第26話 あかねちゃんと魔物
「ふっ!」
ざしゅっ
茜の振るった刀は、きらめきと共にゴブリンの首を撥ね飛ばす。
[経験値を入手しました]
無機質なアナウンス。
そして、吐き気。
生き物を殺すという行為は、茜の精神を静かに、しかし、じわじわと、確実に、蝕んでいた。
「【精神統一】」
茜はオリジナルアビリティを発動する。
吐き気が一時的に収まり、精神が安定する。多少のMP使用で狂気に陥らなくてすむならば、全然、安い出費だ。
茜はステータスを確認する。
名前 嶋崎 茜
種族 人間 レベル 10
ジョブ 剣士
HP 142/142 MP 101/111
筋力 152 知力 119 瞬発力 207 精神力 122
オリジナルアビリティ 精神統一
アビリティ 剣術【10】→刀術【2】 威圧【2】 体術【9】 忍び歩き【2】 ダメージ軽減【5】 不屈の心【8】
必死であげたステータスだが、未だに朝井よりも低い。オリジナルアビリティのこともあり、正面から戦えば、当然のように負けることだろう。
「はぁ……。」
茜は思わず、ため息をつく。
「嶋崎さん、どうかしましたか?」
ふと、松本が茜に声をかけてきた。
松本は闇に溶け込むような黒色のローブを纏い、鉄でできた杖を持っている。
MPを節約するために、弱い魔物には鉄の杖で攻撃しているらしい。ところどころ血で汚れている。
茜は、口を開く。
「いえ、少し疲れただけよ。」
「僕は、『少し』どころではなく疲れましたけどね。」
松本は、やや後ろに目を向ける。
「アサイ様、どうでしょう、この魔法!」
「朝井君、カッコいい!」
「なあ、ひかり、疲れていないか?大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫だよ。」
伊藤と、福島と、そして、クレア王女。
その三人が、朝井の回りにいる。
正確には、朝井が福島の近くにいき、それに伊藤と王女がよってきたのだが、うるさい上にめんどくさいことには変わりがない。
「王女は本当に何をしに来たのかしら。朝井の付きまといが目的なのだとしたら、逆に尊敬できるわ。」
「じゃあ、僕は王女を尊敬するよ。」
近くにやって来たスライムに、ファイアボールを叩き込みながら、松本は茜に言う。
通路の奥からゴブリンがやってくる。茜は、半身を反らす。
茜のいた場所を通って、矢がゴブリンの頭を貫く。
「矢田部さん、あなた、もう前衛に来れば?」
「あー、俺、HPが貧弱だからさ、ちょっと不安なんだよね。第一、距離がないと打てないし。」
小型の弓を持った小柄な少年、矢田部が口を開く。
茜は、刀に付着した緑色の血液を拭う。
_____のの、大丈夫かしら。
茜は、そう思いながら、前へ進む。
そんな茜を、クレア王女は笑いながら眺めていた。
「嶋崎さん、私も、スライムを倒しても良いですか?」
朝井が二人に捕まっている間に、福島は茜に話しかける。
茜は、少しだけ福島に同情する。
「朝井に散々止められていたものね。当然良いわ。攻撃魔法は使える?」
「サンダーボルト位なら。」
「松本、ひかりさんに次のスライム譲っても良い?」
「全然大丈夫ですよ。」
茜たちがそんなやり取りをしていると、二人からようやく抜け出せた朝井が福島を止めようとする。
「何を言っているんだ!ひかりに生き物を殺させるなんて!」
「……貴方だって、ゴブリンを殺したでしょ。第一、福島さんが望んで倒したいと言っているじゃない。」
「生き物を殺すのはダメだろ!」
「相変わらず、話が通じないわね。」
茜は、盛大にため息をつく。
その隙に、松本がスライムを連れて福島に倒させる。
「やった、レベルが上がった!」
キラキラとした笑みを浮かべて、福島が言う。
そんな様子の福島に、松本は、
「おめでとう。僕はそれなりにあげられたし、次も倒す?」
と言う。
「いいの?」
「いいよ。君、まだレベル4だろ?もうちょっとあげないと危ないだろ。」
「ありがとう!」
福島の嬉しそうな声に朝井が一瞬、松本を睨む。
2ーAは、少しだけ危うい状況になりつつあった。
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