第62話 薬草採取(2)

「………。」

『………わふ。』


 草影から出てきたのは、狼。

 だが、敵意はないらしい。犬っぽい鳴き声を上げて、こちらを伺うように見てくる。


「……よし、逃げよう。」


 このときの私に、戦うという手段はなかった。だって、狼だぞ?

 RPGでは序盤の敵としてよく出てくるが、ここは現実。体長一メートル以上の肉食動物に一人で攻撃する気は起きない。


 逃げることを決めた私は、目をそらさず、背を向けず、ずりずりと後ろに下がって………


 がさがさ

『わふっ』


 何でっ!?離れたぶんだけ狼が私の方へと歩み寄ってきた。相変わらず狼に敵意は感じられない。


 私が動きを止めると、狼も動きを止める。離れると、近づいて来る。


 ……どうすりゃ良いの?

 二人(?)の間に奇妙な沈黙が流れる。


 先に動いたのは、狼だった。


 がさがさと足元の草むらを揺らしながら私の方へと歩み寄る狼。そして、狼は私のバッグに噛みつく。


「え!?ちょ、待って待って、買ったばっかりだから!バッグ、買ったばっかりだから!」


 穴を開けられてはたまらないと私は慌ててバッグを肩から下ろす。

 すると、狼は器用にもバッグをあけ、中から低級ポーションを一本、引きずり出す。

 そして、狼は私の方をちらりと見てきた。


「………え?何?欲しいの?」


 私がそう狼に聞くと、狼は頷いた。

 ずいぶん頭良い狼だな……。


「じゃあ、あげるよ。」


 私がそう言うと、狼は頷いてどこかへ行ってしまった。一体、何だったのだ……。



 その後、普通に薬草を採取して、癒し草を目標の束だけ作り、何事もなく王都へと戻った。

 怪我がなくて、何より。





「ヤバイぞ!ジャイアントセンチピードだ!」


 レザーアーマーを着た赤髪の男が黄色の髪の毛の女性を庇いながら叫ぶ。手にもった剣はすでにヒビが入っていた。


「くそっ!!ゴブリンは目標の数だけ討伐できたってのに!何でこんなやつが出てくんだ!」


 矢のつきた弓矢を持った青髪の男が悔しそうに言う。


 三人の男女の前には、体長が1,5メートルはあるであろう、大きなムカデ。回りには折れた矢が何本も落ちている。


 酷く固い外殻を持った大ムカデジャイアントセンチピードは、低級の冒険者では文字通り歯が立たない。


 大ムカデジャイアントセンチピードの体当たりや噛みつきでの怪我が三人の男女に増えていく。


 大ムカデは『キチキチキチ』と耳障りな音を口から漏らす。沢山の獲物がいることを喜んでいるようだ。


「ヤバい、イエロ、逃げろ!」

「レッド、ごめん、もう無理。」


 腹に大きな傷をしている女性は、赤髪の男に弱々しく言う。傷からはどろどろと血が溢れていた。


 大ムカデはそんな女性に体当たりをかます……


『グルルルルルルルッ!!』

 ぐちゃっ


 前に、唸り声をあげる狼によって噛みつかれる。


キチキチキチキチキチキチ!!


 大ムカデは悲壮な叫び声を上げ、二度三度ともがき、痙攣したが、やがて緑色の体液を流し動かなくなった。


「うわぁ!?狼!!」

「ブルー、大丈夫だ!王都の狼は俺たちを襲わない!」


 パニックになりかけた青髪の男に、赤髪の男が声をかける。


「というか、それどころじゃない!!イエロが!」


 赤髪の男は、必死に黄髪の女性を止血しようとする。しかし、どくどくと溢れ出る血液はなかなか止まらない。


『わふっ』


 そんな三人の冒険者に、狼は足名からもらった低級ポーションを差し出す。

 狼から低級ポーションを受け取った赤髪の男は、おろおろとしながら、


「良いのか?」


 と狼に聞く。狼は問題ないとでも言うように大きく頷いた。


 赤髪の男は恐る恐る低級ポーションを受け取ると、黄髪の女性の腹部かける。

 腹部の傷は完全にとは言わないまでも、出血が完全に止まる程度までは怪我をふさいだ。


 お礼を言う三人の冒険者をよそに、狼は大ムカデを咥えて、森の奥へと消えていった。

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