第4話
落ち着きを取り戻した美月と正対する。僕の前で泣いたことが恥ずかしかったのか、ばつの悪そうに上目遣いで様子を窺っている。
結局、夢は現実に置き換わってはいなかった。
僕らはお互いに、『相手が現実を認識していなくて、夢の中での出来事を現実だと思い込んでいる』と勘違いしていたのだ。
全く同じ夢を見て、騙し合っていたからこそ起きた奇跡だった。
「一つ、確認させて」
美月は大きく深呼吸すると、
「陸はすぐ怒ったり、拗ねたりする私でも好きでいてくれるの?」
「うん」
ぼっ、と音がするかと思うほど瞬間的に顔を赤くした彼女に気をよくした僕は、
「美月こそ僕のこと本当に好きなの?」
「私は陸が思っている以上に陸のことが好きだよ」
とてつもないカウンターを食らった。
ひとしきり照れ合ったところで、どちらからともなく目が合う。
お互いに何かを期待するように見つめ合い、徐々に距離が縮まっていき――唇が軽く触れた。
「改めて、よろしくね」
満面の笑みを浮かべる彼女に、僕は見惚れるしかなかった。
改めて二人の気持ちを確かめ合ってから、僕らは夢を見なくなった。
それはもう必要のないものだからかもしれない。
思春期症候群を発症した理由はおそらく、お互いに強い想いを抱いていたからだろう。
素直になれない美月と、思い切れない僕に奇跡が起こった――なんて言い方はおこがましいかもしれないが、おかげで理想の結末にたどり着けた。
美月にこのことを話したら『クサすぎる』と一蹴されてしまったが、起きたことそのものについては満更でもなさそうだった。
思春期症候群――病名のように名付けられたこの現象は、願いや想いを叶えたい人間に起こるものなのだろうと僕は思う。
直感だが、きっと悪いものではなくむしろ良いものなのだろう。そして多くの思春期同志に奇跡を与える、そんな気がするんだ。
「陸ー、次はジェットコースター行くよ!」
跳ねるように先を行く美月が眩しい。
これからも衝突することはあるだろうが、これまでの経験が僕たちを救うだろう。
(一生感謝しなくちゃいけないな)
そんなことを思いながら彼女を追いかけた。
青春ブタ野郎は正夢を見ない @suisei_s
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