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「そのほそっちい体のどこに入って行ってんだよ」

 俺よりも背が高いのに俺よりも細い孝宏は、想像以上にパクパクと食べ物を口に運んでいく。高校生なのにクールにコーヒーを飲んだりするからちょっと驚いてしまう。やっぱりちゃんと高校生だ。

「僕は想太さんよりずっと若いからね」

「一言余計だな」

「いつまでも若くないってことだよ」

 うぐ。ま、確かに。疲れが次の日に残ったりすることも多いし・・・歳には勝てんね。

「僕は早く大人になりたいけどね」

「そうなのか?」

 すでに今でも同級生の子達よりは落ち着いていて大人っぽいとは思うけど?

「子供には力がないから」

 アイスコーヒーを飲み込んで孝宏が言う。

「力、ね」

「それに経済力もないし、色気も魅力も」

「い、色気?」

 孝宏からそんな言葉が出るなんてっ!

「だって想太さん、格好いいじゃん。ちゃんと大人の男って感じがして」

「え、何急に」

 そりゃ、孝宏よりも十以上も上だけどさ。

「僕も早く、大人になりたいな」

 そう言って孝宏は深く息を吐いた。出会った頃からどこか子供っぽくなくて落ち着いていた子だったけど、そう言う顔はやっぱり子供っぽくて。

 なんとなく安心した。

「ありきたりかもしれないけど、若いってのはそれだけで素敵なことじゃない?」

「まだまだ時間があるってこと?」

「そ。だから孝宏は自分が望むものに何にだってなれるってこと」

 高校生なんて一番いろんな可能性に囲まれている時じゃない。望めば何にだってなれる。

「想太さんはもう何にだってなれないの?」

 孝宏はそう訊いた。呆れた様でも笑った様子でもなく、真っ直ぐに顔を見て。

「そんなことないさ。俺だって何にでもなれる。でも」

「でも?」

「時間は万人に平等だ。俺にはもう孝宏と同じような高校生の生活を送ることは出来ないし、十代の体力だってない」

 代わるものはあってもそれは絶対に同じものではないから。

「若いからって気落ちするな。そんなの放っておいても勝手に大人になるんだから。でもな、格好いい大人になるには適当じゃだめだぞ。意思は明確に持っておかないと」

 万人に平等な時間は、どんな時間を過ごしたとしても平等に過ぎるから。

「努力は必要さ、俺みたいな大人になるにはな」

「はぁ、本当、一言が余計だね」

「うるさいっ」

 そう言えば、孝宏って・・・大人になりたい理由はあれか。

「ほら、デザートも食べるだろ?」

 まぁ頑張りなさい、若人よ。お兄ちゃんはいつだって弟のことを思っているのだから。

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