第79話 ……移動なんてこんなもんだ。
「で、シロ。どこへ向かうことにしたんだ?」
少ない荷物を背負ったジャックさんは、隣を歩く私に声をかける。相変わらずフードを深くかぶっているため、表情は今一つ読めない。
重い荷物を背負った私は、短く答える。
「ロザの村ね。アモイへ向かう街道は盗賊が増えているらしいし。」
「そうか。」
ジャックさんはそう言うと、まっすぐと続く街道に目を向ける。ローブの袖口からは包帯の巻かれた拳が見え隠れしていた。
会話は一時間前と同様に、そこで途切れる。
……………暇だ…………。
気まずい沈黙に耐えるため、私もいつまでも続く街道を見上げる。ああ。太陽が眩しい……。
もうやることもないし、荷物の状況でも言おうか。
今回の所持品は、小さなポーチに瞬発力強化薬、低級ポーション、お金。リュックサックに寝る用の毛布とテント、着替えと保存食に水筒。あと空き瓶がたくさん。
なんだかんだいって、瓶と水が重い。
上がってよかった、筋力ステータス。
さて、現実逃避はおいておこう。
暇。すっごく暇。とてつもなく暇。
ジャックさんは無口だし、私もあまり詮索してほしくないからしゃべれないし、特に目新しいことも起きないし、ずっと真っ直ぐの道だし。
ああああ、もう、暇っ!!
……まあ、諦めるしかないか。
今日は日が暮れる直前まで歩き続け、野宿をした。
_______依頼主がこんな子供だとは思っていなかったな……。
俺は窮屈なフードをはずし、テントのなかで眠る少女に目を向け、考える。パチパチと薪がはぜる音だけが夜を賑やかにしていた。
面接の時から被っていた彼女のフードは、寝るときはさすがにはずされるらしい。プラチナというにはいささか白すぎる髪の毛に、ある種病的と言えるほどに白い肌。
「……案外、『シロ』って名前は本名なのかもな。」
俺は周囲を警戒しながら小さく呟く。
……何かが、近づいてきている。恐らく、動物。魔物だとしたら、小型の獣型。さすがに人間ということはないだろう。
拳に巻いた包帯に魔力を通せば、俺の額にはえた罪の証が簡単にその姿を表す。
ガサガサッ
草影からのそりと現れたのは、
『グルルルル……』
狼は、警戒するように低い声で唸る。
「………。」
音は出来るだけたてない方がいいだろう。
だから、瞬殺だ。
やや湿った土を蹴り、ハンターウルフが仲間を呼ぶよりも先に拳を突きだす。
ゴスッ!!
一瞬だけ鈍い音が夜空に響き、そして、すぐに静かな夜に変わった。
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