第80話 閑話 side茜 国王からの依頼

 足名が王都から離れてから数日後。

 2ーAのメンバーは謁見室へと連れていかれた。


 茜は、を連れて謁見室に入る。数日ぶりに顔を会わせるクラスメイトたちに、茜は一瞬だけ目をそらした。


「お姉ちゃん、ここ、どこなの?」


 青空のような澄んだ水色のワンピースを纏った白い兎人……イナバは不安そうに頭にはえた兎の耳をピンとたて、周囲をキョロキョロと見る。そして、茜の足にぎゅっとしがみつく。


 茜はイナバの頭を優しく撫で、答える。


「謁見室よ。そろそろ王さまが来るのじゃないのかしら。ここにいる人たちは、あまり危なくないわ。警戒しなくても大丈夫よ。」


 そう答える茜の瞳は、足名の葬式が終わった直後のような余裕のないものではなかった。


 数日前に保護した『白い少女』は、全くの別人だった。だが、イナバは誘拐された違法奴隷であるらしく、両親を見つけるまでは茜が保護をすることになったのだ。


 普段は『青空亭』で生活をしているイナバは、城へ来るのは初めてだった。


 きらびやかな装飾の数々に、複雑な模様のタペストリー。豪華絢爛という言葉の似合う謁見室。茜のクラスメイトたちはそれぞれ椅子に座り、飲み物を飲んだり、お菓子をつまんだりしている。


 だが、イナバは気がついていた。


 ねばついた、重たく敵意のある視線が、茜に向けられていたことを。


 大事なあねを守るため、イナバは涙目になりながらをにらみ返す。

 イナバの視線に気がついたは、イナバの頭部に生えた耳を見るなり、鼻で笑った。


 イナバは、そっと目を伏せる。


_______わたしがお姉ちゃんを守らないと。


 イナバは、そう決意した。





_______この殺気は……確か、第二王子つきの護衛ね。前の手合わせのこと、まだ恨んでいるのかしら。


 刀をすぐ抜けるよう壁に背をもたれかけたまま、茜は考える。手を出してくるつもりならば、容赦なく切り捨てるつもりだった。


 しばらく均衡した状態が続き……


「勇者の方々、申し訳ない。少々用事があって遅れてしまった。皆そろっているな。」


 中央のドアから国王が入り、膠着状態は終わりを告げた。


 赤く豪華なマントを羽織った王は、部屋の最奥の椅子に腰かける。

 そして、重々しく口を開いた。


「勇者たちよ_______ついに、魔王軍が動きを見せた。我らが『勇者の国』が蹂躙されるよりも先に、魔王を討ち取ってくれたまえ。」


 ざわり……と謁見室がざわめくよりも先に、茜は鞘つきの刀で壁を思いっきり叩いた。


 バキャッ!!

 パラパラパラ………


 凄まじい破壊音とともに、砕けた煉瓦が謁見室の床の上にパラパラとこぼれ落ちる。


 茜の突然の暴挙に、謁見室はシンと静まり返る。

 注目を浴びた茜は、重々しく口を開いた。


「相変わらず、いろいろ飛ばしすぎているわね。言いたいことはそれだけかしら?」


 茜の威圧混じりの声が、どっかりと椅子に座った老齢の男に浴びせかけられる。


 近衛兵が一斉に剣を抜き、茜を警戒する。

 国王は冷や汗を一筋流し、どもりそうになりながらも言葉を紡ぐ。


「言いたいこととは、一体なんのことだろうか、アカネ殿。」


 そう聞かれた茜は、遠慮なく質問する。


「報酬は?」

「………は?」


 国王は、心底意味のわからないという表情をした。茜は、畳み掛けるように質問を重ねる。


「リスクは?場所は?立場は?道具は?方法は?私たちの意思の確認は?_______一体、どうなの?どうなっているの?飛ばしすぎてはいないかしら?。冒険者ギルドの依頼だってもう少し詳しく、分かりやすく書いてあるわ。」

「アカネ殿!!国王の御前ぞ!控えんか!」


 そう叫ぶのは、右腕のない宰相。茜は、さっとさげずんだ瞳で一別してから、言葉を続ける。


「『討ち取ってくれたまえ』?魔王とやらのいる場所すらも説明せずに?私たちを一体、何だと思っているの?『皆そろっているな』?そもそも、。私たちの保護責任者は前田先生よ。責任者もいないのに、何が『皆そろっているな』なのよ。」

「近衛兵!!あの無礼者を捕らえよ!」


 宰相が狂ったように叫ぶ。


 殺到する近衛に対し、茜は赤い刀身の刃をひとふり閃かせる。


 力量の差は歴然だった。

 近衛兵のつけていたが、ごとりと赤い絨毯の上に落ちる。


「これ以上近づくなら、次は腕か首を落とすわよ?」


 呆然と粉々になった鎧を見つめる近衛に、茜は冷ややかな声を浴びせかける。


「茜!?いったいどうしたんだ!そんな危ないもの、早くしまえよ!」


 事態を見守っていた朝井が叫び声を上げる。

 それに便乗するかのように、クレア王女が金切り声を上げる。


「アサイ様!アカネ様はそこにいる魔族に操られているのですわ!今止めないと、皆様が危険にさらされます!」


 クレア王女は、イナバを指差しそう言う。

 イナバはピクリと体を震わせた。


「……そうか。そうなのか。茜。その子を引き渡してくれ。」

「朝井、あんた、クリストさんの授業をちゃんと聞いていた?魔族と獣人は別種族よ?」


 怯えるイナバの頭を撫でつつ、茜はあきれたようにそう言う。


「あくまでも引き渡すつもりがないのなら……問答無用だ!」


 朝井はそう言うと、金色に輝く長剣を抜き払う。


_______相変わらず、話が通じないわね。


 茜は、深くため息をつくと、両足を自然に開き、刀を構える。


 数秒後。凄まじい轟音が謁見室に響き渡った。

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