第40話 結局、世の中金か顔なんだね。
エリック王子と遭遇してから数時間。
クリストさんの講義も終わり、既に日も傾いてきた時間帯。私、足名 ののは、図書室で伝記を読んでいた。
「リュートって人、無双し過ぎでしょ。アビリティに絶対【威圧】系の何かが入っているだろうし。」
リュートさんは数年前の戦争で活躍した、勇者みたいな人だ。
山を剣で切り開いて道を作ったっていう事がかかれていたりするけど、アビリティやステータスによっては出来ないことが無さそうでちょっと面白い。
独り言を言いながら本を読んでいると、後ろから、ふと、声をかけられた。
「申し訳ありません、貴女がアシナ ノノ様ですか?」
「はい?」
振り返ってみれば、金髪碧眼のイケメン。どことなく、エリックと似た雰囲気を醸し出している。
「えーと、どちら様ですか?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。私はリンフォール・カレドリア・アーサ。第一王子だ。」
彼はそう言うと笑顔で右手を差し出してくる。
「はぁ……。足名 ののです。」
リンフォールの笑顔に違和感を覚えながら、私は自己紹介をする。何か怖いので、差し出された右腕は握らない。
リンフォールは何もつかめなかった右腕を戻すと、甘い笑顔を浮かべたまま、私に話しかけてくる。
「先ほどは第三王子が失礼なことをしたね。まだあの子は12歳だから、多目に見てやってほしい。」
「そうですか。別に、何とも思っていないですよ?」
「ありがとう。ノノ様はとても寛大な心を持っているね。嬉しいよ。」
「……はあ。」
何だ?この違和感。
見惚れるほど美しい顔のリンフォール王子の笑顔が、何故だかとても恐ろしい。
このまま話を続けると、何かがヤバイ気がする。
「えっと、要件はなんでしょう。」
とりあえず、私は話を切り出してみた。
「ああ。第三王子の非礼の謝罪と、後は、君に作ってもらいたい薬があってね。」
リンフォール王子は、嫌な顔ひとつせずに、そう答えた。
「薬?」
「ああ。……君にしか出来ないんだ。作れれば、大量の民を救うことができる。どうしてもダメならば、断ってくれてもかまわない。」
んー。なんだろう、この違和感。
エリック王子とは、何かが決定的に違う。でも、それが何だかはわからない。
「えっと、何の薬ですか?」
「一滴飲めば全ての病を癒すことのできる、エリクサーという伝説の薬さ。」
リンフォール王子は美しい笑顔でそう答える。
「……そんなもの、作れないと思うのですが。」
「いや、薬師というジョブをもつ君なら……いや、君にしか作れない。」
リンフォール王子の瞳に熱が籠る。
私は、取り敢えず【薬物知識】でエリクサーがどんな代物なのかを調べる。
[エリクサー]
不老不死の秘薬。一滴飲めばどんな怪我でも病気でも元通りに癒し、一口飲めば、寿命を千年伸ばすと言われている。
材料
世界樹の葉 フェニックスの羽 天上の甘露水 ???
注意 ???は、MPで代用することは叶わない。命を伸ばそうとするものは、???を集め、///////////さなくてはいけないことを心に刻むべし。
____注意……?そんな書き込み、初めて見たな……。というか、ちゃんと読めないし、『???』って一体何よ……。
「えっと、材料はありますか?」
「ああ。とある錬金術師がエリクサーに挑戦してね。その時の材料がある。」
リンフォール王子は、良い笑顔でそう答える。
「作ってくれるかい?」
「うーん、ちょっと考えさせて下さい。」
私がそう答えると、一瞬、ほんの一瞬だけ、リンフォール王子の顔つきが変わった。
人を見下す顔、いや、人以外のナニカを見下すような顔。そんな顔が、ほんの一瞬だけみえた、気がした。
えっと思い、リンフォール王子の顔を見直したときには、既に美しい笑顔に変わっていたため、見間違いかもしれない。いや、見間違いであってほしい。
「……そうか。わかった。また、聞きに来るよ。」
リンフォール王子は少しだけ残念そうな声色でそう答えると、何処かへ歩き去っていった。
「おい、宰相。一体何なのだ。あの、礼儀も身分も弁えない、ゴブリンのような下女は。」
リンフォール王子は、美しい笑顔の仮面をはずして、宰相に問いかける。リンフォールの言葉の中には、苛立ちが大きく混ざっていた。
足名に話しかけていた時のような、優しい王子は最早どこにもいない。
宰相はやれやれ、という表情をして、リンフォール王子の問いかけに答える。
「アシナ ノノ、でしたね。あの女は、アルフレッドの暗殺を阻止した、憎々しい悪女です。呪いを打ち消す薬などふざけた物を作りよって……。」
「俺の【
俺のヒカリと。と、リンフォール王子は憎々しげに言い放つ。
宰相はそんなリンフォール王子をなだめると、ニヤニヤと口元を歪めながら口を開く。
「しかし、エリクサーを手に入れることは、できるのでしょう?」
リンフォール王子は、ニヤリと口元を歪めて答える。
「ああ。【
「ええ。今は勇者への陽動で手一杯のはずです。」
「しくじるなよ。」
リンフォール王子は宰相に短くそう言うと、並々と注がれたブドウ酒に口をつける。
『ケケケッ、この国は、本当に飽きねェな。』
二人のやり取りを見ていたロキは、小さな声でそう呟く。
『際限のねェ欲と悪意が
ロキは楽しげにそう呟いて、主である佐藤の元へと戻っていった。
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