第87話 インテリゴブリン(4)

「……という感じで、ゴブリンの集落よりも先に、ワイバーンの群れをどうにかしなくてはなりません。」


「そうですか、異音を聞き付けた冒険者のお二人が洞窟の中へ入ったところ、ワイバーンの巣を発見したのですか。そして、巣の規模から、30以上のワイバーンがいると予想した。また、ゴブリンが村の側に出没したのは、ワイバーンから逃げてきたためであると。」


 謎の説明口調の村長が納得したように頷く。

 この様子を見ていたジャックさんがぼそりと一言。


「………シロ、お前、詐欺師の才能があるんじゃないのか?」

「おいそこ黙れ。」


 ヴィレッチ村に戻った私とジャックさんは、ことの次第をぼかし状況を説明する。

 私、本当のことを言っていないだけだよ。


 ゴブリンたちの話を聞いてしまった私としては、インテリゴブリンたちを積極的に殺す気にはなれない。だが、村人たちはゴブリンが村の側にいるのは困るだろう。


 だからこその折衷案だ。

 ワイバーンさえいなくなればインテリゴブリンたちは村のそばにやってこない。ワイバーンがいなくなればヴィレッチ村も新たな脅威に怯えなくてもよくなる。


 ウィンウィンでしょ?ワイバーンと倒す人以外は。


 まあ、私は『いのちだいじに』が基本方針だから、ワイバーンの群れに自らつっこみに行こうとは思わないけどね。


「で、ワイバーンはどうすんだ?俺らも流石に宿泊くらいでワイバーンの群れを倒しに行くほどお人好しではないぞ?」


 腕組みをしたジャックさんが村長に言う。ぶっきらぼうな物言いだが、報酬さえ用意すればワイバーンの群れを倒してくれるらしい。


……おい、ちょっと待て。


「待って、ジャックさん。私、討伐系は専門外。」


 俺じゃない。君だけだ。言葉には気を付けてくれ、ジャックさん。


「おいおい、羽根つきトカゲだぞ?爪と牙に気を付けておけば初心者でも倒せるぞ?」


 ジャックさんはあきれたように私を見る。


「羽っていうか、翼じゃんあれ。サイズもおかしいし、初心者向きではないでしょ。」

「初心者向きだぞ?知力が低いからケンカを売れば逃げずに突っ込んでくる。魔法も使わないし、悪知恵も働かない。」

「いや、固いでしょ、あの鱗。飛ぶじゃん、あいつ。」

「うじうじ言うんじゃない。」


 お母さんか!

 っていうか、お茶目だな、ジャックさん。


「一人で行ってよ!」


 思わず私がそう言うと、ジャックさんは分かっていないな、というように首をふり、言う。


「俺はHPの回復が出来ないんだよ。」

「なおさら行かなくても良いじゃん、私。薬草は用意しておくよ。」

「一人だと寂しいだろ?危ないし。」

「それが本音!?女子か!」

「もちろん、一人だと危ないっていうのが本音な。」


 違う、こんなことをしている暇じゃない。結局どうすんだ。


 そう思って村長を見てみれば、銀貨を10枚用意していた。


「なにぶん小さな村ですので、これ以上は用意できません。ですが、これでよろしいでしょうか?宿泊の際には、秘蔵の美酒も用意いたします。」


「だってさ、ジャックさん。」

「銀貨10枚はちょっと安すぎるが……ちなみに、何て酒だ?」

「『オーガ殺し』です。」

「良いだろう。五本用意してくれ。」

「私、お酒飲めない。」

「じゃ、四本だ。」

「私は一本の予定だった!?」


 そんなこんなで、明日、ワイバーン退治をすることになった。


……薬、できるだけたくさん作っておこう。

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