第2話 ビアンコ家の人々

「はっ!ロザリオ!!」


 ビアンコ家の庭園でヴィダルの魔法ショーを見せてもらっている中、急に思い出したかのようにセイヴァルが叫んで走り出した。よく赤ん坊の名前覚えてたな。


「チッ」とヴィダルが小さく舌打ちしてセイヴァルを追いかけた。俺も二人の後を追う。


「おまちなさい!!」


 シャルドネとカルベネも叫びながら、俺達を追いかけてくる。そんなに見せたくないのか?

 俺は知っていた。生まれたての赤ん坊って猿みたいにしわくちゃだから、アイツら恥ずかしくて見せたくないんだな?そんなに隠したい程、醜い顔なら是非とも拝んでやろう。


「まてー!」


 前を走っているヴィダルがセイヴァルに向かって、魔法の弾丸を連続で放っている。どうでもいいけど、ここ屋敷の中だけどいいのか?

 すばしっこいセイヴァルには1発も当たらない魔法の弾丸は壁や床に当たるが、特に穴が空いたり燃えたりしてないところを見ると、魔法のコーティングみたいなものがされているのかもしれない。


「あ!」


 セイヴァルが床に敷かれた絨毯に足を取られてスッ転んだ。両手を翳して笑いながらじりじりと追い詰めるヴィダル。どう見ても悪役にしか見えないぞ。お前。

 俺は後ろからヴィダルに膝カックンして転ばせて、セイヴァルの襟首を後ろから引っ張って走った。


「ズルいぞ!」


 背後からヴィダルの声がする。苦しそうな「ぐえええっ!」というセイヴァルの声を無視して、迷路みたいなビアンコ家の中を走り、父と母が通された部屋の前まで到着する。

 部屋の前ではビアンコ家の使用人達が人垣を作っている。ホントにコイツら仕事しろよな。使用人の教育が全くなってないよ。


「もう離してよ!」


 顔を真っ赤にして立ち上がったセイヴァルに手のジェスチャーだけで謝る。使用人達のケツの間を押し退けながら俺達は扉を開けた。ビアンコ家の奥方と赤ん坊が寝ていると思われる天蓋付きのベットの周りにも人集り。誰も俺達が入ってきたことに気付いてはいないようだ。


「わぁ!!赤ちゃん見せて!!」


 セイヴァルがベットに向かって俺の腕を引っ張りながら走った。どんだけ子供好きだよ。


「やあ、キャル君、セイ君。よく来てくれたね。ありがとう。」


 お・・・・

 おおおおおおーーーーー!!!


「ピッテロさま!!!」


 俺とセイヴァルの目がキラッキラになる。

 俺達に向けて微笑んでいるこの人はビアンコ家の家長で、ラグドール神殿の大神官ピッテロ様だ。大神官は聖職者なのに魔法も使えるし剣の腕も騎士顔負けで、メチャクチャ強いんだ。

 そして、更に大神官の証である『金色の瞳』が超クールでカッコ良すぎる!!

 このラグドール皇国で最強なのは大神官のピッテロ様だと俺達は思っている。滅多に会えない憧れの人物に俺達は大興奮した。


「ロザリオ、また寝ちゃったけど顔を見ていってあげてよ。」


 ピッテロ様にベットに促されて、俺達は父と母の間から顔を出した。いや、赤ん坊よりピッテロ様と色々話したいんだけど、俺。


「はわぁぁぁぁ~~~。」


「?」


 変な声出すなよセイヴァル。隣のセイヴァルが美味い物でも食べたかのように府抜けたダラしない顔をしている。視線の先を目で追う。

 ビアンコ家の奥方、イザベラ様の腕に包まれている白い塊。レースの刺繍があしらわれたおくるみの中に小さな顔が見える。


 ───なんだ。この可愛い生き物。天使か?


 スヤスヤと小さな寝息を立てる赤ん坊から俺は息もするのを忘れて、目を離すことができなくなっていた。何なんだこの気持ちは。心臓の辺りがすっげえキュンキュン痛くて苦しいぞ?


「キャルちゃん、セイちゃん。

 ロザリオよ。仲良くしてあげてね?」


 イザベラ様が聖母の様な微笑みを浮かべ俺達に言った。イザベラ様はすっごく美人だけど息子達が不気味なくらいにそっくりだし、近寄り難くてちょっと怖い。でも、今日は凄く優しそうで綺麗で、ロザリオを抱いている姿はまるで有名な彫刻家が造った聖母子像みたいだ。


「ロザリオ!おれ、セイヴァルだよ!

 こっちはキャルロット!よろしくね!」


 ちょっ・・・!

 アホセイヴァル、静かにしろよ!ロザリオが起きるだろーが!という目でセイヴァルを睨む俺。セイヴァルの声に反応してモゴモゴと動いた後、伸びをするロザリオ。ちらりと見える小さい手が花びらの様で可愛らしい。


「!!」


 ニコっとロザリオが笑った。いや、笑った様に見えただけかもしれないが、その場にいた全員が一斉にメロメロの腰砕けになった。


「いいなぁー。」


 セイヴァルが呟く。


「本当だな。ソーヴィニヨン家に嫁に欲しいよ。キャルロットでもセイヴァルでもどっちでもいいから、許嫁にしないか?」


 父上が真剣な顔でピッテロ様に向かって言った。

 何と気の早い。でも、いいこと言うな。

 グッショブ!父上!!


「あー、それは無理かな?

 シャルかベネだったらいいんだけどね。」


 笑いながらピッテロ様があっさり断った。

 どんだけ可愛がってんだよ!?

 まぁ、勿体振る気持ちもわからないではない。赤ん坊のうちでもこんなに可愛いんだから将来はさぞかし美人になるだろう。皇族にでも嫁がせるつもりなのか?

 てか、シャルドネとカルベネだったら絶対要らない。煩いし。


「えー?おれ、ロザリオと結婚したいなぁ。」


 セイヴァルが尚も食い下がる。しつこい男は嫌われるぞ?

 次の瞬間にロザリオがパチッと目を開けた。顔の比率に対して極端に大きい瞳。


「次期大神官だから無理なんだよね。」


 ───『金色の瞳』だ。

 え?女でも大神官になれるのか?


「リオちゃんは神様のお嫁さんになるんだよ。」


 がーーーーーん。

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