第86話 インテリゴブリン(3)
……目の前のゴブリン二人、いや、インテリゴブリンの二人は、目の前で戦闘態勢に入っているジャックさんを警戒している。
ジャックさんも拳を構え、臨戦態勢だ。
私は……どうすれば良い?
「あー、ジャックさん。この二人は、別に敵ではない……はずです。」
「……何を言っている?やつらはゴブリンだろう?」
ジャックさんは拳を下ろさず、視線だけをこちらによこす。
うーん、ダメだ。次。
「えーっと、お二人とも、この人は敵ではないです。私の仲間でジャックさんです。」
『……何ヲ言ッテイル?そいつトオ前ハ人間ダロウ?』
槍を構えたゴブリンは視線だけをこちらによこし、言う。あーもう。
戦闘一歩手前。戦いになったら私の
なにか、本当に何かないか?
「ジャックさん、ジャックさん。この二人はそこのワイバーンを倒していたみたいです。」
「そうか。」
ねえ、もうちょっと反応してくれない!?ワイバーンを倒していたんだよ!?
私がおろおろしていると、ふと、ナックルを装備したゴブリンが口を開いた。
『……恩人。少々聞キタイコトガアル。』
「えっ、何?」
ありがとうっ!!何を聞きたいの?
ちょっとだけ進展が起きたため、ちょっとテンションが上がる。
と、思ったとき。ジャックさんが口を開く。
「おい、シロ。少し聞きたいことがある。」
「えっ、ちょ、何?」
まって、ジャックさん。タイミングタイミング。質問に質問を被せにいかないでよ。
『恩人ハ今、何語ヲ話シテイルノダ?』
「お前、ゴブリンと会話でもできているのか?」
「……what?」
「あー、なんだ。つまり、お前はゴブリンと会話できるのだな?」
『ツマリ、恩人ハ何ラカノあびりてぃノ恩恵デ我々ト会話デキテイルノダナ。』
「うん、まあ、そんな感じ。」
数分後。和解できた私とジャックさんとゴブリンの二人は、複雑な模様の描かれた壁にもたれ掛かりながら会話をしていた。
あー、本っ当に良かった。死人が出てこなくて。
この世界も死んだらそれで終わりだ。……いや、稀にアンデットになることもあるらしいが、大部分のアンデットには意識がない以上、生きているとは言えないだろう。
ジャックさんはそれなりに強いらしいが、ゴブリンたちはワイバーンを倒せるだけの実力を持ち合わせている。戦闘になればどちらかが必ず死んでいたはずだ。
でもまあ、前々から不思議に思っていたことの一つが解決した。
この世界に転移したときからずっと思っていたんだよね。何で人と会話できるのに、文字の読み書きは出来ないのだろうって。
まさか、会話だけはどの種族ともできるとは。これが言語チートってやつか。
「あれ?でも、ダンジョンや王都周辺で戦ったゴブリンは、話しかけてこなかったよ?」
私がそう呟くと、ナックルを装備したゴブリンが顔をしかめて言う。
『……恩人。やつらト我々いんてりごぶりんヲ同ジニ考エテクレルナ。人族ト猿ハ似テイルガ、別物ダロウ?』
「あ、ごめんなさい、そういう感じだったのね。」
どうやら、インテリゴブリンとそこら辺のゴブリンを同一視するのはタブーらしい。ごめんね。
でも、これで何となくわかった。
私は、会話できる、もしくは会話の意思のある生物と話せるらしい。外国にいくにはずいぶん便利な能力を持ち合わせているようだ。
「そう言えば、二人はどうして村の方にゴブリンが近づいてきたか知っている?」
ふと、疑問に思っていたことを聞いてみると、ナックルを装備したゴブリンが答えた。
『わいばーんドモガ少々多スギテナ。近隣ノ村ニ応援ヲ頼ミニ行ッテイタノダ。ダガ、ソノ村ニ行クニハうぃれっちむらヲ通ラナクテハナラナカッタノダ。』
「あー、なるほど。ちなみに、ヴィレッチ村に危害を加える気はある?」
『ナイ。コノ山ニハ十分ナ食料ガアル。ワザワザ好キ好ンデ人間ヲ襲ウ必要ガナイ。』
「わかった。じゃ、ジャックさん。ゴブリンたちは村に危害を加える気はないらしいし、戻ろうか。」
私がそう言ってジャックさんの方をみると、ジャックさんはかわいそうな子を見るような瞳でこちらをみていた。
「その目を止めろください。」
「………パッと見、でかい独り言を呟いているようにしか見えなかった。」
「やかましい。」
そんなことをしながら、私たちは洞窟を出た。
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