第7話 奪われた笑顔

 やべぇ。

 俺のせいで、俺が弱いせいでロザリオが笑えない子になってしまった。

 取り敢えず謝ろう。誰に?

 ロザリオにだよ!

 俺はしゃがんでロザリオの顔を見つめた。


「あの、ロザリオ。

 ・・・ごめ・・・」


「おとうさまっ。」


 急に俺から視線を外して駆け出すロザリオ。

 おとうさま?

 完全に俺、終わった。

 ロザリオの父親は最強の大神官だ。絶対殺される。

 恐る恐る振り返ると、既にピッテロ様がロザリオを抱き上げていた。


「リオちゃあーん♡♡♡

 パパに会いたかったー???」


 ロザリオを高い高いするピッテロ様。

 やべぇ。ロザリオが全然笑ってねぇ。

 ルゥが言った通り笑顔が奪われてしまったみたいだ。目立たないように体を小さくする俺。


「パパはすっごくリオちゃんに会いたかったよぉ~っ?」


「またおしごとさぼったのですか?

 おとうさま。」


 冷ややかなロザリオの声。


「うんっ!さぼっちゃった!」


 更に高い高いを続けるピッテロ様。

 そんなに頑張っても、もうロザリオは笑わないのに・・・。

 ああっもう見ていられない!


「すみませんっ!ピッテロ様!!」


 俺は頭を下げながら二人の前に飛び出した。

 殺されても仕方のないことをしてしまったんだ。俺は。


「あれ?キャル君?」


 尚も汗だくになりながら高い高いをするピッテロ様。俺に話しかけた後に漸くロザリオを下ろした。


「ふぅー。楽しかったね。リオちゃん♡♡♡」


「はい。おとうさま。」


 いやいやいや!全然笑ってねーし!!


「で、キャル君は何で謝ったの?」


 背中に脂汗が滝の様に流れているのがわかる。謝って済む問題じゃないこともわかっている。


「俺のせいで、ロザリオの笑顔が奪われたんです。すみませんっ!」


 しーーーん。


「え?何言ってるの?キャル君。」


「俺が黒い翼のヤツに負けたから、ロザリオの笑顔が盗まれちゃったんです。

 さっきの高い高いでも全然笑ってなかったし・・・。」


「リオちゃんは大人しいからいつもこんな感じだよ?」


 ───え?


「リオちゃんの笑顔を僕が最後に見たのは3年前だったかなぁ。」


 遠い目をするピッテロ様。

 3年前ってロザリオが生まれた時じゃね?


「俺、さっきロザリオの笑った顔、結構見ましたけど・・・。」


 謝罪の姿勢のままロザリオにチラリと視線を移した瞬間。

 ナイフで突き刺された様な鋭い視線を感じてピッテロ様を見た。何?今の。

 物凄い殺気に顔面から血の気が引いていく。

 あれ?でもいつも通りのにこやかな顔のピッテロ様だ。

 気のせい?


「それは幻だよ。キャル君。」


「そうですか・・・?」


 え?俺、セーフ?助かったの?


「きゃるろっとさま。」


 ロザリオが俺の袖を引っ張っている。

 か・・・かわいい。

 俺はしゃがんでロザリオと目線を合わせた。


「みなさまがあなたをさがしています。

 きゃるろっとさま。」


 あれ?もう俺、セラフィエルじゃねーの?

 てか、やばっ!今日の夜になんかあるとかセイヴァルが言ってたな。

 ビアンコ家から城まで走ってもかなりかかるのに、急がないと。


「キャル君。お城まで僕のカルラに乗っていくといいよ。」


 ピッテロ様が指差した先に、人が乗れる様に交雑と調教をした大型鳥類のカルラがいた。


「いいんですか?」


「いいんだよ。僕はジンが迎えに来るからね。」


 ジンさん。3年前にここで会ったことがある。ピッテロ様を連れ戻しに来た格好良い神官だな?

 でも、ビアンコ家からラグドール神殿ってめっちゃ近いけど、ピッテロ様はカルラで来たのだろうか。

 まぁ、いらぬ詮索はやめよう。


「すみません。お言葉に甘えます。」


 俺はピッテロ様にペコリと頭を下げてカルラに乗り込んだ。城にいるカルラと違って穏やかそうな顔をしている。振り返るとピッテロ様に抱っこされたロザリオが俺に向かって手を振っていた。しかし、その顔に笑みはない。

 胸がキュッと締めつけられた。

 ロザリオに手を振ってカルラを助走させる。


(俺、絶対に君の笑顔を取り戻すよ。必ず。)


 あのルゥってヤツが何者なのかわからないけど、アイツより絶対に強くなる。大神官になる君にも負けない位に。

 そして、もう一度君に笑ってもらうんだ。


 ピッテロ様とロザリオが小さくなっていった。カルラは風のようにラグドール皇国の都の上空を飛び、あっという間にラグドール城に到着した。城の一番高い塔の屋上に降ろしてもらい、カルラを撫でた。


「ありがとう。もう、神殿に帰っていいよ。」


 そう告げるとカルラは「クルルッ」と声をあげて夕焼けの空を神殿へと飛んでいった。



「キャル!どこ行ってたんだ?」


 自分の部屋に戻ると、まずセイヴァルに怒られた。なんか騎士の正装してる。


「今日はアリア様の誕生パーティーだっていってあるだろ?」


 あー、そうだった。だりぃ。

 ベットにそのまま倒れ込んだ。このまま寝れる。


「着替えろよ。」


 セイヴァルに促されて仕方なく体を起こした。何か喉の調子がおかしい。今日は一生分くらい喋ったからな。

 ロザリオと話するの楽しかったな。


「何ニヤニヤしてんの?

 気持ちわりぃ。」


 思わず顔を抑える。

 イカン。ロザリオのことを思い出すと、どうしても顔が弛む。


「今日は護衛じゃなくて、アリア様のご学友としての出席だってさ。」


 だりぃな。なんだそれ。

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