第13話 SANチェック!!

 図書館で探そうと思っていたのは、装備品に関する本だ。


 具体的には、鎧の可動域と、生身にならざるを得ないところを探したい。


 薬を使うとき、『飲む』という動作だと、どうしてもワンテンポ遅れてしまう。先日の朝井くんとの競争も、『飲む』という動作が削れていれば、勝敗はわからなかった。……いや、私は20周だったから、負けるんだけどね。


 そのため、注射のような薬が作れたら、と思っているのだ。


 注射器であれば、相手に使うときに、わざわざ飲んでもらう必要がない。


 口のなかにあらかじめ入れておく、というのも考えたが、運動しているときは案外、奥歯を噛み締めていたりもする。舌のうらは、気になって戦闘に集中できないだろう。


 後は、一種類の薬しか口のなかには入れられないという欠点もある。HPやMP、異常状態を全て一気に治せる薬を作るには、材料もMPも足りない。


 そう考えて、錬金術師の宮藤くんに注射器を何本か作ってもらった。

 が、問題はここで発生した。


 あれ?鎧があるから、注射器を打てなくね?


 城にいる騎士さんはみな、フルプレートの鎧を装備している。鉄の上からは、当然打てない。

 城の人が着ているのだから、私たちの誰かも装備するのだろう。


 せっかく注射器を作ってもらったのだから、上手く利用したい。そう考えて図書館に来たのだ。


 私は叫んでいない司書さんに声をかけ、本を探してもらう。


 少し薄い本を受け取って、私は席についた。


 右隣の席には、佐藤さんがいくつかの魔導書を山積みにして読んでいる。


 しばらくはもくもくと読んでいた私たちだったが、ふと、佐藤さんが口を開いた。


「ねえ、この本の表紙、読める?」

「ん?魔導書グリモワールって書いてあるように見えるけど。」


 見せてきたのは、一冊の魔導書。厚さは7センチほどで、金銀で美しく装飾されている。すごくお値段が張りそうだ。

 ただし、よくみると表紙に血液がベッタリと付着している。何事?


「というか、こんな本、本棚にあった?」

「禁書庫にあった。」

「……入ったの?」

松本まつもと きよし君に頼んだら、入れてくれた。ただ、彼が、この本は気をつけてって言っていた。」


 何て本を持ってきたんだ。というか、そんな本を私に見せないでくれよ。


「えーっと、何?読んだらSAN値直葬さんちちょくそうするとか?」

「うん。精神汚濁耐性がないと、一ページ読むだけで新鮮な発狂者ができるわよ。」

「本気でそんなもん見せないでくんない!?」


 私がそう突っ込むと、佐藤さんはそっと目をそらして、本を開く。

 中には何やら読めない文字列と、知識がなくても禍々しいと分かる魔方陣。


「……何これ。」

「人の命を触媒にする呪文ね。非効率にも程があるわ。」

「効率の問題?」


 私は自分の読書を再開する。

 これ以上一緒に読んでいたら、SANチェックが始まってしまいそうだ。


 数分間、お互いに読書をしていると、先程と同じように、ふと、佐藤さんが口を開いた。


「ねえ、これ、読める?」

「え?……何かの呪文みたいだけれど……。」

「これだけ、筆跡が違うの。まるで、誰かが書き込んだみたい。」


 佐藤さんはそう言って、ページをめくる。

 次のページは……白紙だった。

 それをみた瞬間、嫌な予感がする。


 そして、その予感は当たっていた。



 気がつくと、私は、佐藤さんと共に、真っ白な空間にいた。

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