第14話 オワタ式ですかそうですか。

「____知らない天井だ。」

「ここに、天井なんてあるのかしらね。」


 辺りは、とにかく真っ白。その場から手を伸ばしてみるも、何にも触れない。

 所持品はバックの中に数個の低級HPポーションと、瞬発強化薬。あと、中身の入っていない注射器が三つ。武器の類いは所持していない。


 佐藤さんは辺りを警戒しながら、杖をバックから取り出す。明らかに物理法則を無視した質量の入る便利なバック、通称マジックバック。

 私は持っていないが、それなりに便利らしい。


「佐藤さんは今、何を持っている?」

「MPポーションと、HPポーション。ああ、HPポーションは低級じゃなくて、中級ね。」


 そう言うと、杖を構える。


「気をつけて。。」

「へ?」


 私がボーッとしていると、。何をいっているかわからないと思うが、私も何をいっているのかわからない。


 黒いシミのように見えたそれは、だんだんとその面積を広げ、渦巻く。


 そして、それが出てきた。


 それは、真っ赤な髪の毛を逆立てていた。

 それは、黒真珠のような瞳を持っていた。

 それは、まるで、貴族の服のような豪華な服を身に纏っていた。

 それは、背中に蝙蝠のような黒い翼を持っていた。

 それは、口許に、薄く笑みを浮かべていた。


「悪魔、ね。」


 佐藤さんが、ぼそりと呟く。


 ヒャハハハハハハハハハ!!


 耳障りな笑い声が、真っ白な空間に響く。

 悪魔は、口許を歪めたまま声を出す。


『ありがとうなァ、人間!!お前らのお陰でこの糞みてえな空間からオサラバ出来るぜェ!!』


 そう言って悪魔は手を伸ばし、長い指を三本たてた。


『俺様の優しさだ。3秒くれてやる。遺言でも言ってなァ!!はーい、さー』

「【イクスプロージョン】!」

「【生成】!」


 ズガァァァァン!!


「この空間、よくわからないけど、MPを消費しなくてもアビリティが使える!倒すわよ!」

「いえす、まむ!!はい、HP強化薬と、瞬発強化薬。」

『最後まで聞けよォォォォォォオオ!!』


 ぶちギレた悪魔が咆哮する。


「あら、生きてたの。」

『生きてるわァ!!ただがた人間の攻撃で消滅する分けねえだろォ!!』


 佐藤さんに一言に、顔を真っ赤にした悪魔が叫ぶ。

 私は、MPが足りなかったがゆえに今まで作ることが出来なかった薬品を次々と作る。


「いやー、MPを気にせず薬品を次々と作れるなんて、最高の環境だね!」

「私も、回りの地形を変えちゃうような魔法が試せるし、結構いいとこかもね。」

『マイペースかお前らァ!!人の話は聞けよ!この空間では光魔法が使えないこととか!俺様の自己紹介とかァ!』

「悪魔って、人間じゃないんじゃなかった?クリストさんがそんなことを言っていたよね。はい、HPポーション。」

「【フレア】!!たしかに、そんな感じのことを言っていたかも。聖書にも書いてあったわ。」 


 地形を変えるような大魔法を使用している佐藤さんは、涼しい顔でそう言う。


『……俺様の名前は、[火の化身]にして、[閉じる者]。ロキ様だァ!!お前らの足りねえ脳みそと緊張感に刻み込め!!』


 何を言っても無駄だと判断したのか、悪魔、もといロキは鋭い爪を翻し、こちらへ詰め寄ってくる。


「【プロミネンス】」


 ズガァァァァン!!


『甘ェ!!俺様は[火の化身]だ!!そんなぬりィ火魔法が効くかよ!』


 ロキはそう嗤うと鋭い爪で佐藤さんを切り刻もうとする。かなりのスピードだ。

 が、佐藤さんはそれを見切って、一歩下がることで回避する。


 ひゅっ


 爪が空を切る。ロキが次の一手を打つ前に、私は、生成したそれをロキに投げつけた。


 バシャッ ジュワァ


『あっづ!!痛え!!』


 ロキはそれをまともに浴びた。

 服と皮膚とが溶けて白い煙をあげる。


「HCI、塩酸ね。」


 私がそうどや顔をすると、佐藤さんがぼそりと、


「……酷いことするわね。」


 と言ってきた。


「『お前(佐藤さん)には言われたくない。』」


 つい口から出てしまった言葉が、ロキと被る。

 一瞬だけ、ロキと目があった。


____何だろう。悪魔でさえなければ、いい友達になれる気がする。


 そんなことを考えていると、佐藤さんが杖をロキの方につき出した。たしか、詠唱の構えだっけ。


「彼の者の命の灯火をその圧倒的な水で掻き消せ。」


『お、おいおい、待て、その詠唱……』


 詠唱の一節を聞いたロキの顔が一瞬で真っ青になる。


____詠唱破棄が基本の佐藤さんが詠唱?


 疑問に思う私。

 慌てて繰り出そうとしてきた攻撃でさらした無防備なロキの背中に、私はまた、生成した塩酸をかける。

 一瞬だけ痛みで顔をしかめたロキ。

 その一瞬が命取りだった。


「【ダイダルウェイブ】!」



____さて、ここで、位置関係を整理しておこう。


 まずは、ロキの方に杖を向けている佐藤さん。

 杖を向けられたロキ。

 そのロキの背中に塩酸をかけた私。


 賢い人なら分かるだろう。このあと、何が起きたかを。


 ザサザザザザアアアアアアア!!


 圧倒的な質量と水かさの大津波が、ロキと私の方にやってくる。


『三千年前に封印されるときに使われたやつぅぅぅぅう!!!』

「嘘ォォォォオオ!!!」


 悲鳴を上げる私とロキ。


 ____魔法を使うときには、方向と周囲の環境をしっかりとみてから使いましょう。


 クリストさんの魔法の授業が一瞬だけ頭をよぎり、私の意識は、この部屋と同じく真っ白になった。

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