第106話 side剣野 狂戦士の国にて

 時は遡り、ドレイクデュークによって2-Aがばらばらの場所に飛ばされたその日。剣野はいささか乱暴な刺激によって目を覚ました。


「……ここは……?」


 辺りを見渡すと、どうやらここは粗末な木のベッドの上らしい。ボロボロに擦りきれた、もとは白かったらしいシーツの上で寝転がっていたようだ。

 脱ぎ捨てた衣服やらゴミやらが散乱する、お世辞にも綺麗とは言えない部屋。そこの、比較的荷物が別の場所へ追いやられたその隙間に、剣野の眠っていたベッドはあったようだ。


「親方ぁ、こいつ、目ぇ覚ましやしたぜ!」

「そうかぁ! 水を飲ませてやれ!」


 近くで、男の野太い声が響く。ハッとして隣を見ると、そこには顔に三本の深い爪痕を負った、スキンヘッドの男がこれまた粗末な木の椅子に座っていた。


 彼を見た瞬間に、剣野は全てを思い出す。

 ドレイクデュークによって見ず知らずの土地に飛ばされたこと。気がついたら、狼のような獣に囲まれていたこと。ボロボロになりながらも勝利し、近くを通った馬車の前に倒れたこと。


 慌てて体の確認をする。服はいつの間にかシンプルな麻布の服となっており、腹部や左腕にはへたくそに包帯が巻かれていた。そして、右腕には、見慣れた古い腕輪。『主の腕輪』だ。


 ダンジョンから出てきたころと比べると、それはくすみが少し減り、元の金属の色であろう銀色が見えるようになっていた。


 剣野が体の確認をしていると、隣に座っていた顔に傷のあるスキンヘッドの男が、木のコップを差し出してきた。


「ほら、水だ。」

「………助けてくれて、ありがとうございました。」


 剣野は、木のコップを受け取り、男に礼を言う。すると、男は豪快に笑って言った。


「いや、助けてもらったのはこっちだ! あのクソ狼どもに襲われて、危うく仲間共々全滅する直前だったからなぁ!」


 そう言って、男は豪快に剣野の頭を撫でる。

 乱暴すぎてまるでアイアンクローのような撫でかたに、剣野は慌てて声を出す。


「あの、ここって、どこですか?」

「『盗賊殺し』のパーティーホームだ。」

「盗賊殺……えっ?」


 物騒な名前に、剣野は思わずすっとんきょうな声を上げる。

 その顔を見た男は、再度腹を抱えて笑うと、言う。


「Bランクパーティの『盗賊殺し』だ。こんな盗賊みたいななりをしているのに、冒険者で、主に盗賊殺しをしている。」


 男はそう言って顔の傷を指さす。


「冒険者なのですか?」

「ああ。そうなるな。お前さんは?」


 そう聞かれた剣野は、自己紹介をする。


「俺は、冒険者の剣野けんの まことと言います。」

「お前も冒険者だったのか。オレはパーティの副リーダー、ラージェスト。ラージって呼んでくれ。」


 男、いや、ラージはそう言って右手を差し出す。皮膚の固い、戦いなれている手だ。剣野はその右手を握り返し、さらに質問する。


「俺の刀はどこに?」

「ああ、お前の得物か。血でベタベタになっていたから、軽く手入れしたぞ。……俺の仲間が。」


 ラージはそう言って部屋から出ようとする。剣野は起き上がってそれに続いた。


 歩き、たどり着いた先は、これまた掃除のされていない武器庫らしい場所。床の掃除はされていないが、武器の手入れは欠かしていないようだ。

 ラージは山積みになった武器の中から、一本の刀を取り出し、剣野に渡す。軽く確認してみれば、確かに、これは宮藤が作った、あの魔剣だった。刀を受け取った剣野は、ラージに礼を言ってから、質問する。


「……なあ、質問なのだが、なんでこうも部屋が汚いのだ?」


 この武器庫も、部屋の隅とは言わず、棚にさえも蜘蛛が巣を張っている。途中に通った廊下だって、角に綿埃がたまっていた。

 その質問に対して、ラージは情けなさそうに、頭を掻いてから答える。


「掃除していたメイドがいだのだがなぁ……勇者の国にいる親族が病気にかかったらしくて、ここ一か月掃除する奴がいないんだ。かなり遠い国なのに、恩があるらしくてな。一番強いやつを付けたから、道中は大丈夫だと思うのだが……。」

「そうか、それは不憫だ……おい、待て、『』?『』?」


 きょとんとした表情のラージに、悪い予感のした剣野は、さらに質問する。


「……ここは、何て国の、どこという町だ?」

「……何を言っているんだ? 狂戦士の国の、バーキリアだぞ?」


 それを聞いた瞬間、剣野は頭を押さえた。


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 大陸の最西端、狂戦士の国。隣国は、戦士の国。

 国土が狭く、土地もやせており、貴族の更迭先としてよく選ばれる。

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