第63話 あかねちゃんと魔物退治
「んじゃ、お前はダンジョンに行って魔物退治をしてもらう。」
「すいません。話の前後が全く読めなかったのですが。」
事もなさげに爆弾発言をするリュートに、茜は思わず口を挟む。
リュートと手合わせをした翌日。軍の訓練直後に呼び止められた茜は、途中で合流したクルートと共に上記の会話をした。
頭を押さえている茜に、リュートは言う。
「安心しろ。回復のプロをつれてきている。即死さえしなければ五体満足で帰ってこれるぞ。」
「今の話のどこに安心できる要素がありました!?」
顎を撫でながら気だるげに言うリュートに、茜はつっこむ。
ふと、しばらく黙って茜の後ろに立っていたクルートが、ゆっくりと口を開く。
「……リュート……もしかして……姉さん?」
「あー。そうだな。」
クルートの発言に、リュートは首を縦にふる。直後、クルートは回れ右をしてその場を去ろうとする。
「え!?クルートさん!?」
思わず茜はクルートを呼び止める。
が、クルートの逃走は失敗に終わった。
「クルート。久しぶりね。」
優しい女性の声が、リュートの背後から聞こえてくる。茜が振り返ってみれば、そこにはさらりと長いブロンドの髪の、美しい女性が立っていた。
クリストが着ていたような、教会の宣教服をまとったその女性は、儚げな印象と、どこか力強さのような相反する二つの印象を抱えている。
しかし、その表情はとてもではないが優しげな顔つきとは言えなかった。
「ねえ、クルート。たまにはお兄さんの所に行ったら良いのじゃないの?」
額に青筋を浮かべながら、その女性は逃げようとしているクルートのフードをひっつかみ、詰め寄りながら言う。
クルートは即座に手を伸ばし鋼鉄に近い強度を持ち合わせた糸を使おうとする。
が。
バキッ
「……っ!!」
懐に潜り込んだ女性は、伸ばしかけだったクルートの右腕を掴み、逆に曲げた。
骨が折れる音とクルートの小さな呻き声が平和だった裏庭に響く。
「随分弱くなったわね。クルート。」
冷然とした表情を浮かべ、女性は折れた右腕を押さえているクルートに言う。クルートは額にうっすらと冷や汗を浮かべながら答える。
「……挨拶の……代わりに……弟の骨を折るのは……どうかと思うよ……ミーア姉さん。」
女性……ミーアはため息をつき、呆然と二人のやり取りを見つめていた茜に声をかける。
「改めて……私は、ミーア。リュートと同じパーティに所属している、冒険者よ。」
先程の怒りの形相とはうって変わった笑顔に、茜は思わずたじたじとしながら自己紹介をする。
「嶋崎 茜です。今日はよろしくお願いします。」
頭を下げる茜に、ミーアはニコニコと微笑みながら言う。
「今日は王都のダンジョンの20階層まで行くらしいわね。準備は大丈夫かしら?」
「………へ?待ってください。主に二つの質問が。」
ミーアの発言を聞いた茜は、思わず顔を上げ、質問をする。
「今日、王都のダンジョンに行くのですか?」
「ええ。そうよ。」
ミーアはニコニコと微笑みながら答える。
茜はもう一つ質問する。
「今日中に20階層まで行くのですか?」
「ええ。そうよ。」
ミーアはニコニコと微笑みながら答える。
茜の顔がひきつった。
そんな茜の肩に、クルートはポンと左手を置く。右手は骨が折れており、動かすことが出来ないのだ。
「……頑張れ……死には……しないから……」
「トラウマにはなるかもだけどな。」
リュートが長剣を手入れしながら口を挟む。
「もちろん、嫌だったら来なくても良いわよ?」
ニコニコと微笑みながら、ミーアは言う。
そんなミーアに、茜は言う。
「いいえ。______よろしくお願いします!」
______あら、
ミーアはニコニコ笑顔の下でそんなことを考えながら、まっすぐな目をする茜を観察した。
「あと十分で出発する。必要な物を持って城の表門にこい。日帰りの予定だ。荷物は少なくて良いぞ。」
リュートは茜に短く命令すると、木陰に置いていた背負い袋を拾い上げる。
茜は返事をすると、自分の部屋へと走っていった。
____________________________________________________________
ミーア「( ^ω^ )ニコニコニコニコ」
茜、クルート 「((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」
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