第95話 消化試合と休息
ワイバーンスカーレットの戦利品をヴィレッチ村に運び込み、もう一度洞窟……もとい、遺跡に戻ったのが、太陽の位置からしてだいたい正午。
昼食を挟んでから残りのワイバーンの殲滅を始めたのだが……。
「ああああああああああ!誰よ!ワイバーンが初心者向きって言ったのは!」
「俺だが……。」
私の叫び声に返事をしながら、ジャックさん、もといシンは一体のワイバーンの頭蓋を砕く。
ぐちゃん!
鈍い音が遺跡の壁に何度も何度も反響する。が。
『グルガアァァァァァアアア!!』
遺跡の狭い通路で翼を広げ、壁を破壊しながらこちらへと突っ込んでくるワイバーン数体。いったい、何て言う悪夢だ。
ワイバーンは頭が悪く、初心者パーティー向きの獲物である。それは、認めよう。
だが、一対一以外ではワイバーンのアホさ加減によって逆に危険な状況に変貌するようだ。
ガガガガガガッ
ワイバーンの広げた翼が壁に突き刺さり、鈍い異音とともに、右手側の壁に大きく深い亀裂が走る。
「……っ!シンさん、二歩先の右の壁!!」
「わかっている!ワイバーンスカーレットと戦ったあの広場を目指すぞ!」
壁から離れると、右手側にあった複雑な模様の描かれた遺跡の壁は、がらがらという音を立て崩壊する。
全力で遺跡の奥へ奥へと向かう私とシンは、普通のワイバーンの襲撃に遭っていた。
序盤は私たちの方が有利だった。
何せ、通路にまっすぐ突っ込んで来るワイバーンを(シンが)リズムよく殴るだけの簡単なお仕事だったのだ。まだ、死体から魔石を抜き出してから次に挑むくらいの余裕が残っていた。
だが、遺跡の通路が複雑になってきた辺りから、話が変わってくる。
「左の通路からワイバーン二体!!」
「チクショウめ!」
シンの声を聞いて私は後方に痺れ薬を投げ込む。
『グギャアアア!?』
見事に一体のワイバーンに当たったらしいが、喜んでいる暇はない。痺れ薬の効果ですっ転んだワイバーンを踏み潰し、後方にいたワイバーンがこちらへとやってくる。
死体を漁る余裕なんて、もはやない。
四方八方からの圧倒的な質量と、崩壊しかけている遺跡。環境は、まさに最悪を極めた。
「シンさん!痺れ薬、あと十本で品切れ!」
「こっちは腕と包帯が使い物にならなくなりそうだ!」
さすがに、二人で殲滅は無理があった。
まあ、なんとかなったけれども。
ワイバーンの屍の横で、私たちは壁に寄りかかった。座り込むと即座に奇襲に対応できなくなる。しっかり座って休みたい気持ちもあるが、そのせいで死んでしまっては意味がない。
疲れきった顔をして壁に寄りかかるシンに、中級ポーションの入った瓶を投げ渡す。
拳に巻いていた包帯は既に擦りきれ、ここについた頃には素手でワイバーンを殴り殺していたのだ。怪我をしていないわけがない。
「はい、中級ポーション。」
「……ああ。ありがとう。」
シンは何か言いたげな顔をしたが、中級ポーションを受けとると、グビッと飲み干す。
中級ポーションの味は、爽やかミントの味だ。私は飽きるほど低級ポーションをがぶ飲みしたせいで薬臭い水にしか感じられないが。
私は、ヴィレッチ村の人から購入したドライフルーツのようなものを齧り、よく噛んでから飲み下す。
ドライフルーツのようなものは、保存性を最優先しているため日本で食べていたようなおいしいものではない。しかし、よく噛み締めれば、ほんのりとした甘味を感じられる。
______メロンパンが食べたい……。
ふと脳裏に秋田屋のメロンパンの味が蘇る。あの日は買えなかったんだよな……。茜ちゃん、元気にしているかな……。
感傷に浸りそうになった私は、慌てて頭をふった。
急に頭を振りだした私をシンは驚いたようにちらりと見てくる。
______こんなことを考えても、意味がない。しっかりしなきゃ!
残りのドライフルーツ(のようなもの)を口に詰め込み、私は壁から離れ、体を伸ばす。
ポキポキと音がして、体から余計な力が抜ける。
あと少しで仕事が終わるのだ。もうちょっと、あとちょっと頑張ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます