第五章 デビュー

第五章 デビュー

「お、ありがとうございます!俺が一生懸命研究してやっと作った試作品です。とにかく、在庫だらけの着物たちがあまりにもかわいそうだったんで、何とかしてきてもらおうと試作しました。」

と、でかい声で聰が多香子の言葉に答えた。

「在庫だらけ?ですか?」

思わず、聞いてしまう。

「そうなんですよ。いろんな方面で売り出しましたが全部だめでした。まず、大手の着物屋では銘仙なんて扱うところも少ないし。売れても、銘仙とばれてしまえばすぐ返品されちゃって、在庫の八割は二度も三度も買われてはすぐに戻されます。もう、林家木久扇さんの、木久蔵ラーメンが現実になったみたい。」

「それを言ったらいけないよ。だけど、確かに販売されても返品ばかりというのは、ある意味しょうがないかもね。みんな歴史的な事情を知ったら、水穂ちゃんには失礼だけど、やっぱり嫌になるよ。」

聰が現状を伝えると、恵子さんがそう解説してくれた。多香子はよく理解できなかった。

「だからね、ブッチャーさ、着物販売店と名乗るところに売り出しても、そういうところは、金持ちばっかり来るんだからさ、大体金持ちは、銘仙に偏見持っている人ばっかだよ。」

「すみません。だって着物の種類だって全くわからないで商売を始めちゃったんで。機屋さんとして認めてもらって、自分で織れるようにもなりましたから、よし、商売をしようと思いついたんですけどね、だってね、着物の使い方の本なんて、著者によって見解が分かれすぎていて、一定しないんですよ。」

「あ、そうかもしれませんね。まあこれは教授のほうが詳しいと思うんですが、昔ながらの着物のルールを明記した本はずいぶん少なくなっていますし、新しいルールを提唱する本ばかりで、本来のルールを学びなおそうと思うと、わけがわからなくなると思います。」

確かに水穂の言う通り、多香子だって着物のルールはよくわからないというのが実情だ。

「でもですね、水穂さん。どの文献でも銘仙が最下位という事だけは変わらないようですね。そして、どの着物屋も口をそろえてそう言います。まあ、中には新しい着方を提案する本もあるようですが。」

聰は「銘仙の実情」を言った。

「まあ、多かれ少なかれ、そういう本は、上からのお咎めで出版禁止になるんじゃないかな。中には細々と販売をやっている店もありますが、そういう店は大体大手の着付け教室を破門されるとか、共通する経緯をたどってますよ。」

「破門かあ。なんか立川談志みたいですね。」

「いや、談志さんみたいに、面白い事をすればいいの。ああいう個性的な人のほうが絶対に印象に残る!」

「恵子さんらしいですね。ああいう面白い人が好きだったんですか。」

「当り前じゃない。面白いひとは生前苦労することが多いの。あたし、一度見たけどさ、意外にあのひと面白かったよ。辛口評価の多い落語家だけど。まあ、もちろん一番面白いのは、正統派の桂歌丸師匠なんだけど。」

「出た出た。恵子さんの桂歌丸師匠が始まると長い。」

いったい何のことだと思ったが、まさしくその通り。テレビ番組笑点の事から始まって、古典落語の演目を上げて、延々と歌丸師匠の話をするのである。

まあ、じつを言うとこれ、無理のない話だ。毎日毎日朝昼晩と利用者たちのご飯を作り続けてきた恵子さんは、どこかに出かけるとか、そういう暇はほとんどないので、娯楽と言えばお笑い番組を見るしかない。まあ、テレビを見る暇さえもないので、時折歌丸師匠のCDを大音量で流しながら食事を作っていたことも多い。時には落語で登場したメニューをそのまま再現したこともある。たまに給仕係を雇ったこともあったが、いずれも短期間でやめており、製鉄所の食事を作り続けたのは一貫して恵子さんであったので、恵子さんの悪趣味は多くの利用者や、懍さえも黙認していた。古典落語に限定してしまったのは、最近のお笑いは、わけがわからないので、筋が通っている古典のほうが、よほど楽しいから、である。その名人と言われていた歌丸師匠が大好きなのだった。

いつまでたってもストップしないで話を続ける彼女に、水穂も相槌を打って聞いている。多香子はそれが心配でしょうがない。なんだか須藤聰が、恵子さんの話を助長しているように見える。まあ楽しそうだからいいのかなと思うのだが、水穂がちょっと失礼と言って、軽くせき込んだところに割って入り、

「もう、いつまでもくだらないことしゃべってないで、少し休ませてやってください!」

と、強く言った。

「あらごめん。皆楽しそうだから、止めないほうがいいと思ってさ。水穂ちゃんだって、こういう面白い話は、なかなか聞けないんだから、いいんじゃないの?」

のんきな顔して答える恵子さんに、さらに腹が立つ。

「だ、だけど、体のことも考えてあげないと。」

「いいんです、いいんです。落語というのは、口にしただけで夢の世界に連れて行ってくれますよ。その代表選手ですよ。桂歌丸さんは。」

水穂も、笑ってそう返したが、言っているそばからせき込んでしまったので、

「かわいそうじゃないですか。少し寝かせてあげてくださいよ。」

とにかく心配でしょうがない多香子は、それしか言えなかった。

「だから、かわいそうでも何でもないです。僕らにとって、こういう時間を持つことも本当に必要なんですよ。災害でも起こればたぶんこの重要性がわかると思いますよ。」

「俺、悪いことしちゃったかな。」

聰が申し訳なさそうに言った。

「まあ、そうね。あたしもはしゃぎすぎちゃったかも。久しぶりにブッチャーと会えたから、なんかうれしくてさ、ついしゃべっちゃった。」

恵子さんはやっと反省してくれた。

「でも、今の話で、無駄なことはありませんでした。桂歌丸師匠も、ちょっと変わり者とされた立川談志師匠も、銘仙について全く言及しなかったことはわかりました。そこからヒント貰おうと思っていたのですが、それはできないことがわかりました。」

「えらいよブッチャー。そうやってちゃんと学ぼうとしていることがあるじゃん。」

又恵子さんが調子に乗って、聰の肩をたたく。

「はい、落語から、宣伝文句を取ろうと思いましたが、それは無理ですね。でも、いつまでも落ち込んではいられません。もう一度考え直してみます。」

確かに日本の伝統的な着物なのに、そういう古典的な芸能に登場しないのもおかしいが、多香子はそれよりも、水穂さんが疲れて倒れてしまうのではないかということばかり気にしていた。

「頭をすぐ切り替えようとして、辛い思いをしなくてもいいのよ。嫌なら、ここで思いっきり愚痴って頂戴。あたしたち、なんぼでも聞いてあげるから。」

「もう、恵子さんも、話を長くしないでもらえますか。いつまでもこんなことに付き合わされたら。」

「いや、成り行きのほうが、僕が久しぶりの訪問をぶち壊したことにならないで済みます。」

水穂は、自分が悪いとでも言いたげにそういったが、

「だって、お体が一番大切では?」

と、そればかりを強調する多香子。聰と恵子さんは、まだ話を続けたいようだが、、、。

「仕方ないですね。お話は、外ですることにします。俺は正直に言いますと、こっちにきて聞いてもらいたい話がないわけではありませんでした、、、。」

「まあまあ、人間であればだれだってそうよ。青柳先生みたいにすぐに頭を切り替えられるのは、ある意味超人なんだし、年を取ってからでないとできないって。ま、とりあえず、食堂に行って二人でしゃべろうか。」

思わず本音を漏らして落ち込む聰に、恵子さんがそう提案してくれた。

「だれだってそうじゃなくて、そうしなきゃいけないんですよ。」

「強い手伝い人さんだな。」

多香子が又語勢を強くして言うので、聰はさらにがっかりする。

「あーら、あたしじゃダメ?」

「すみません。恵子さん。じゃあ俺、その通りにします。」

「そうしてください!」

やっと邪魔者が出て行ってくれる。というより、本当に常識のない人たちだなと思う。

「はい。」

聰と恵子さんは立ち上がってふすまを開け、食堂へ行ってしまった。二人が文句言いながらふすまを閉めるのを見届けると、水穂はちょっと寂しそうにため息をついた。

「水穂さん大丈夫ですか。なんだか、本当は起こさないほうがよかったのでは?」

「いや、構わないですけどね。彼がやってくるのはたまにしかないので。」

多香子はやっと邪魔者が消えてくれたと思ったが、水穂は違う感情を持っているようである。

「もう、そんな悠長なこと言ってないで、横になってください。せっかく止血剤飲んだのに、これでは台無しです。」

「はい。」

素直にそうなってくれた。多香子は自分の娘にしていたように、上からかけ布団をかけてやった。

時折、奥の食堂から、中年の女性と若い男の楽しそうな会話が聞こえてきた。やっぱり、歌丸師匠の話がまだ続くのか。

「もう、うるさいならやめさせましょうか。」

「いえ、そのままにしていてくれますか。次に彼の話を聞ける可能性は果たしてあるのか、わかりませんから。」

横になったまま、水穂がそうつぶやいたので、多香子はそういう理由もあったかと、ある意味衝撃に近い気持ちになった。

「ごめんなさい。そうだったんですか。それなのにあたしときたら、」

「いや、気にしなくていいですよ。たぶん教授も、同じことを言うと思いますから。」

そういってくれたけど、なんて悪いことをしてしまったんだろうなと多香子は後悔してしまう。

「あたし、とにかくお体が心配で仕方なくて、どうしてもそればかり考えてしまって。」

「そうですよね。子育てをしていたらそうなっても仕方ないですよ。まあ、それを矯正するのは難しいかもしれませんが、心配ばかりに囚われていたら、相手が負担に思うこともよくありますよね。」

「そうね。私はやっぱり駄目だわ。だから娘も救えなかったのかも。こうして、相手の人が何をほしいのかなんて全くわからないで、よけいな心配ばかりしているんだもの。娘にしてみればいい迷惑なだけで、自分の本当に欲しいものは提供してくれなかったんだもの。ほんと、私、なんでそういうことができないんだろ。それが娘の出してくれた答えということなのかしら。」

思わず、一人でそんなことをつぶやいてしまうが、反応は返ってこなかった。

布団のほうを見てみると、水穂は静かに眠ってしまっていた。また薬が回ってしまったのだろう。本当は、あの二人のしゃべっているのを聞いていたかっただろうになと思うと、辛くてならなかった。

もしかして、あっちゃん、貴女もこういう風に余計なことされていやだった?

ごめんね。ママは、ずいぶんあっちゃんが求めていたことと外れていたね。

だから、ママがそっちへ行こうと思った時、あっちゃんは嫌だったの?余計なことを言われるのがいやだったから?あっちゃん、貴女は他人を通して、ママにそう伝えているんだ。

じゃあ、そうするしかないか。あっちゃん。

多香子は立ち上がって、食堂に行った。

食堂では、恵子さんと、聰の話が続いている。

「あの、すみません。」

「あら、どうしたの?」

「須藤さんでしたっけ。明日はどうされるおつもりですか?」

「いや、俺のことはブッチャーで結構ですよ。本当に俺、それのほうが今はよくなってしまいましたんで!明日はとりあえず、会社に戻りますよ。」

「今日は製鉄所に泊っていく?」

恵子さんが提案すると、聰はタクシーで帰ると言った。

「でも、いまはもう遅くなるから、泊ってあげてくれませんか。水穂さん、明日まで目を覚まさないと思いますから。」

恵子さんの発言に急いで多香子も同調する。

「そうよ。深夜のタクシー料金高くなるわよ。それに、あんたの所からじゃ、深夜料金だって、馬鹿にならないでしょ。」

「あ、そうですね。でも、今空いている部屋ありますかね。」

「ええ。幸い、今は世の中安定なのか、利用者は少ないわよ。」

「じゃあ、お言葉に甘えてそうしようかな。」

聰が言うと、

「わかった。じゃあ、明日朝ご飯余分に作っておく。」

恵子さんが決定打を出してくれた。多香子はこれで、あっちゃんが発信していた課題をクリアすることができたのではないかと思った。

翌日。昨日眠ったのがよかったのか、水穂も少し元気になったようだ。聰が、杉ちゃんの家に訪問に行きたいのだが、と発言すると、水穂も行くと言った。二人だけでは心配な多香子は、自身もついていくことにした。なぜか、彼がどこかに行こうと発言すると、とても心配になって、付いていきたくなってしまうのだ。それを利用者たちが、中年おばさんの恋か?なんて噂していた。

