天使の称号を持つ騎士
村崎 朱
第1章
第1話 キャルロット=ソーヴィニヨン
俺はキャルロット=ソーヴィニヨン。10歳。ラグドール
俺の口癖は『面倒臭い』。何ならその口癖を口にするのも怠いくらいだ。
「キャルー。ビアンコ家で赤ちゃんが生まれたらしいぞ。」
コイツは俺の双子の弟セイヴァル。俺と違ってよく喋るし、俺の言葉を代弁してくれる便利なヤツだ。そして、自分も子供のくせに子供好きっていう変わり者でもある。
俺達は合わせ鏡の様に良く似ている。違う所と言えば、俺は黒髪でセイヴァルが黒に近い茶色の髪という所位か?人よりも外見は良いらしいが、嫌と言うほど毎日見飽きているから自覚はない。
「行こうぜ。」
「父上!ビアンコ家に御祝いに行かれるんですよね!?」
元気で無邪気なお子ちゃまの典型みたいなセイヴァルが、これまた元気に父の腕にしがみついた。
「おお?お前達も行くか?」
目を細めて俺とセイヴァルを見る父。赤ん坊が生まれたばかりのビアンコ家の家長ピッテロ大神官とは幼馴染みだそうだ。
「是非、お供させてください。」
「ああ、来なさい。」
「ありがとうございます!」
本当にセイヴァルは変わり者だ。騎士ではなく保育士とか幼児教育者の方が適職なのではないだろうか。セイヴァルの優しすぎる所は長所であり短所でもある。時に非道にならねばならない騎士に於いては無駄な物なのに。
「わぁ、楽しみだなぁ。みんなと遊べる。」
馬車に揺られながらセイヴァルが足をブラブラさせて言った。
ビアンコ家には生まれたばかりの赤ん坊を入れて4人の子供がいる。俺達の2歳下の長男ヴィダルと1歳違いの長女シャルドネ、その2歳下の次女カルベネ。ヴィダルは生意気なヤツでその下の妹達がまた煩くて敵わない。真夏の蝉の方がまだマシだよ。
「女の子かなぁ。男の子かなぁ。」
「どっちかしらね。」
母がにこやかにセイヴァルを見つめる。恐らく母は男か女かわかっているはずだけど、何故教えてあげないのか不思議で堪らない。意地悪しないで教えてあげればいいのに、こういう大人の意味不明な隠し事はキライだ。
ビアンコ家に到着した。
徒歩でも通える距離なのに馬車を使うのは、父が騎士団長だからだ。騎士団長は大皇様を守るために悪いヤツを懲らしめたりするから、騎士団長とその家族はその悪いヤツの仲間から恨まれるのだそう。そんな奴らまとめて全員やっつければいいのに、と思う。
「キャルロット、セイヴァル。よく来たわねっ!」
「遊んであげるわ。こちらへいらっしゃい!!」
ビアンコ家のエントランスに入るなり、正面の階段の上からシャルドネとカルベネが良く通る声で俺とセイヴァルに言ってきた。
「シャル、ベネ!
遊ぼう!!
でも、赤ちゃん見てからね!」
セイヴァルが元気に二人のクソガキに向かって言った。
「見せないわっ!」
偉そうにシャルドネ。ビアンコ家の奥方は貴族出身だからか、コイツらも何故か上から目線で物を言う。ま、ソーヴィニヨン家も貴族だし、それなりの家柄だけどな。
「え?どうして?」
生意気なクソガキ相手に真面目な顔して答えるセイヴァル。
「ロザリオがけがれるもの。」
「そーよ。そーよ。」
お前らは子供劇団の劇団員か何かか?
「ロザリオ!!女の子だね!?」
紫色の目をキラキラに輝かせるセイヴァル。おめでた過ぎて周りにお星さまが見えるくらいだ。
「コラ!
シャル、ベネ!!」
シャルドネとカルベネの後ろからヴィダルが叫んだ。子供とは思えない氷の様な冷たい視線を二人に向けている。すっかり萎縮してしまった二人がヴィダルの背後に隠れた。
「これはこれは!ソーヴィニヨン騎士団長様!騎士団長夫人!御子息様方!!
お待たせして大変申し訳ありません!!」
ヴィダルの声を聞きつけてか、ビアンコ家の執事長が大慌てで飛び出してきた。クソガキほっといて何してたんだよ。仕事しろよな。オッサン。
「ちょうど奥様もロザリオ様も起きた所でございますので、お顔を見て差しあげて下さい。」
執事長のオッサンに促されてエントランス正面の階段を上がる。俺とセイヴァルの前にヴィダルが立ち塞がった。
「キャルロットとセイヴァルは俺達と遊んでようぜ。」
「え?おれ赤ちゃん見たいよ!」
ヴィダルの言葉に抗議するセイヴァル。
「あ?」
俺達を威圧的に睨むヴィダル。
こえぇ。コイツ、ホントに8歳か?
しかし、俺も騎士になる男だ。別に赤ん坊なんか見たくもなかったけど、年下に負ける訳にはいかない。
「うふふ。仲が良いわねぇ。」
父と母は俺達を微笑ましげに見ながら、奥の部屋に行ってしまった。
仲は、良くねぇよ。
「戦うぞ。キャル!」
珍しくヤル気なセイヴァルが腰に帯刀している剣に手を掛けた。俺も同じ様にヴィダルに向き合う。
「俺、魔法使えるけど、ヤる?」
え?魔法?
ヴィダルの言葉に目が点になる俺達。俺とセイヴァルには魔法の素質がないから、一生魔法を使えることはない。
「まほーー!!見せてーー!!」
魔法を使えないからこそ、憧れは強い。
俺達は目をキラッキラにさせながら、あっさりとヴィダルの手に下ったのだった。
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