第66話 ロックがあらわれた!
「うわぁ!?」
軽く吹っ飛ぶ私の体は、先程倒れたばかりの大木にぶつかって、止まる。
背中を激しく打ち付けられ、一瞬息が止まる。
HPがかなり削れたことを本能で察知した。
_______これは、ヤバい……。
ほぼ反射的にバッグに手を伸ばし、低級ポーションの入った小瓶を手に取り、一気に煽った。
バジルで作ったからなのか、バジル風味の液体が喉を通り、私のなけなしのHPが全回復する。
「げほっげほっ、これはまずい……。」
どっちだって?どっちもだ。
顔をあげて様子を見てみれば、狼と巨大鳥が戦闘をしている。
狼は小さな体を使い、素早い動きと死角からの攻撃で巨大鳥を牽制している。首を狙った噛みつきなどは巨大鳥もかなり警戒しているらしく、迂闊な動きができない。
対する巨大鳥は、圧倒的なパワーで森林破壊を行っていた。大きな翼をふるい木々をなぎ倒し、鋭い爪は大地を抉る。当たってしまえば狼はひとたまりもないだろう。
だが、この均衡は、あと一分足らずで終わりを告げる。理由は、制作者たる私がよく知っている。
「瞬発力強化薬が切れちゃう……!」
狼が巨大鳥の攻撃を避け続けられているのは、先程狼に与えた瞬発力強化薬が効いているからだ。
そして、瞬発力強化薬の効果の持続時間は、一分。一分が過ぎると徐々に効果がうすれていき、五分ほどで完全に薬は切れる。
狼に瞬発力強化薬を渡しに行く?
私は秒でミンチになるだろう。
瞬発力強化薬を投げ込む?
もし巨大鳥に当たったら目も当てられない。
「どうすれば……!」
バックを漁っているとき、気がついた。
その液体の入った小瓶を手に取り、大きく振りかぶる!!
「ピッチャー変わりまして、背番号46番足名選手。大きく振りかぶって……」
そして、大きな的、つまり巨大鳥の方へ!!
「投げたぁぁぁぁあ!!」
パリン
安物の瓶は、巨大鳥にぶつかると簡単に割れてしまった。瓶の中身が巨大鳥の羽にかかる。
「やった!当たった!ホームランだ、ホームラン!!」
……よく考えれば、ホームランじゃない。ストライクだ。返されちゃだめじゃん。
私がそんなふうにはしゃいでいると、薬の効果が現れてきた。
『グルラァァア!?』
翼を振り回そうとした巨大鳥は、その羽が動かないことに気がつく。
私が使った薬品は、今朝のアレだ。
[マヒ毒]
皮膚にかかると、その部位が痺れて20秒間動けなくなる。十分な水でしっかりと洗い流せば、すぐに動けるようになる。
たった20秒と思っていたが、戦闘中の20秒は、そのまま状況をひっくり返し得る時間になる。
「狼!今っ!」
『グル……わふっ!』
唸りかけた狼が、犬っぽい鳴き声で返事をする。
そして、次の瞬間には決着がついていた。
巨大鳥の翼を動かせないその一瞬をつき、狼は巨大鳥の喉笛に食らいつく!
『グルラアァァァァァァァアアア!!!!?!?』
絶叫を上げ体を大きく振るが、狼の牙からは逃れられない。
数秒後。瞬発力強化薬が切れるよりも先に、巨大鳥の命が消え失せた。
[経験値を入手しました。]
[レベルが上がりました。]
脳内にアナウンスが聞こえてくる。
どうやら私と狼は生き残れたらしい。
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