第23話 ゴブリンが現れた!
ダンジョンは洞窟のような見た目だった。
むき出しの岩肌に清水が流れ、ゴツゴツとした石が足を阻む。
全員がダンジョンに入ったあと、教官が口を開いた。
「ここからはダンジョンだ!予測不能な出来事や理不尽な罠があるものだと思って行動しろ!」
「はい!」
みなふざけずに返事をする。当然私もふざけない。
教官は少しだけ拍子抜けたようだ。
「グループを分けて行動する!事前に言っておいた六人一組のグループを作れ!」
わらわらと分かれだす2ーA。
あかねちゃんとはここで一回お別れだ。
あかねちゃんは浅井くん、福島さん、松本くん、
私は、葵ちゃん、宮藤くん、
____うーん、気を付けないと。
ちなみに、前田先生は魔法使い、剣野くんは剣士、クリストさんは高位の光魔法使いだ。
前衛をできるのは、精々剣士の剣野くんと植物使いの葵ちゃんくらい。生産職が二人もいる。バランスが悪すぎか。
「罠の解除等は私が行います。」
クリストさんの一言。
「へえ、出来るのですか!」
興味津々で聞く宮藤くん。
「いえ、この中ではまだできる方なので……」
少しだけ顔色を曇らせてクリストさんが言う。
……そう言えば、シーフが誰もいない。
ヤバイんじゃないの?と思っていたところ、意外な人物が手をあげた。
「私ができるわ。」
「佐藤さん!?」
「私、オリジナルアビリティがあるから。」
『あの反則級のアビリティですネ。』
ロキがぼそりと呟く。
「何ていうアビリティだ?」
そう聞く宮藤くん。
しかし佐藤さんは口許に指を当てて何も言わない。
『ご主人サマ、似合ってないデスよ。……アガッ!!』
余計なことを言ったロキが契約でお仕置きされる。
クリストさんは、訝しげにロキを見たあと、口を開いた。
「では、シーフは佐藤さんに頼みましょう。」
『ここは一階層だから即死するような罠なんて無いだろうけどな。』
「おい、ロキ。フラグをたてるな。」
ついつい口をはさんだ私。
ロキは意味がわからないという表情でこちらを見た。
「三歩前の角。おそらく魔物がいる。」
ふと、剣野くんが口を開いた。
私たちは一斉に戦闘準備をする。
数秒後、角から現れたのは、三体の魔物。緑色の肌に、一メートルほどの身体。耳は曲がり、醜悪な顔つきをしている。
クリストさんが小声で私たちに言う。
「ゴブリンです。魔物のなかでは最弱の部類に入る魔物ですが、繁殖力が強く、群れを作ります。」
「なるほど。」
ゴブリンは私たちを見つけると、「ぎゃぎゃぎゃっ」と耳障りな音をたててこちらへ寄ってくる。
「【植物召喚】」
葵ちゃんは私の腕の太さほどある蔦状の植物を呼び出す。
蔦は凄まじい速さで動くと、ゴブリンの手足に絡み付き、三体を縛り付けた。
「ぎぎゃ?!ぎゃぎゃぎゃっ!」
「止めは誰が刺しますか?」
葵ちゃんがそう聞いてくる。
とりあえず、私は手をあげる。
「どうぞ。」
「ちょっとだけ、試したいことがあって。【生成(薬品)】」
私は詠唱をして低級ポーションを作り出す。MP代用なしなので、3だけしかMPが使われていない。
MPが減った状態で、私は軽く手を合わせてから一体のゴブリンにナイフを突き立てる。
「ぐぎゃっ」
緑色の血液が飛び散り、断末魔の悲鳴を上げて、ゴブリンは死亡した。
[経験値を入手しました]
[レベルが上がりました]
脳内にアナウンスが流れる。
私はステータスをチェックした。
名前 足名 のの
種族 人間 レベル 2(1up)
ジョブ 薬師
HP 30/30(5up) MP 25/25(5up)
筋力 23(5up) 知力 35(5up) 瞬発力 23(5up) 精神力 36(5up)
アビリティ
生成(薬品)【8】 薬物知識【4】 精神汚濁耐性【3】 MP軽減(薬品)【3】 毒物耐性【1】
「レベルが上がると、消費したMPが全回復するみたい。あと、ステータスが5ずつ上がったわ。」
「……足名、よく躊躇なく殺せたな。」
宮藤くんがそう言う。
私は、少しだけ考えたあと、答える。
「私たちの班には、クリストさんと前田先生がいる。だから、このあと、必然的になにかが起きると思うの。力がなければ、クリストさんや前田先生だけでなく、私たちも死ぬ可能性が高い。だから、殺せたの。」
でも、怖かったのは確かだ。いまだに手足が震えている上に、ゴブリンを刺したときの生々しい感覚が手に残っている。
それを聞いた剣野くんが手をあげる。
「俺も良いか?」
「良いわ。でも、最後の一体は私に殺させて。」
それを聞いた剣野くんは、剣、いや、刀を抜くと、それで蔦ごとゴブリンの首をはねる。
悲鳴をあげることすらできずに、ゴブリンは緑色の体液を流して死亡した。
残った一体も、締め付けの強くなった蔦によって窒息死したようだ。
二人の様子を見ていた宮藤くんは、少しだけ顔色を悪くしてから、言う。
「……次、ゴブリンが来たとき、俺に殺させてくれ。俺も、強くならないと。」
「良いわ。捕まえればいい?」
「いや、捕まえなくてもいい。俺には、これがある。」
宮藤くんはそう言うと、背負い鞄の中からニ丁の拳銃を取り出した。
銀色に美しくもシンプルに装飾された、二丁の拳銃。
「回転式拳銃のナガン・リボルバーと、自動式拳銃のボーチャードピストルだ!材料は銀と少量のミスリルで、魔力を流すことでナイフに変化する!!」
「「「か、かっこいい!!」」」
「当然、ジルドレはスナイパーライフルを持っている!こっちは魔力を流すことで長剣に変化!!」
「「「おおおお!!!」」」
剣野くんと先生とクリストさんが同時に興奮した。
理解しがたいそれを私と葵ちゃんと佐藤さんは冷ややかな目で見守る。
……シリアス?ああ、いいやつだったよ。
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