第49話 ……………………?
握ったペンで紙に文字を書きなぐる。当然、日本語でだ。
20分ほどで書き上げたそれを持って、牢屋の扉に手をかける。
「【薬品生成】」
塩酸を生成して扉を溶かす。盗聴機なんてもう関係ない。どうでも良い。
そうして、クルートさんの個室の前へ移動して、同様に鍵を溶かして入る。
「クルートさん、あなたの前に手紙を置いていきます。この手紙を嶋崎茜という女の子に渡してください。」
「……ダメ……何する……つもりだ………?」
クルートさんは途切れ途切れに質問する。
「ケジメを、つけます。」
私は、泣き腫らした目で言う。
「……止めろ……お前……悪くない……」
「私は、何も考えずに誰かの将来を溶かしました。悪くない訳が、ありません。」
クルートさんは縄を軋ませながら言う。が、私は許せないことをしてしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。
宮藤くんにつくってもらったナイフをクルートさんに手渡し、私は研究所に戻る。
知っていた。この研究所に、どんな材料でもあることを。その中に、猛毒である『バジリスクの血』があることを。
私は、【薬物知識】を使って、バジリスクの血を調べる。
[バジリスクの血]
魔物、バジリスクの血液。猛毒で、一滴でも飲めば死に至る。希釈した上で特殊な処置を施すと、石化の解除薬になる。
私は、バジリスクの血をエリクサーの中に注ぎ込む。バジリスクの血が少なかったこともあり、ちょうど一対一位の割合になっていた。
エリクサーをここに残しておくわけにはいかない。宰相に渡したくないからだ。トイレに流すわけにもいかない。魚や魔物が飲んでしまったら、悪夢にしかならない。
どうすれば良いのかは、簡単なことだ。
私が飲んでしまえば良い。そして、死んでしまえば良い。
そうすれば、この世に私が作成したエリクサーは残らず、かつ、作成した私がいなくなることでエリクサーの生成に成功したかもわからない。
これをケジメと言わずに何と言えば良いのだろう。
バジリスクの血の入ったエリクサーは、とろみを帯びた黒色へと姿を変えた。
「止めろ………!!」
牢屋の扉が破壊される音が響く。
クルートさんが私を止めるよりも少し早く、エリクサーを煽った。
ドロリと、液体が口の中に入る。
「っ!!!」
どす黒い液体が舌に触れた瞬間、耐えきれないような痛みが舌に広がる。
辛い、ではない。痛い、だ。
エリクサーが喉を通る。触れた皮膚が、体皮が、食道が、胃が、喉が、血管が、唇が、歯が、思考が、脳が、溶けるように、焼けるように、痛い。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
言葉にならない『咆哮』が、七畳ちょっとの牢屋に響く。
痛みに耐えきれず、私はその場に崩れ落ちる。
「おい………!」
クルートさんの必死な声が聞こえる。
私の手に、何やら暖かい何かが触れる。
よくわからなくて見てみれば、赤色の液体。
私の、血だった。
意識が白んでいく。遠ざかっていく。消えていく。
_____なるほど、これが、死ぬってことか。
石畳の冷たさと、自分の体温を感じながら、私は、死んだ。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あっれれ~?おかしいぞ~?」
どれくらい時間がたったのだろう。
私は、目を覚ました。
場所は、本棚と机が部屋の半分を占める、七畳ちょっとの牢屋。切り刻まれた扉の残骸は金属でできていたらしい。
そして、私以外に誰もいないらしい。
意味がわからず、私は自分の顔をさわる。
そして、ふと気がついた。
「……あれ?私今、服着てない?」
見えるはずの袖口がない。いや、それどころか、肌がやたらに白い。
「ちょいちょい、今、私何がどうなってる?」
硝子に写りこんだのは、全裸で、真っ白な女の子。肩くらいの長さの白髪は、艶やかで縛りぐせなどは存在していない。対になるように、瞳は血のように赤く、まるでルビー。
何処かの雑誌で読んだ、アルビノというやつに、そっくりだ。
「………いや、これ、私!?」
盛大に独り言をはきながら、自分の体を確認していく。
痛みはなく、呼吸もできて、腕をつねってみれば痛みもきちんとある。
全裸なので羞恥心はあるが、皮膚の色以外、体に変わったところはない。
ふと、鏡の奥に何かが写りこんでいることに気がつき、後ろを振り返る。
「ひっ!??」
そこには、血の海の中に誰かが倒れこんでいた。
肩くらいの長さの茶髪。低い身長、スレンダーな体。………けして、貧乳ということではない。スレンダーだ、スレンダー。
写真や鏡に写った姿をさんざん見たことがある。
あれは………
「私の、死体………?」
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