第27話 き、キサマァァァァア!

「魔物がいねぇ……」

『ああ、居ねえな……ケケケッ』


 宝箱を開けてから早くも1時間が過ぎた。ひたすら通路を歩いて、歩いて、たまに佐藤さんが罠を解除して、歩く。


「飽きた!もう、ダンジョンに飽きた!」

「ここまで魔物が居ないのは少しおかしいですね……」


 クリストさんがぼそりと言う。

 ロキは相変わらずニヤニヤと口元を歪めながら私たちを見ている。


『何で魔物が居ないのだろうな~』





 さらに歩き続けること三十分。あまりに魔物が出ないので、精巧な地図を作ってみたり、罠のある場所に色のついた薬品を撒いて分かりやすくしたりと、各々が有意義に時間を過ごしていた。


「97、98、99、100っ、ふう。」


 鞘つきの刀で素振りをしていた剣野くんが一時的に刀を納める。


「剣野くん、お疲れ様。」


 私は、低級ポーションを差し入れた。

 剣野は、「ありがとう。」と短く礼を言うと、ポーションを飲み干す。

 ダンジョンの壁から金属を取り出していた宮藤くんが声をかけてくる。


「足名、綺麗な水を作ってくれない?」

「いいよ。ダンジョンの水を生成して、普通の水にすればいいのね?」


 水が湧いているところに手をつけ、「【生成(薬品)】」ととなえる。

 空き瓶に生成した水を入れて、宮藤くんに渡す。

 瓶を渡したところで、葵ちゃんが声をかけてきた。


「足名さん、ハーブの成長が終わったわ。」

「わーい、ありがとう!あ、クリストさん、先生、佐藤さん、ハーブティーいりますか?」

「お願いしよう。」

「……ありがとう。足名さん。」


『………お前ら、マイペース過ぎねぇ!?ちょっとは焦れよ!!』


 突然、ロキが叫び出す。


『ダンジョンでここまで魔物と遭遇しねぇのは、おかしいことだ!何か、もうちょっと考えろよ!』

「ロキ、静かにして。」

『いや、おま……グガッ!!

 ハイ、ご主人サマ。』


 佐藤さんの命令で黙るロキ。

 私は、ハーブティーを口に含みつつ、考えてみる。


「考えてみたけど、魔物に会わないのだったら別にそれでも良くない?素振りしたり筋トレしたりでステータスは上がるのだし。まあ、魔物を倒してステータスを上げる方が効率は良いけど。」

『もごっ!もごもご!!』


 佐藤さんの命令でしゃべれないロキが口のなかでなにかを言う。



 すると、剣野くんが急に刀を抜き払う。


「左の角から8人。たぶん人間だけれども、魔物かもしれない。」


 私たちは立ち上がって戦闘準備をする。


 数秒後、現れたのは、あかねちゃんのグループだった。

 あかねちゃんは、きょとんとした顔で口を開く。


「あれ、のの?何をしているの?」

「魔物に会えなくてここにいたの……。」

「え?こっちは結構な頻度で出てくるぞ?」


 矢田部くんが声をだす。

 ふと、松本くんが、ロキの方へ歩み寄る。

 そして、聞いた。


「……[炎の化身]にして[閉ざす者]、悪魔ロキか?」

『もがっ!?もがもがもが!!』

「……ロキ、しゃべっても良いわよ。」


 佐藤さんがそういったとたん、ロキは口を開く。


『ただの悪魔じゃねえ!爵位持ちの大悪魔ロキ様だ!』


「……ほう?」


 クリストさんが冷たい目を向ける。アリステラ教、悪魔はタブーだものね。

 私はふと、疑問に思ったことを聞く。


「あれ?ロキは自己紹介の時、[火の化身]って言っていなかった?」

『……悪魔は嘘はつけねえんだよ。封印されていたせいで、力が弱まっていたんだ!!』


 そのうち力を取り戻す!ロキはそう言う。

 松本くんは、言葉を続ける。


「魔物が来ないの、お前ロキのせいだろ。」


「へっ?」

「えっ?」

「はっ?」

「……ロキ、説明しなさい。」


 佐藤さんが頭を押さえながらロキに命令する。

 ロキは、嫌そうな顔をしたあと、説明する。


『ご主人サマに隷属させられているとはいえ、俺様は大悪魔デスから。ちょっとばかし威圧をしておけば、魔物は寄ってきまセン。』

「お、おまっ、」

『げっ、まだ言わなくちゃいけねえのかよ!!……ぐっ!!……そして、ご主人サマが魔物が来なくて困っている間に、下層から魔物を呼び寄せマシた。そろそろこちらへ来ることでショウ。』


「下層の魔物……っ!!まさか!!」


 クリストさんが目を見開く。

 佐藤さんがロキに聞く。


「呼び寄せた魔物の名前は?」

『ヒャハハハッ!!オークキングだ……ぐっ!……オークキングデス、ご主人サマ。』


 ブモオオオオオオオオオオオ!!


 突如、凄まじい咆哮が辺りに響く。


『仲間どもと合流しちまったのは想定外だったが、問題はねえ!せいぜいメスブタにでも成り下がっていろよ、餓鬼ども!』

「オーク種族は、他種族のメスを孕ませ、仔を産ませます!逃げましょう、オークキングには勝てません!」

『ヒャハハハッ!!おせェよ!!』


 ダンジョンの壁を叩き割り、そいつは現れた。


 豚をそのまま二足歩行にしたような生物。醜悪な見た目で、その体躯は、三メートルはあるだろう。体重に至っては、1トンはありそうだという予想位しかできない。

 雑な鎧のようなものを身に付け、手には藍に輝く金属でできた、大剣。


「オーク、キング……」


 私は、思わずそう呟いた。


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 ロキによって呼び寄せられた魔物、オークキング!!

 ののたちはオークキングを倒せるのか!


 次回、『ローストポーク』


 来週もよろしく!

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