第16話 神官との対決
「魔法と体術は使わないから安心しろ。」
ジンさんの持つ剣の刃が光る。
なんか意味がわからんけど、戦うしか無いようだ。俺も腰の剣を抜いた。
体格、力、腕の長さ、加えて神官特有の細身の長剣。相手を分析する。
神官と戦うのは初めてだ。
踏み込んで相手の懐に飛び込んだ。あの長い剣では超接近戦は不利だろう。
胸元を狙った俺の剣は弾かれる。
まぁ、それは想定内。間髪入れずに次の一手を繰り出した。
が、不意に視界に入る刃の動きに飛び退いた。
ちょっと待て。
直感的に体が反応し、ジンさんから離れた間合いを取る。何かおかしい。あの細身の長剣のせいなのか、今どこから斬り込んできたのか、太刀筋が全く見えなかった。
いや、でもこの距離はジンさんの方に利がある。ジンさんがニヤリと笑う。
そして、そのまま片手で握った剣を振り下ろした。ムチの様に
弾く度に重くなっていくジンさんの長剣を歯を食い縛って防ぐ。
やっぱりこの距離はダメだ。
大きく弾いたタイミングで再び懐へ飛び込むが、意外に機敏なジンさんは自分の間合いをキープしたまま攻撃の手を休めない。広い訓練所の中に息遣いと剣の交わる音だけが響く。
汗が吹き出た。
俺は負けるのか?
そう思った瞬間、下から上に振り上げられたジンさんの剣に打たれ、俺の剣が宙に舞った。
剣をキャッチするジンさん。
「見事にぶち当たってるな。」
俺に剣の柄を突きだしてジンさんが半眼で言ってきた。差し出されたその剣を受け取る。
「・・・俺の負けです。」
「ああ。約束通り、お前は俺の下僕だ。
・・・名前何だった?」
「キャルロット。」
「おう。下僕。
明日の朝4時にまたここに来い。」
は?
てか、何で名前聞いたんだよ!?
「じゃ、そういうことで。
俺も忙しいんでな。
あ、明日は馬で来いよ。」
ジンさんは俺に背を向けて訓練所を出ていった。ポツンと取り残される。
ジンさん、強すぎでしょ。
剣だけでも勝てないのに、魔法と体術も加わったら一瞬で殺されるぞ。俺。
次の日の朝4時。
何とか俺はラグドール神殿の訓練所にいた。
馬で来い。との命令があったから夜中に城を出て馬を走らせ、神殿の地獄の階段を駆け足で上った。
マジで眠い。
父にジンさんとのやり取りを軽く説明したら、何故か俺が下僕になったことは既に了承済みだった。
「よく起きれたな。エライエライ。」
ジンさんが訓練所の床に寝そべりながら俺に向かって言った。
「早速、俺の代わりに大神官を探してきてくれ。今の時間は何処かで礼拝している筈だが、アイツのことだから宛てにはならん。」
は?
「制限時間は2時間。神殿のカルラを特別に使わせてやる。」
え?
「アイツ逃げるからマジでめんどくせーぞ。」
言われた通りにやるしかない。
神殿の鳥舎に向かった。
何処かで礼拝って神殿か?教会もあるな。
礼拝をしていないとして、ピッテロ様の行き先と言ったら、ビアンコ邸としか思い付かないのだが、そんなに単純なら2時間も制限時間を設けるワケはないか。
神殿の鳥舎には6羽のカルラがいた。カルラ達は初めて見る俺のことを、丸くて黒い目ん玉でじっと観察している。
「君がゲボク君?」
鳥舎の奥から女が姿を現した。20歳前と言ったところか。後ろに結んだ金髪と整った顔立ちのスラリとした美人だ。彼女の足下にリオと同じくらいのカルラの雛が2羽いる。
「やっだ。」
女はツカツカと俺の目の前まで来て、顔をジロジロと見つめた。背は俺よりも高い。
「ちょっとゲボク君ってば、超イケメンじゃないの!!」
俺の肩を掴んでガクガク揺する女。
・・・・。
顔、近いっス。
「わたしはリザ。神官学校の1年生よ。
今は長期休暇を使って研修に来てるの。
よろしくね。」
やっと解放してくれたリザに向かって俺はペコリと頭を下げた。
ん?神官学校の1年生ってことは、15か16!?俺とそんなに変わんないの?若いとは思ったけど、いや、大人っぽすぎね?
「ゲボク君はどのカルラが好き?」
名前については面倒なので、否定はすまい。
「クルルっ!」
あ、アイツは・・・。
この前ビアンコ邸からラグドール城まで乗せてってくれたヤツか?
俺はそのカルラに近づいて首を撫でた。
やっぱりそうだ。よく憶えててくれたな。
「お目が高いね。そのコは大神官のお気に入りだから、きっと役に立つよ?
まぁ、わたしは大神官に会ったことないんだけどね。」
神官なのに?
まだ学生だから会えないとかなのか?
「ホントに綺麗な顔ね。」
やべ。無意識にリザの顔見すぎたか?
でも、遠巻きにコソコソ噂されるより、リザみたいに思ったことを面と向かって言われた方が嫌な気分にはならないな。
「じゃ、お借りします。」
カルラに手綱と鐙を装着する。
「待って。ゲボク君。
大神官はラグドール領内にいるの?」
ん?
「大神官は神殿の中の魔法陣を使って移動するのよ?もし、他の地方に行っているとしたら、カルラでも2日はかかるよ。」
「・・・・。」
俺はカルラを撫でてから深呼吸をした。
カルラが頬を俺の頭に擦り付けてくる。
「ゲボク君?」
心配そうに顔を覗き込んでくるリザ。薄いブルーの瞳と目が合う。
俺はリザにお辞儀をしてから、鳥舎を飛び出した。
あんの、筋肉モリモリマンめ~!
行き先はただひとつ。
「やぁ。キャル君。おはよう。」
ラグドール神殿の礼拝堂だ。
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