第5話 閑話 嶋崎 茜

 私には、親友と呼べる人がいる。


 その人は、ちょっと……いや、底抜けのアホで、ちょっと……いや、かなりずれている。

 見た目にも無頓着で、ほんのり茶色がかった髪の毛を肩まで適当に伸ばしている。顔は別に悪くもないのに、手入れを適当にしているせいで、本当に「モブ顔」だ。もっとちゃんとすれば、もっと可愛くなるだろうに……。


 そんな、頭も顔も残念な友人だけれども、すごくいい人だ。


 凄まじいプラス思考とポジティブさを持ち合わせ、笑顔が耐えることはほとんどない。


 一緒にいて、すごく安心できるのだ。


 まあ、出会いは結構悪かったりするのだけれども。




 私と彼女との出会いは、中学校の入学式だった。

 小学校では私は、ちょっと嫌われていた。


 理由は、私自身よくわかっている。

 どうしても、厳しい口調をしてしまうのだ。だらしないことをしている男子が許せない。こっそり隠れて悪いことをしている女子が許せない。


「そんなことしちゃダメだよ。」

「何で〇〇ちゃんの悪口を言うの?」


 そんなことを言っていた私は、周りの人に敬遠されがちになった。

 厳格な両親に育てられ、兄を見習い、祖父の道場で剣道を学んでいた私は、自分に厳しくしていたのだが、他人にも厳しくなっていたのだ。


「嶋崎さんって、怖いよね。」

「うん。いちいちうるさいし。」


 いつの間にか、私には、『怖い人』と言うイメージがつきまとうようになっていた。

 けれども、私は気にしていなかった。


 だって、正しいのは、私だったから。

 だって、一緒にいなくても、別によかったから。


 そんな私には、『親友』なんていなかった。

 必要ないと、思うようになっていた。


 小学校を卒業して、中学校の入学式。


 初めて会った彼女は、クラス発表の紙の前でぽかんと口を開けて突っ立っていた。


__遅刻しそうね。

「あなた、そんなところに突っ立っていないで、教室に入ったら?」


 私は思わず、そんなことを言ってしまう。


__もっと優しく言えばよかったかしら?


 はっとした彼女は、反省していた私に、こう言った。


「あっ!ごめん!!」

「……え?」


 ありがとう、と、言われたのだ。きついことを言った私に。

 彼女はそう言って教室に行った。


 その時のことをあとあと彼女自身に聞いたところ、

「え?遅刻しそうだったからでしょ?関係ないと思っている人だったら、わざわざ注意なんてしないじゃん。」

 と言って見せた。


 その時から、私は変われた。


 抜けた親友に注意をする過程で、言い方を改めることができるようになった。親友と話をすることで、他者の考え方の違いを理解できた。


 もし彼女がいなかったら、今の私はどうなっていたのだろう。

 きっと、自分の『正しさ』に酔いしれるようになっていたのではないのだろうか。


 親友のおかげで、私は人気者になれた。人との接し方を変えることで、友達もたくさんできた。


 毎日に、色がつくようになった。親友には、感謝してもしきれない。






 そんな親友だけど____でも、これだけは言わせて。

 宿題は、提出日にやるものじゃないから。もっと早めに終わらせるようにしてね。のの。

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