「今日は顔色よさそうで、安心しました。昨日はなんだかごめんなさい。」

移動するタクシーの中で、多香子は水穂に謝罪する。

「構いません。それで回復できたので、よかったことにします。」

そう思ってくれるのなら、あまり気にしていないのか。

「はい、着きましたよ。このお宅で間違いないですか。ご確認お願いします。」

ある一軒家の前でタクシーが停車した。

「そうそう。杉ちゃんのお宅です。まさしくここですよ。また帰りも呼び出しますので、よろしくお願いします。」

聰が、タクシーにお金を払って、外に出て、杉三の家のドアをたたいた。

「はいよ。入んな!」

威勢のいい声が聞こえて、聰は中に入った。水穂も多香子に手を引いてもらって、中に入っていく。

ドアを開けると、全員食堂に通された。蘭に促されて、テーブルに座ると、杉三が淹れたお茶がでんと置かれる。

「杉ちゃんお久しぶり!」

「おう、ブッチャー。元気そうで何よりだよ。それにしても痩せたな。」

「そうなんだよ。着物で生活するようになって、八キロもやせちゃったよ。ま、細身のほうがかっこいいよな。そうだろう?」

「いや、まだ努力が足りない。もっと見かけを研究して格好良くなれ。」

「で、今日はどうしたんだ?」

と、蘭が聞くと、

「昨日、水穂さんにも見せたんだが、銘仙の着物が何をやっても売れないので、売れるにはどうしたらいいか考えたところ、着付けを簡単にすればいいと思って、簡単に着れる着物を作ってみた。その試作品を持ってきたんだよ。」

聰は、昨日と同じ着物をテーブルの上に置いた。

「そうだよな。確かに着物は着付けが面倒だよな。それを解消出来たら、すごい発明品になるよ。簡単に付けられる帯はよくあるが、着物はなかなかないよね。」

蘭は、置かれた着物をしげしげと見つめた。

「何だこれ。ただおは処理を縫って、紐をつけただけじゃん。」

杉三が種明かしをしたため、みな吹き出してしまう。

「それをしただけでは、発明品とは言わないんじゃないか。」

「いや、あらかじめ縫ってあるのとないのとでは、お客さんの飛びつき方も違うと思う。いくら、直せる方法を紹介しても、もの好きな人でなければ、自分で取り組もうとはしない。」

確かに、なかなか自分でお直しにチャレンジしようという人は、よほど手芸が好きな人でなければいないだろう。

「で、お願いなんだがね、昨日恵子さんたちにもお願いしようと思ったのだが、時間がなくて言えなかったし、忙しいから無理だなと思い直した。じゃあ、君のお母さんなんかにお願いできないかな。この簡単に着れる着物がいかに簡単なのか知ってもらうために、だれかに着てもらって、レポートを送ってほしいんだ。」

「ああなるほど。つまりモデルになってくれということか。じゃあ、中年のおばさんじゃなくて、若い美女を探せ。」

聰がそう話すと、杉三がすぐに口を挟んだ。

「いや、若い美女は、着物自体を知らないから、今まで着ていた人に、これくらい簡単だとアピールしてもらうほうがいいんだよ。」

「なるほど。そうなると、中年の人のほうがある程度着物に慣れているか。でも、最近は、着物を知らない中年女性も結構いる。その人に、初めて着てみた感想を書かせるのも悪くないと思う。」

不意に水穂がそう付け加えた。確かに、これまで着物なんかまったく着たことはなかったが、生活に余裕ができて、着てみたいと思うようになったという中高年の女性も少なくなかった。

「じゃあ、両方書かせるようにしよう。そういうレポートは多ければ多いほどいいだろう。初めての人も簡単に着れて、ベテランでも大満足ってなれば、必ず飛びつくだろう。」

「しかし杉ちゃん。悪いけど、この時期、会社は本当に忙しいよ。秋の俳句会なんかに使ったり、お寺で写経大会に使いたいとか言って、注文が沢山入るんだ。一応、お母さんに、協力してもらうように言ってみるけどさ。すぐに答えは来ないと思うぞ。」

