第48話 エリクサーの材料

 鬱回注意

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「分かんない!あと、お腹すいた!!」

「………」


 私は、思わず叫ぶ。

 地下牢に入れられてから、一夜が明けた。


 エリクサーの最後の材料は、未だに見つかっていない。いつからか、クルートさんは返事をしなくなった。脱水症状が起きていないことを祈りたい。


「マンドレイクも違うし、ドラゴンの鱗も違うし、ミスリルも違うし!!一体、何なのさ!」


 作り上げた薬品を鑑定しながら、私は叫ぶ。空腹とMPを使いきった頭痛でイライラしてきたのだ。


 私が荒れていると、ふと、やたらに大きな木箱を持った騎士が入ってきた。


「何?食事?それとも、嫌がらせ?」


 私は、イライラとしながら騎士に言う。

 黄色い髪の毛の騎士は、短く言う。


「材料だ。」

「ん?世界樹の葉?それとも、天上の甘露水?」


 私がそう聞くと、騎士は答える。


「時の錬金術師曰く、『最期の材料』だそうだ。」

「………へ?」


 思わず、間抜けな声をあげてしまった。

 おいおい、なんの冗談だ?


「冗談ではない。」

「おや、声に出てたか。」


 私は慌てて口を閉じた。

 騎士は淡々と命令する。


「エリクサーを作れ。」

「ハイハイ。【生成(薬品)】」


 _____私はこのあと、この時のことをずっと後悔した。何故、『材料』を確認しなかったのか。何で箱の中に詰められていたのか。もっと、考えるべきだったのだ。


 瓶の中に、無色透明な液体が生成される。

 そして、アナウンスが流れる。


[生成(薬品)のレベルが上がりました。]

[生成(薬品)のレベルが10になったため、上位アビリティ【薬品生成】が解放されました。]


「おっ!!」


 手応えを感じた私は、そのままアナウンスを聞く。


[エリクサー生成成功により、称号【伝説を再現した者】を獲得しました。]

[エリクサー生成成功により、称号【道を踏み外した薬師】を獲得しました。]


「…………え?」


[エリクサー生成成功により、称号【人の命を喰らうもの】を獲得しました。]

[エリクサー生成成功により、称号【運命の破壊者】を獲得しました。]


「………待って………」


[エリクサー生成成功により、称号【怨嗟を受けるもの】を獲得しました。]

[エリクサー生成成功により、称号【至高の薬師】を獲得しました。]

[精神汚濁耐性のレベルが上がりました。]


 怒濤のアナウンスが消えた後、私は震える手を押さえて、エリクサーを薬物知識で確認する。


[エリクサー]

 不老不死の秘薬。一滴飲めばどんな怪我でも病気でも元通りに癒し、一口飲めば、寿命を千年伸ばすと言われている。

材料

世界樹の葉 フェニックスの羽 天上の甘露水 胎児もしくは、赤子の命


製作者 足名 のの


注意 胎児もしくは赤子の命は、MPで代用することは叶わない。命を伸ばそうとするものは、汚れなき命を集め、その将来を溶かさなくてはいけないことを心に刻むべし。


 発狂した。

 叫んで、泣いて、喚いて、後悔して。


 でも、上がってしまった精神汚濁耐性のせいで、完全に狂うことは許されなくて。


 騎士が怯えて外に出ていってしまったことに気がついたのも、かなり時間がたってからだった。


 クルートさんの必死な声が遠くで聞こえる。

 でも、私は、それを聞かなかった。聞けなかった。


 嘘だと思いたくて、幻聴を聞いたと思いたくて、私は木箱を開けた。


 中は、真っ赤だった。

 異臭えんさと、赤い液体あくむがつまった、箱だった。

 ほんのりと箱に残ったかすかな温かさが、そこに生き物がいたことを証明する。


 私は、絶望した。


 絶望して、絶望して、私は、部屋のすみに置かれたままだった紙と、ペンをとった。



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 命を延ばすのには、別の命が必要。

 その命を、置き換えることなど出来ない。

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