から言われた気がする。
「俺も今日はカルラの鳥舎に行こうかな。」
珍しいな。セイヴァル。
いつもなら真っ先に皇子の所に行くのに。
「最近さ、城の中に入るのが恐くて。
あの女性特有の黄色い声とかコソコソ集まってこっち見てるのとか苦手。」
最近気付いたの?お前。
しかもそれ、城の中だけじゃねーからな?
「耳が良いから全部丸聞こえなんだよね。
それとも、あれって
城門にいる衛兵に会釈をし、溜め息をついてからセイヴァルが馬から降りた。
俺と違って愛想も良い分、女達もセイヴァルには近寄りやすいのだろう。俺が馬を繋いでいる間に早速、メイド達がセイヴァルを取り巻く。
仕方ない、助けてやるか。
「行くぞ。」
セイヴァルの腕を掴んで輪の中から引っ張り出した。瞬間。
「「「キャアアーーーッ!!!」」」
脳髄に響く奇声に俺とセイヴァルは耳を塞いだ。
何?
魔物でも出たか?
「キャルロット様のお声を初めて聞いちゃいました♡」
「かなりの激レア♡」
「ツーショット萌えです♡♡♡」
「私、眩しくて直視できません♡」
「・・・。」
・・・・。
アホらし。
城から何事かと飛び出してきた兵士と騎士に、異常の無いことを合図して俺達は鳥舎へと急いだ。
「なんかさ、どんどん酷くなっていってる気がするのって俺だけ?」
気のせいじゃないと思うぞ。
これ、いつからだ?
前はもっと平穏に城の中の生活でも過ごしていたんだから。
「皇太子様が誕生して、俺達がアリア様の婿候補じゃ無くなってから?」
「間違いない。」
セイヴァルの言葉に思わず呟き返す。
俺達二人はアリアの婿候補として城に幽閉されていた。謂わばラグドール皇国の未来を担うかもしれない存在だったから、城の内外部から守られていたんだ。その後ろ楯が無くなった今、まるで獲物を狙う狩人の様な容赦ない目が向けられている。
まぁ、女達が仕事もせず呑気にキャアキャア言ってられるんだから、それだけラグドール皇国は平和だということか。
俺達がまだ子供だから、からかっているだけかもしれないし。
「リオー!」
鳥舎に入るなりセイヴァルがカルラの雛を見て叫んだ。
なんで雛の名前知ってんだ!?
思わず顔が赤くなる俺。
ひょっこり顔を出したリオが羽をパタパタさせながら、俺達の許へとやって来る。
「可愛いなぁ。リオはー。」
だいぶ赤い羽根が増えてきたリオをセイヴァルが撫でた。
「リオってキャルが名付けたんだろ?」
「俺の名前から適当につけたんだぞ。」
何も言えずリオを見つめて固まっている俺の代わりに、カルラの餌箱を掻き回しながらマリオが答えた。セイヴァルが紫色の瞳で俺の顔を見ていたのだが、その表情がみるみるニヤけていく。
ムカつく顔だなっ!おいっ!
「へええええええっ。」
絶対、バレてる。
いや、バレない筈がない。
「リオー、俺とお散歩しようかー?」
ニヤニヤしながらリオを撫でるセイヴァル。
俺はリオの母鳥を柵越しに撫でた。
リオの母親だからお前はイザベラか?ベラだな。
とか、心の中で名付けてみる。
ハッとして鳥舎を出ようとするセイヴァルを振り返った。
鳥舎の外に出るのはマズイぞ!?
案の定、セイヴァルはリオを抱いたまま回れ右をして、スタスタとこちらに逃げてきた。
な?
と、言う顔で俺はセイヴァルの肩を叩く。
「わかってたんなら教えろよ!」
教えようとしたら、もう遅かったんだよ。
セイヴァルの顔が真っ青だ。
「何あれ何あれ!?
完全に包囲されてるんだけど!?」
「大丈夫か?セイヴァル。」
パニック状態に陥っているセイヴァルを見て、マリオがさして心配もしてない顔で言った。
「鳥肌ヤバい。」
セイヴァルが腕捲りをした前腕を俺に見せつけてくる。
外の光景を想像しただけで俺もトリハダが伝染してしまった。
こういう時はカルラで逃げるに限る。
今日は雨も降りそうにないしな。
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