第13話 オマエハナンダ?

「いやぁ、流石だねぇ。」


 長椅子に座ったままルゥが拍手している。

 血の海の中、俺はルゥの座っている長椅子に辿り着き横に座った。


「殺してあげないのが逆に残酷だよね。」


 ルゥの言う通り、兵士4人共ギリギリで生かしている。連絡はしてやったから、その内に医者なり魔法医療班なりがやって来るだろう。


「ホントに。使にならないくらいなら、死んだ方がマシだよ。」


 ルゥが眉を歪ませて痛そうな顔をした。

 お前、ずっとゲラゲラ笑って見てただろうが。ちゃんと見てたぞ、俺は。

 まぁ、は魔法でも戻せないくらいに原型無くしたからな。


「チョン切った後にキャルロットがグリグリして、グッサグサ刺してる時の憎しみが籠って狂気じみた顔が最高に良かったな。」


 そんなに鮮明に語られるとは。

 こっちまで何となく股間が・・・。


「何なの?お前。」


 俺はルゥの顔を見た。

 ルゥはキョトンとした顔で俺を見ている。


「ルゥだよ。」


 知ってるよ!!馬鹿なの?


「何で俺に付きまとうの?」


「わかんない。」


 ・・・やっぱり馬鹿か?

 俺は緑色の瞳を見つめた。

 ロザリオが実体がないみたいなこと言ってたな。どう考えても目の前にいるけど。


「でも、君のコトを気に入ったのは確かかな。すっごく興味あるよ?」


 ザワッ!!

 その手の話題は暫く控えたいところなんだけど?トリハダがヤバい。

 待てよ?勝手に俺が男だと思ってるだけで、実はコイツ女なのかもしれない。


「お前、・・・女なのか?」


 俺はストレートに聞いてみた。これが本当に女の子だったとしたら、これほど失礼なことはないだろう。


「男だよ。馬鹿なの?」


 頭くるヤツだな。お前が気色悪いこと言うから一応確認しただけだろうが。

 気がつけばルゥが俺の太腿に手を翳している。治癒の魔法か。

 いや、俺より床に転がってるヤツらの方が重傷なんだが。


「雨が止んだみたいだね。」


 ルゥが立ち上がった。

 俺の太腿の傷が塞がっている。

 そのまま立ち去ろうとするルゥを止めようと俺も椅子から腰を上げた。

 引き止める俺に気づいたのか扉の前で振り返る。


「ボクは優しいからちゃんと殺してあげるね。」


 え?


「ぐぁっ!?」


「助けっ・・・!」


「ヒッ!」


 何が起きたのか判らなかった。

 ルゥが視線を送っただけで次々に苦しむ兵士。4人共、顔がルゥの方を不自然に向いている。

 近くに転がっている兵士の捩れた頸動脈を確認した。

 ・・・絶命している。




「どう言うことだ?キャルロット。」


 城に住んでいた時に使っていた自分の部屋の自分のベット。傍らに父が座って俺を見据えている。

 呆然と血の海の中にいたのを保護されたらしい俺。

 あの後の記憶がいまいちはっきりしない。


「喋れる様だったら説明してくれ。」


 父の顔を見てゆっくり頷いた。


「・・・カルラに乗ってたら・・・。

 雨が・・・。」


 天井を見る。

 雨がまた降りだすのか、遠雷が聞こえる。


「雨が降ってきたからあの詰所に行ったのか?」


 セイヴァルの声。

 父の隣にセイヴァルがいるのに気づいた。

 何となくホッとして息を吐く。


「・・・女と間違われて・・・。」


「待て。キャルロット。」


 判然としない頭で父を見る。どうやら人払いをしたようだ。部屋の中には俺と父とセイヴァルしかいない。


「・・・最初は一人が、4人に増えて・・・。」


「・・・乱暴されたのか?」


 父に尋ねられて、首を横に振った。

 乱暴といえば乱暴になるのだろうが、父が言っているのはそういう意味ではないのではないと思った。


「・・・されてない。押さえられて脱がされそうになったから、斬った。」


 俺は上体を起こした。セイヴァルが慌てて俺の体を支える。


「殺してない。急所は外した。

 アイツが・・・ルゥが・・・。」


「ルゥ?知り合いがそこにいたのか?」


 知り合い?知り合いなのか?

 アイツは・・・


 ───アイツは何だ?


「お前の剣は確かに急所は外れていたよ。」


 父が静かに言った。


「お前が咎められることはないだろうが、少し休むといい。」


 セイヴァルに目で合図をして、父は部屋を出た。


「また、お城生活に戻ったね。キャル。」


 俺はベットに体を戻した。不自然なほど俺達がいた頃のままの部屋。まるで戻って来ることがわかっていたかのようだ。


「俺も一緒にいるよ。」


 セイヴァルに頷いて目を閉じた。

 俺が連れていったカルラはどうなったか。繋いでいた訳じゃないけど、ちゃんと城に戻っただろうか。


 コンコン。


「父上かな。」


 軽くノックされた扉にセイヴァルが近づいた。


「はい。」


「セイヴァル様。お食事のご用意が整いました。」


 若いメイドの声。

 体が拒絶する。


「どうした?キャル。」


 セイヴァルが俺の所に戻ってきた。

 頭から毛布を被って蹲る。


 今朝のやけに声をかけてくるメイド達。

 俺を見る女達の目。噂する声。

 俺を犯そうとする男の顔。

 押さえ付けられる腕の力。


 何だこれ。

 俺は男か?女か?


 俺は何だ?


「俺、なんか変だ。普通じゃない。」


 俺は自分の存在が途轍とてつもなく気持ち悪く思えた。


「・・・お前が変なら俺も変だよ。

 同じだ。」


 同じ?


 俺達は同じだけど違う。

 俺がキャルロットで、俺じゃ無い方がセイヴァル。

 お前がセイヴァルで、お前じゃ無い方が俺。

 考えてることや、感覚は似ているようで違う。

 でも、きっと他人から見たら俺達は同じなんだ。


 だけど、少なくとも、俺はお前を気持ち悪い存在だとは思わない。

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