第25話 罠と宝箱

 なかなか魔物に遭遇することなく、一時間ほどが過ぎた。


「いないね。」

「いないですね。」

『いねえな……ヒャハハッ』


 ロキが小声で笑ったことに違和感を持ちつつ、私たちは前へ進む。


 曲がり角に差し掛かったところで、ふと、佐藤さんが声を上げる。


「止まって。そこの角に罠がある。」

『チッ……。』


 舌打ちするロキ。どうやらロキは気がついていたらしい。

 佐藤さんは杖を通路に向ける。


「サトウさん。その、魔法は控えて……」


 クリストさんが申し訳なさそうにいうが、佐藤さんは無視をする。


「【水のベール】」


 佐藤さんが詠唱すると、薄い水の膜がダンジョンの通路を覆う。

 キラキラと光を反射しながら広がる水の膜は、曲がり角を越えたところで、『シャガン!』という異音をたててから消え去った。


『相変わらず頭のおかしい魔法の使い方だ……デスね。』

「なるほど……下位の防御魔法はそのようにも使えるのですか……。」


 感心した声を出すクリストさん。

 通路の角を見てみると、金属製の槍が一本、ダンジョンの床に突き刺さっていた。

 運が悪ければ体に刺さって大惨事になっていただろう。


 佐藤さんが口を開く。


「罠は解除したので、前に進みましょう。」

「……いや、ちょっと待ってくれ。」


 ふと、前田先生が口を開いた。

 前田先生は、曲がり角の近くの壁を指差す。


「この壁だけ、微妙に色が違わないか?」


 私も目を凝らしてよく見てみる。言われてみれば、一部分だけ近くの壁よりも色が濃い。ちょうど、扉のような形だ。


 佐藤さんがその壁に軽く触れる。

 すると……


 ごごごごっ


 壁がスライドして、奥に道ができる。


「隠し部屋です。ダンジョンの中にいつの間にか出来たり、いつの間にか移動をする、よくわからない部屋です。」


 クリストさんが説明する。


「罠はなさそうね。」


 私たちは警戒しながら隠し部屋の中へ入っていく。


 数歩進んだところで、部屋は途切れた。その代わり、真ん中の石の台座の上に、古ぼけた宝箱が置いてあった。


 佐藤さんは箱の表面を調べる。


「罠はないみたいよ。」

「うーん、誰が開ける?」

「俺、開けたい!」


 キラキラとした目で手を上げる宮藤くん。


「じゃあ、開けるよ!」


 宮藤くんは宝箱に手をかける。


 ガチャッ


 宝箱の中には、古ぼけた腕輪が一個、コロンと入っていた。宮藤くんはそれを手に取る。


 宝箱は、それで空っぽになった。


「……思ったよりも、ショボかった。」

『そりゃそうだろ。ここはまだダンジョンの一階層だぜ?いいもんなんて、出る訳ねえだろ。』


 ロキはニヤニヤとしながら言う。


 私たちは古ぼけた腕輪を手に入れた。


「剣野、これ、いる?」

「一応、もらっておこう。」


 宮藤くんから腕輪を受け取った剣野はそれを装備した。

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