第4話 皇女のご学友
あれから暫く俺はビアンコ家に行っていない。ロザリオに逢いたくて気が狂いそうだ。
俺とセイヴァルはラグドール皇国の皇族付き見習い騎士兼第一皇女アリアの学友として、城に幽閉されている。学友って言ってもアリアは俺達の4歳も下なのに意味不明だ。ビアンコ家のクソガキ達と年は変わらないのに、アリアの性格は穏やかなのがまだ許せるけど。
「あの、キャルロット・・・?」
アリアに話かけられて俺はアリアに目を向けた。自分で話かけといて顔を本で隠すアリア。
「睨むなよ、キャル。
アリアさま、どうしたの?」
睨んでねーし。
セイヴァルがアリアの肩に手を置いた。本から顔を離したアリアの顔が真っ赤だ。
「あの、ここの文章の意味がわからないのです。」
俺達が城に来てからもう1ヶ月経つのに、いい加減慣れないのかこの女は。
ご学友はビアンコ家のカシマシ娘の方が適任なんじゃねーの?少しはそのアガリ症が治るかもしれねぇぞ。
「これはね・・・。」
親切丁寧に教えるセイヴァルを溜め息混じりに見た。子供好きなセイヴァルには合ってるか。何なら膝の上に抱っこでもしそうな勢いだ。
俺は読んでいた魔法書にまた目を落とした。
魔法が使えなきゃ神官になれない。神官になれたらロザリオに少しでも近づけるのに。
ロザリオ。あれから1ヶ月も経ったから、ちょっとはおっきくなったかな。
城からビアンコ家までは馬を走らせも20分はかかる。俺とセイヴァルが城に来てからは、家に帰らせてもらうこともないし、外出といえば皇女の日課である庭園のお散歩位しか外に出ることはない。それも、徒党を組んで庭の花なんかを見て「姫、あれに見えますは、なんちゃら花で・・・」とか、「姫様、あそこに珍しい鳥が・・・。」とかゆっくり歩き回る眠たくなる時間でしかない。
「キャルロットは魔法に興味があるのですか?」
少し離れた所からアリアが話し掛けてきた。この距離だと俺のことが怖くないらしい。
俺はアリアに向かって頷いた。
「使えないですけどね。おれもキャルも魔法の素質がなかったみたいで。」
俺の代わりにアリアの隣に座っているセイヴァルが答えた。
「まぁ・・・。」
アリアが両手で口を覆った。金色の巻き毛に小さい透き通る様な白い顔。ロザリオ程ではないが、なかなか可愛らしい顔をしているとは思う。
「アリアさまは魔法の素質があるんでしたっけ。いいなぁ。」
「ですが、素質があるだけで使えません。」
セイヴァルに見つめられてまた顔を赤くするアリア。碧色の大きな瞳が潤んでいる。
素質があるのに使えないなんて勿体無いことするヤツ。てか、練習しないから使えないんじゃないのか?
「何でしたらキャルロットに差し上げたいくらいです。」
ホントだよ。俺だったらその能力を有効に使ってやるのに。
神様は本当に不公平だ。
「しょうがないですよ。遺伝も関係してるみたいですしね。」
ソーヴィニヨン家には代々魔法を使える素質のある人間がいなかったらしい。そのお陰で剣術の才が磨かれてラグドール皇国で一、二を争う名門となったのだという。
「アリアさまってさ、絶対キャルのこと好きだよね?」
寝る前にセイヴァルがクスクス笑いながら言ってきた。俺はその隣のベットの中でもう眠りそうだったのに、迷惑なヤツだ。
(俺の目にはアリアはセイヴァルに気があるようにしか見えないけどな。)
「そんなことないよ。
キャルに魔法の素質あげたい、なんて言ってたし。」
空気の漏れる様な声で言っているのに確実に言葉を拾うセイヴァル。双子だからか?
(それは話の流れじゃねーの?)
「顔真っ赤にして可愛いよね。」
(・・・興味ない。)
「でもね、おれ、この前、城のメイド達が話してるの聞いちゃったんだ。」
(なに?)
「おれとキャルロットはアリアさまのおムコさん候補なんだって。」
「はぁ?」
「やっと声出したね。」
思わず起き上がった俺の顔を見て、セイヴァルがニヤリと笑った。そのムカつく顔を一瞥して、またベットに寝転んだ。
「大皇さまにはアリアさま一人しかお子さまがいないでしょ?やっとできたお子さまなんだって。」
(世継ぎがアリアってことか?)
「おれ達はそのおムコさん候補だから、外からの悪い影響を遮断するために連れてこられたらしいよ。」
(だりぃ。お前に譲るよ。)
「また、そういう事言う。」
寝返りを打ってセイヴァルに背を向け、会話を打ち切った。
「・・・おれ達。もう家に帰れないのかなぁ。」
淋しそうにセイヴァルが呟いた。鼻を啜る音もするから泣いているんだろう。城に来たばっかりの時は毎晩泣いててウゼェと思ったけど、また復活したのか?
(逃げ出すか?)
俺はセイヴァルの方に顔を向けた。涙をいっぱい貯めた紫色の目でセイヴァルが俺を見ている。
「だっ、ダメだよっ。父上にも迷惑がかかるし、それにお城には人がいっぱいいるし、無理だよ。」
(んじゃ、泣くな。)
セイヴァルから顔を背けた。
ま、俺一人だったら抜け出せるだろうけど、セイヴァルを残して逃げるのも男らしくないと思った。
「キャル、一緒に寝ていい?」
俺の返事を待たずにセイヴァルが俺のベットに潜り込んできた。
ウゼェ。てか、鼻水つけんなよ?
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