蘭が残念そうに言った。確かに秋は、芸術の秋と言われるだけあって、檀紙を使う人が多くなる。

「じゃあ、とりあえず、すぐにモニターになってくれる人はいないかな?杉ちゃんのお母さんは?」

「いや、僕の母ちゃんも出張ばかりだしな。」

「みんな忙しいのか。」

聰は落胆の顔をしたが、

「あたしでは、ダメでしょうか。もしよければ、立候補しますよ。」

不意に、水穂の隣に座っていた多香子が言う。

「え、ほんと!ぜひなっていただきたいです!まあ、貧乏会社なので大したモニター料も払えませんが!」

思わず興奮する聰に、

「モニター料なんていらないわよ。着物の種類どころか、着方もわからないおバカさんだもの。」

急いで多香子はそういった。

「でも、一応契約なんだから、お金は払わなければ。」

「いいえ、無料奉仕よ。お金なら、製鉄所で働かせてもらっているからいいわ。それよりどうやって着るの?」

「どうやって着るって実に単純素朴だ。おは処理縫ってあるだけなんだから。」

杉三がそういうが、おは処理のこともわからないのであった。

「とりあえず羽織ってみてください。ちょっと俺がお手本を見せますから、二回目はご自身でやってみてくれますか?」

「はい。」

聰の指示で多香子は立ち上がった。テーブルの上に置いてある着物を取って、それなりに羽織ってみる。聰が、その体に紐を回し、一度着せてくれてお手本を見せてくれた。

「お、似合うな。意外に中年でもかわいくなるな。」

杉三が冗談を言うと、蘭が肘で彼を突いた。

「じゃあ、次はご自身でやってみてくれますか。おそらく、ガウンとかバスローブと同じ原理で着れると思うんですよ。」

聰は一度着物を脱がせて、今度は別の試作品をもう一度はおらせた。ガウンと同じ、にヒントを得て、その通りに着てみる。

「ちゃんとなっているじゃないか。まあ、衣文抜きはあんまり拘り過ぎると、着物離れの原因になるからな。拘り過ぎず、気軽に着れるよ。おは処理縫っておけば。」

「うん。これなら、確かにちょっと着てみようかなっていう気にはなりそうだね。それに、銘仙はかわいいし。」

杉三と蘭がそんなことを言い合っているが、

「お似合いですよ。」

という、水穂からもらった感想が一番うれしかった。

「すぐに着れただけじゃだめだよな。それを着て、どれくらい楽しかったのかを書かなくちゃ。最近は着物って不便だ不便だばっかり言っている人が多いから、それは絶対にないぞというアピールも必要だぜ。」

確かにそれもそうだ。着物に対して、日本人であっても苦手意識を持っている人は本当に多い。

「そうだね。確かに杉ちゃんの言うとおりだ。じゃあ、実験的に、着物で一日観光名所に行ってもらおう。でも、富士市にいい観光地はあったっけ?」

蘭がそういうと、みんな一瞬黙ってしまう。それほど、富士市は良いところがない。

「曽我寺。」

「杉ちゃん、曽我兄弟の墓所か?なんか縁起わるいな。」

「大石寺なんかは?桜の代わりに紅葉が出るんじゃないかな。」

水穂がそう提案する。でも、紅葉を見に行くにはまだ早すぎる。

「じゃあ、こうしよう。大石寺の法話会に参加してもらう。それでどう?誰でも入れる行事もあるようだよ。」

さすが杉三。仏道関係の行事には結構詳しい。多香子は少し躊躇するが、

「あ、なるほどね。それもいいかもしれないね。最近は観光がてらに法話を聞く人も多いようだしね。ああいうものはためになるし、役に立たないことはないよ。」

水穂さんに言われてはいかなきゃなと思い直した。

「どうもありがとう!じゃあ、日付を決めて、モニターになってください!」

聰が改めて礼をする。

「なるほど、ついに着物デビューか。」

杉三が笑って言った。


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