第105話 確認しなきゃね
新しい称号を手に入れたところで、私は自室に戻り、荷物を整理する。あ、そういえば、ワイバーンの素材、売り忘れていたな……。
……まあ、いいか。あしたの朝冒険者ギルドに行って売り払おう。
そんなことを考えながら、私はベッドに横になる。時刻は、もうすでに晩御飯時の時間だ。中級万能薬の騒動のせいで、遅めのおひるごはんとなってしまったため、全然おなかはすいていないが、出てくる料理に興味がないわけではない。
まだ魔力不足の頭痛は収まっていない。比較的マシとはいえるけれども、このまま激しい運動をしたら、吐く自信がある。うっわ、いやだなそれ。
柔らかいシーツのベッドの上で、私は目を閉じる。今日の半分以上をベッドで過ごしている気がしないでもない。でも、本当に忙しかったんだ。
くらくらとする頭のまま、今日の出来事を振り返る。
シンに叩き起こされて、中級ポーションが『神の試練』に効くことが分かって、その原因が、中級ポーションに使ったワイバーンの心臓だってこともわかって、称号ってやつが神から認められた証だってわかって……
うわ、いろいろあったな……。
でも、元の世界に戻る手がかりも見つけられたかも。
私は目を開いて、木目の宿の天井を見る。あ、蜘蛛の巣がある。
「神に会えれば、元の世界に戻してもらえる……かもしれない?」
なんだっけ? アリステラだっけ?
商人の国に行ったら、そういうことも調べよう。
「いや、まって、おかしい。
私、なんで『商人の国』を目指しているの?」
思い当たった根本的すぎる疑問に、私は冷や汗をかく。脊髄を直接握られているみたいだ。
私は、ベッドから飛び起きる。
そういえば、そうだ。私は、なぜ商人の国なんて目指したんだ?
元の世界に戻りたい。その気持ちは、一切変わっていない。できるなら……いや、クラスのみんなと一緒に、元の世界に戻って、秋田屋のメロンパンを食べたり、いつものようにふざけあったり、笑いあったり、そういうことが、したい。
その気持ちは、一切変わっていない。
なら、なんで、私は商人の国を目指したの?
帰る方法を見つけたいのなら、『賢者の国』の『叡知の斜塔』を目指すべきだ。クリストさんの授業から、あそこには大量の本があることを教えてもらっている。また、その大量の本は、『叡知の斜塔』ないから出てきているという事実も私は知っている。
ついでに、『勇者の国』でシロという存在のまま名をあげて、あの城の図書館……佐藤さんがロキの封印されていた本を見つけたらしい、禁書庫に入って資料がないかを調べることだってできるはずだ。
なんで、私は、『商人の国』を目指したの?
「……わからない。」
そうだ。わからない。
見知った『勇者の国』から外の国に行くのだというのに、何も考えずに、『商人の国』を目指した。私には、その理由が思い出せない。
確か、たくさん人がいるなら情報があるかもしれないとか、月の砂漠を見てみたいだとか、そんな理由だった気がする。
わたし、そんなに弱い意志で元の世界に戻ろうと、思っていたっけ?
「……そんなわけがない。」
そうだ。そんなわけがない。
……確認しなきゃ。
根底を思い出せ。
何があったのか、何を思ったのか、なんで、なんで、私は、あの国から出ようとした?
[警告。警告。警告。**領域に触れようとしています。]
脳内に、すさまじい音量でアナウンスが流れる。うわ、なにこれ。怖いな。
だが、気にしている暇はない。
アイデンティティが崩壊しそうだ。頭が、割れそうに痛い。
今の私には、もはや魔力不足の頭痛など、気にしている暇はなかった。
なんで? なんで。なんで!
「………ぁぁぁあああ?!」
そこで、やっと思い当たった。
ああ、すごく、根本的なことじゃあないか。
脳みそが、すっきりする。同時に、背筋がぞっとする。
「なんで、城から出てきたとき、あそこに、私の死体があったの?」
まだある。それ以前だ。
確か、さらに一番最初。
「私たちは、神に召喚されたの? それとも、小林兄弟が教えてくれたように、王様たちによって召喚されたの?」
……なんで、私は、『勇者の国』を離れようとしたの?
神って、なに?
そう考えた瞬間、私のステータスは解けて崩れた。
[神を冒涜し、その行為に逆らうあなたは、称号【神に逆らう者】を獲得しました。]
そんなアナウンスを聞いて、私の意識は、途絶えた。
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第105話 神に逆らう者
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