第85話 インテリゴブリン(2)

 状況を整理しよう。


 ほぼ不意打ちで、ワイバーンを討伐してもらった。そしたら、他にもワイバーンがいることが判明した。


 何いっているかわからないって?私だってわからないしわかりたくもない。


「……ちなみに、ワイバーンは何体くらいいるの?」

『フム……ヤツラハオソラク五十羽程度ノ群レダッタはずダ。ダガ、上位個体ガ率イテイタタメ、我々ハ不覚ニモ窮地ニ立タサレテシマッタ。』

「ワイバーン五十羽は『程度』ではないでしょ。」


 思わずつっこみをいれてしまった。

 頭を抱えながら、私は怪我をしていた方の小さな影にポーションを渡す。深手を負ったと言っていたので、一応二本あげた。


『カタジケナイ。コレハ……ぽーしょん、カ?』


 瓶を受け取った小さな影が、中の液体をじっと見つめて私に聞く。


「ええ。まあ。」

『……。ソウカ。アリガタク使ワセテモラウ。』


 短く答えた私に、小さな影は少しうつむいて瓶の蓋を開けた。

 なんださっきの沈黙は。やめてよ、ちょっと不安になったじゃん。


「おい、シロ!!どこだ!!」


 あ、ジャックさんたちを忘れてた。戻らないと。


『!?新手カ!?』


 私がそんなことを考えていると、槍を持った小さな影が慌てたように辺りを警戒しだした。


「あー、いや、私の仲間ですね。」


 驚かせてしまったかな、と思っていると、怪我をしていた方の小さな影が爆弾を投下してきた。


『アア、成ル程。貴殿ハ【ひゅーまんていまー】ダッタノカ。飼ッテイル人族ニぽーしょんヲ持ッテキテモラッタノカ。』

「えっ?」

『フム?』


 ヒューマン、テイマー……?何その不穏なジョブ。


「シロ!いるなら返事しろ!」


 ジャックさんの声が少し近くから聞こえてきた。近づいてきているらしい。


「あの、少し聞いても良い?」

『ナンダ?恩人ノ質問ダ。余程マズイ質問デナケレバ何デモ答エヨウ。』


 怪我をしていた小さな影が、気前よく答える。

 私は、質問した。


「その……あの……あなた達の種族は?」


 その時。松明の灯りがこの部屋に入ってきた。


「おいシロ!いるなら返事しろ……って、おい、そこにいるのは……。」

『兄サン、逃ゲテ!人族ダ!!』

『………恩人?ソノ姿ハ……?』


 数分ぶりに見る光。それが照らし出したのは、血を流し息絶えたワイバーン。丁寧に加工された石畳の通路に、複雑な模様の描かれた岩壁。そして、今まで暗くて見えなかった二つの影の正体。


 ワイバーンの真っ赤な血液を浴びた、一切の装飾もないそまつな鉄槍。子供くらいの背丈に、なめした動物の革でできた動きやすそうな革鎧。


 もう片方は大きく裂けた革鎧に緑色の体液を付着させ、右手には低級ポーションの入った小瓶を持ち、拳には何らかの金属製のナックル。


 そして、二つの影は共通して緑色の肌に、曲がった耳。


 あれは………


「ゴブリン……?」

「おい、シロ!冒険者なら武器くらい構えろ!まともな武器を持ったゴブリンは容易に人を殺せる!しかもそいつら、『インテリゴブリン』だ!」


 ジャックさんの焦ったような声。

 信じられないというような瞳でこちらを見つめる二人のインテリゴブリン。


 松明の痛いほどに熱い灯りが照らし出したのは、残酷で奇妙で目をそらしたくなるような現実だった。

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