第9話 ラグドール皇国に繁栄あれ!
「祝いの席だぞ。控えろよ。」
セイヴァルが俺とヴィダルの間に割って入ってきた。毎日一緒にいると気付かなかったけど、いつの間にかコイツも大人になってたんだな。あぶねぇ。セイヴァルが止めなきゃお互い剣を抜いてるところだった。
「チッ、キャルロット。後で覚えてろよ。」
捨て台詞を吐くヴィダルにまだキャアキャア騒いでいる取り巻きの女達。
てか、めんどくせぇ・・・。
「仲の宜しいしいこと。ウフフ。」
扇で口元を隠しながらイザベラ様が俺とヴィダルを見た。
仲はヨロシくねえよ?
取り敢えず、今のラグドール皇国では騎士より神官の方が位が上だ。更にイザベラ様は公爵家の出身。
俺とセイヴァルは一歩下がって頭を下げた。
ド派手な一行が立ち去ったのを見計らってなのか、アリア専属のメイド、ネルが俺達の元にやって来た。
「キャルロット様。セイヴァル様。
お待たせ致しました。
お二人のお席も設けておりますのでご案内致します。」
ネルは40歳を越えていると思われるオバサンのメイドなのだが、俺達はこの人に滅法弱い。母に近い年齢ということもあるが、彼女に救われたことも一度や二度ではない。
俺が城を月イチで抜け出せているのも、ネルの後ろ楯が無ければ到底不可能だろう。
そんな彼女に連れられて上座の方に歩いていく俺とセイヴァル。言っておくが彼女は賢い人間なので俺達が目立ちたがりな人間では無いということは承知の末だ。使用人が通るような通路を進み、上座の隅まで連れてきてくれた。
「アリア皇女様のおなーりー。」
歓声と供にアリアが姿を現した。
白地にピンクのリボンがあしらわれた豪華なドレスとピンクサファイヤの宝飾品。薄化粧を施した顔はいつもより大人びて見える。アリアも3年前に比べたら皇族としての気品や堂々とした立ち居振舞いが備わってきた。俺達と目を合わせると未だに顔を紅くして俯くのだが。
長いテーブルの真ん中に座るアリア。大皇がその隣で眩しそうに愛娘を見つめている。皇妃の席が不在だったのだが、懐妊中で間もなく生まれるとかセイヴァルが言ってたな。
「アリア皇女様、万歳!
ラグドール皇国に栄光あれ!!」
大臣の発声で祝宴が始まった。目の前に運ばれてくる料理を取り敢えず食おう。
「あ、母上。」
セイヴァルが立ち上がった。骨付き肉と格闘しているところを無理矢理腕を引っ張られる。母はイザベラ様と一緒にアリアへの祝辞の長い行列に並んでいた。俺達を見つけて手招きしている。
「行こう。」
ナプキンで手と口を拭いてセイヴァルの後に付いていった。母と会うのは俺達の誕生日以来だから半年ぶりだろうか。
「キャルロット、セイヴァル。また大きくなったんじゃない?」
「お久しぶりです。母上。
今は俺の方が背が高いですよ?」
微笑む母にセイヴァルが誇らしげに言った。まあ、高いと言っても紙一重だけどな。
「ウフフ。ちょっと声変わりもしてきたんじゃないの?」
声変わり?
言われてみれば、セイヴァルの声が何となく掠れているような・・・。
ということは俺も声変わりするってことだよな?
極当たり前のことなのだが、軽い眩暈を起こす。ロザリオが『大好き♡(←♡は無かったか?)』って言ってくれた透き通ったこの声がドブ川みてぇなダミ声になっちゃうってことか?
そんなの耐えられない。ロザリオに嫌われてしまう。
ふと、壁際に立っている人物と目があった。貴族の格好をした俺と同じくらいの異国風の少年。
───ルゥ?なんでアイツが?
厳重な城の警備を通れたってことは、招待客なのだろうか。
俺の顔を見てニヤニヤしているルゥ。やっぱり気に食わねぇ。
てか、ロザリオの笑顔を早く返せよ。
いつの間にか俺達はアリアに祝辞を言う番になっていた。アリアが頬を染めながらも俺達の顔をしっかり見ている。
「アリア皇女様、9歳のお誕生日おめでとうございます。皇女様のこれからの健やかなる成長をお祈り申し上げます。」
「アリア様。おめでとうございます。」
母とセイヴァルの祝いの言葉にゆっくり頷いたアリアが、今度は俺に視線を移した。
俺にも何か言えってか。
「───。」
「大皇様!!ご報告です!!」
俺が「お」の口を作った瞬間に、皇族が出入りする扉が勢い良く開け放たれた。一斉にその人物に視線が集中する。皇妃の側近のジジイだ。
「男児です!
皇妃様が皇太子様を御出産されました!!」
一瞬の沈黙。
ワァァァーーーーーー!!!
会場が割れんばかりの大歓声。大皇とアリアが涙を流しながら抱き合って喜んでいる。
「ラグドール大皇様!万歳!!」
「ラグドール皇国に繁栄あれ!!」
「おめでとうございます!!」
「今宵はなんとめでたい日だ!」
ラグドール皇国は男尊女卑が色濃い国だ。子供の出来ない大皇夫妻に待望の男子が産まれたら、皇位継承権はアリアではなく、生まれたばかりの皇子に必然的に移る。
と、いうことは、アリアは世継ぎではない。婿候補の俺達は幽閉生活から解放されるということか?
俺と同じことをセイヴァルも思ったのだろう。少し目が潤んでいる。何にしてもこの場で口を慎まなければいけない内容だから口には出さない。
母が目を潤ませて俺達の肩をそっと抱いた。
「私、ラグドール神殿に毎日お祈りに行ったの。皇太子さまがラグドール皇国に誕生されることをね。」
あの階段を毎日!?
足ムキムキになんじゃねーの?母上!?
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