第5話 天使
俺とセイヴァルが皇族付きの見習い騎士として城に来てから3年の月日が流れた。相変わらずの幽閉生活ではあるが、脱走することも覚えたから中々快適に過ごしている。
脱走しても家には帰れないから行き先は勿論、ロザリオのいるビアンコ邸だ。
1ヶ月に一度だけだが、遠くからロザリオを眺めているだけで幸せだった。1ヶ月経つ度に、驚く程成長していくロザリオ。赤ん坊じゃなく、俺の目にはもうすっかり女としか見られないようになっている。
今日も1ヶ月ぶりにロザリオの様子を見に来た。と、言っても会うことはできずにいるのだが。
ヴィダルとカシマシ娘達は学校に行っているのだろう。ロザリオとお世話係のメイドが庭園で布を広げて日向ぼっこをしている。
3歳になったばかりのロザリオは栗色の髪を2つに結んで、ピンク色のワンピースを着ていた。その姿の愛らしい事といったら・・・!!
かなり距離が離れているのに悶絶してしまう俺。鼻血が出ていないか確認する。
メイドの膝の上で分厚い本を懸命に読む姿にも思わずニヤけてしまった。何の本かなー?赤ずきんとかかな?
もう少し近づいてみよう。
いつもは満足する距離なのに、今日は何故だか欲張りになってしまったようだ。ロザリオ達のいるすぐ後ろの木の陰まで来てしまった。
「それへいのかたちはみずにかたどる。みずのかたちはたかきをさけてひくきにおもむく。」
何の本だ?一体。
ロザリオが声に出している本の内容が理解できない。取り敢えず絵本ではなさそうだな。その前にもう字が読めるとは・・・もしかして、ロザリオは天才児か?
よく見ればロザリオを抱いているメイドが眠っている。相変わらずユルいよな、ここの使用人達。
「だれかいるの?」
しまった!
慌てて木の裏で小さくなる。腹を凹ませて体を棒の様に精一杯細くさせた気持ちで息を止める。
しかし、小猫みたいななんて可愛い声なんだぁ~。
「あなたはだぁれ?」
いつの間にかロザリオが目の前にいて、小さな人差し指で俺を指差していた。金色の大きな瞳が瞬きもせずに俺を見つめる。
「どろぼー?」
ブンブンと首を横に振る。
「ゆうかいはん?」
更にブンブンブンっと首を横に振った。
「あめじすとの、め。
ほうせきみたいにきれい。」
君の瞳の方がキレイだよ。
「わたし、しってる!
あなたはてんしさまでしょう?」
え?
ロザリオの金色の瞳がキラキラ輝いている。
本物の天使は君だって!
「せらふぃえるさま。こっちにきて。
アイラがおきちゃう。」
俺の右手をロザリオが掴んだ。
てっ・・・!!手ーーーーっ!!!
やわらかっ!!マシュマロみたいだ!
ロザリオに手を引かれてお世話係のメイドから、離れた所にあるベンチに俺とロザリオが座った。
「せらふぃえるさま。」
ん?セラフィエルって俺の事?
いや、俺、キャルロットなんだけど。
「わたし、ロザリオっていいます。」
知ってるけど。
「いつもみまもってくださり、
ありがとうございます。
せらふぃえるさま。」
にっこりと笑顔を見せるロザリオ。
もう俺、セラフィエルでいいや。
ロザリオと繋いだ手が汗ばんでくる。
「ロザリオは何かお願い事はないの?」
俺はロザリオに向かって問いかけた。ロザリオがまたにっこり笑う。
「わたし、
たくさんべんきょうして、
たくさんまほうとか、
けんのれんしゅうして、
つよくなるから、
ラグドールがいつまでもへいわで
しあわせでありますように。」
ホントに3歳か?
3年前10歳だった俺とセイヴァルの願いとは大違いだ。
「なりたいものとかは?」
「だいしんかんになるから。」
「欲しい物は?」
「ないわ。」
「じゃあ、俺に何かして欲しいことある?」
ロザリオが金色の瞳でじっと俺を見つめている。あまりにも曇りのない透き通った瞳の美しさに本当に吸い込まれてしまいそうだ。
「だっこ。」
「え?」
笑顔で両手を広げるロザリオを凝視する。
だだだっ!抱っこ!?
レベルたけぇ。
俺は立ち上がって生唾を飲み込んでから、ロザリオの体を持ち上げた。
かるっ!やわらかっ!!骨とかあんのか?
「これでいいの?」
俺の首にしがみついたままロザリオが頷いた。
あ~、なんて幸せなんだ。これは夢か?このまま死んでも全然悔いはない。
「せらふぃえるさま。
もっとつよくなってくださいね。」
ロザリオが俺の耳元で囁く様に言った。
「ん~?」
聞き返した俺の顔を小さな両手で挟んで、強い眼差しで見つめる。
「もっと、もっと強くなってラグドールをお救い下さい。セラフィエル様。」
「わかった。約束するよ。ロザリオ。」
ロザリオが頷いて、俺の額にキスをした。
ーーーー!!
余りの出来事に全身の力が抜けて、危うくロザリオを落としそうになってしまいそうになる。
「せらふぃえるさま。」
「ふぇ?」
「わたし、
せらふぃえるさまのあめじすとのひとみも、
うつくしいおかおも、
すきとおったおこえも、
やさしいてもだいすきです。」
この子、俺の事殺す気なの?
俺も・・・俺も、いや、俺の方がもっともっと君のことが丸ごと大好きだ!!
と、叫びたかったけど、はぁはぁという息しか出てこない。端から見たら完全に幼女に萌える変態にしか見えない事だろう。
「・・・俺も、君に・・・キ、キスしていい?」
ロザリオが笑顔で頷いて、瞳を閉じた。
───もう変態、決定だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます