第96話 試合終了とインテリゴブリン
「やっっっっっと終わった!」
最期の一体のワイバーンを遺跡から引っ張りだし、私は言う。見上げてみれば、空はオレンジ色に色づいていた。
手はワイバーンの硬い皮膚を掴んでいたせいで痺れるような痛みが走り、フードつきのお洋服は既に赤黒く汚れている。
今日の洗濯は絶対に大変だ。ぬるま湯を用意してもらわないと……。
「疲れているようだが、ワイバーンの死体はどうする?運ぶにしてもこれだと量が多すぎる。」
フードを被ったシンが、心臓から魔石を抜き出しながら言う。
「確かにどうしよう。魔石だけでも十分な量になっちゃうよね。」
低級ポーションを飲みながら、私はシンに相づちをうつ。解体用のナイフは、完全に刃こぼれして使い物にならなくなったのだ。
あれだね。今、私に攻撃力ないね。戦いたくないなぁ……。
そんなことを考えながら、私はシンに声をかける。
「もう一度ヴィレッチ村に戻って、村の人に運んでもらうのを手伝ってもらおうよ。」
「それが一番だが……。そうだな。戻ろう。」
シンは少しだけ悩んだ様子を見せたが、手についた血を払いながら立ち上がる。……人を何人か殺した後にしか見えない。
生成した水でさっと手を洗ってから、私たちはヴィレッチ村に戻った。
何度か通っていたこともあり、事故も怪我もなくヴィレッチ村に着いた私とシンは、何やらヴィレッチ村が騒がしいことに気が付いた。
「__だ!___ちに___げたぞ!」
「捕ま__!」
「_げろ!__!」
村は騒然とした様子で、粗末な槍や剣、鍬やナタなどを持った男性の村人たちがこちらの方を警戒している。
「……何かあったみたいだな。」
「あったっていうよりも、あるって言ったほうが正確かもね。」
軽口を叩きながら、私たちも周囲を警戒する……といっても、シンが拳を構えただけだが。私はもう丸腰だからね。
すると……向こうの茂みから声が聞こえてきた。
『コッチマデハ追手ガ来テイナイ!女子供ヲ優先ニ急ゲ!』
『応戦シナイツモリナノカ、兄サン!』
『当タリ前ダ、リーヴァ。今戦ッテ不利ナノハコッチダゾ。』
「ゴブリンの鳴き声だ。」
「鳴き……。うん、昨日の人たちだね。」
声がした方をにらみながら言うシン。その言い方に違和感を覚えつつも、私は肯定する。どうやら、村人は昨日のエリートゴブリン達を追いかけていたらしい。
「昨日の人たち!ワイバーンはもう退治し終わったよ!」
とりあえず声をかける。一瞬の間の後、リーヴァと呼ばれていたエリートゴブリンから返事が返ってきた。
『アリガトウ、兄サンノ恩人!』
音は少しずつ森の奥、洞窟の方へと向かっていった。それを見送ってから、私たちは厳戒態勢になった村の中に足を踏み入れる。
村人達から向けられる、警戒された目。
おっと?何やらいい感情は向けられていないっぽい?
「ワイバーン退治は終わりました。死体が少々多いので、運ぶのを手伝ってもらえれば……」
とりあえずワイバーン退治に関する報告をしてみると……前に出ていた若い村人は警戒をとくことなく、私に質問した
「ゴブリンどもはどうしたのですか?」
「遺跡……あの洞窟の方へ逃げていったな。」
シンがさりげなく私の前に出て、村人の質問に答える。そう答えると、村人達は安堵したように武器をおろした。
「良かったです。なかなかの数のゴブリンが私たちの村に近づいてきていたので……。まだまだ警戒しなくてはいけないですが、すぐにでも魔物の攻撃がくるわけではないようですね。」
若い村人がため息をつきながらそう言う。よくみると、彼の体は恐怖からか微妙に震えていた。思わず私は拳を握りしめてしまう。
私は知っている。エリートゴブリン達がこの村を攻撃する気がないことを。
でも、私には、それを伝える方法が思いつかなかった。
そんな私に、若い村人が言う。
「ワイバーン退治が終わったとのことですし……私たちもゴブリン退治を始めましょう。」
私は奥歯を噛み締めた。
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